「たかふみぃ〜、おっき!! ねぇ、起きて!!」
俺が目を覚ますと、モコが心配そうに俺を覗き込んでいる。
「あれ……、俺……」
頭がボーッとする。
「でっかい蜂さん倒した!!」
あ、そうだ。 めちゃくちゃキモくてデカい奴がいたんだっけ……。
「えっ、モコが倒したの? そのまんまの姿で?」
「うん!!」
そうなんだ……。
「あ、ジョシュアは……?」
ちょっとまっててー、とモコがとてちてとジョシュアを起こしに行くと、「ゔゔ……」と片手で頭を押さえながらジョシュアは上半身を起こした。
「ジョシュア、おっき?」
「あぁ……」
「ジョシュア君、大丈夫? 迎えに来たよ」
俺はまるで何事も無かったようにスマートに問いかけた。
「……。 やっぱりアンタが来たんだね」
可愛くねぇな。
「ねぇ、なんであんな扉の前で寝てたの? なんかあったの?」
俺は少し意地悪をした。
「別に……」
なんで生意気な奴って、みんな「別に……」って言うんだろうな。
「ジョシュア君は、あの扉ってひらいたの? 中に居た奴見た?」
「……。 いや……」
「あのねぇ、モコがね、お部屋の中にいたやつやっちゅけた!!」
「えっ? モコがクイーンビー倒したのか!?」
ジョシュアが目を丸くして驚いている。
フフン、やはりな。 クイーンビーがいることを知っているということは、お前もドアを開けたっていうことじゃないか……!!
「じゃあ、ジョシュア君もドア開けたんだね?」
「……」
ジョシュアがふてぶてしくも気まずそうにしている。
「……っていうかさ、あんたこそ何やってたんだよ。 モコがアイツを倒してるあいだ」
あっ……。
するとすかさずモコが、
「あのねぇ、たかふみはね、怖くてねんねしちゃったの!」
と言った。
ジョシュアは俺と自分と同じだからか、特にツッコむこともなく気まずい時間が流れた。
「ねぇ〜、こっち!!」
その空気を壊すように、モコが俺とジョシュアの手を取り、部屋の中へ連れていく。
その光景はまさに地獄のようだった。 どデカい蜂が死んでいる。
「ヒッ……」
「ゔっ……」
俺とジョシュアはまた卒倒しかけ、押し合いへしあいしながらドアの外に逃げた。
「これ、どうしゅるの?」
え……、いらない……。
「……。 早くあんたのアイテムボックス入れなよ」
「はぁ!? いらねぇだろ!? こんなん!」
俺はついに本性が出て、強い口調になる。
「あのさぁ、クイーンビーはBランクだから素材の需要があるわけ。 さっさと入れなよ、気持ち悪い」
「いや、ジョシュア君が入れろよ! なんで俺がそんなもん入れなきゃなんないんだよ!? 触れねぇだろ!? こんなん!」
「ぷッ……。 ダッサ」
ううん〜〜、コイツ……。
それから俺とジョシュアのバカバカしい口論は続き、その間にモコはドロップアイテムの回収をしてくれていた。 それからしばらく口論が続いたあと、ジョシュアが根負けした。
「ったく……。 分かったよ、俺が魔法であんたのアイテムボックスに入れてやるから、さっさと開きな」
「え? 出来るの?」
「それくらい、出来るよ……」
なぜかジョシュアは引きつった顔をしている。 出来るんならさっさとやれやと思いながら、俺はアイテムボックスを開いた。
ジョシュアは両手を突き出し、クイーンビーに向けた。 するとクイーンビーの死体が浮き、俺たち、というか俺とジョシュアの間に開いていたアイテムボックスに向かって近づいてくる。
ジョシュアはコレが怖かったんだな……。 分かる、分かるぞ!! すげぇ怖い!!
ビビっているせいか、随分とスピードが遅い。 遅いということは、それだけ恐怖を感じる時間が長いということだ。
「早く! 早くしろって!」
と俺が言うと、
「……、うるさいなぁ!! 俺だって気持ち悪いんだよ!」
ジョシュアが怒鳴る。 モコはその姿が面白いのか、ケラケラ笑っている。 笑い事じゃねぇよ……。
俺とジョシュアはあまりの気持ち悪さに目を逸らすことが出来なくなり、凝視してしまう。 遂に俺のアイテムボックスにクイーンビー入りかけ、一番俺たちに近づいた瞬間、恐怖で二人同時にまた倒れた。
目が覚めると、そこは森の入り口だった。 モコが倒れた俺とジョシュアがクリスタルの柱に触れさせ、ここまで運んできたらしい。
「モコ、もうちゅかれた……」
モコがぐったりしている。
「あぁ、モコ、ごめんな……」
「ねぇ、俺、腹減ってるんだけど」
ジョシュアも起きてきたようだ。 っていうか、図々しいな……。 それにしても、もう夜の九時だし腹が減るのは当たり前か……。
「ねぇ、オークがいたでしょ? 俺、オーク食いたいんだけど」
「モコもたべたい……」
オークを食べたことがないモコも同意する。
「あぁ、いや、食べさせてあげたいんだけど、俺、解体出来ないし……」
「じゃあ、俺がやるから一匹出して」
俺はアイテムボックスからオークを一匹取り出すと、目を見張る速さでジョシュアは肉の部分を切り分けた。
「ジョシュア、しゅご〜い」
「……。 親父に習ったから……」
「ねぇジョシュア君、この肉って美味しいの?」
「……。 あんた、オークの味も知らないわけ? オーガと似てるけど、オークの方が旨い」
あぁ、豚肉か……。 どうしようかな。 モコもジョシュアも疲れきってるし、何かスタミナ付くようなもの……。
そうだ、トンカツにしよう! 久々に俺も食いたいし!
まずはネットスーパーでパン粉と小麦粉、卵、とんかつソース、忘れちゃいけないキャベツと揚げ油を大量に買う。
それから俺は米を大量に炊き、オークの肉を贅沢な厚さに切って、準備する。
俺のとんかつは、肉に塩胡椒はしない。 こだわりな訳じゃないが、テレビで昔やってたのを真似してるだけ。 あとは大量の肉に小麦粉、パン粉、卵……の繰り返し。
あとは千切りキャベツだけど、どうも俺は昔から好きじゃなかった。 なのでキャベツは千切りではなく、ざく切り。 同じキャベツで何が違うのかと思うかもしれないけど、これが全く違う。 俺は千切りより美味いと思っている。
そうこうしているうちに、モコが空腹でヤバそうだ。
「出来たよ〜」
俺はご飯が炊き上がった段階で、今揚げ終わっているものから出すと、揚がったそばから無くなっていく。
あぁ、味噌汁作れば良かった……。 俺は追加でインスタント味噌汁を買い、さらにモコの食欲を刺激した。
結局ジョシュアもモコも食べまくり、俺は一人前も食べられなかった。
「はぁ……。 モコ、もうおなかいっぱい!!」
「今日も良く食べたね〜、モコ」
「うん!」
「……。 ねぇ、なんでモコってそんなに食べるの? おかしくない?」
あ、やべぇ。 なんか疲れでそこまで考えてる余裕なかった……。
「あぁ、えっと……、この子はちょっと特別っていうか……」
「……ふ〜ん? まぁいいけど。 そのうち分かることだろうし?」
え、何それ。 怖いんですけど……。
「モコ、ねんね……」
「そうだね、そろそろ帰ろっか」
俺たちは村へ帰り、ジョシュアはしこたまラウルさんに怒られた。
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