そこは大きな支流の川と小さな三本の川がぶつかる合流地点になっていて、それはそれは壮観だった。
川の色も地球とはまるで違う、エメラルドグリーンのような色をしている。
「うわぁ、しゅごいねぇ〜」
「そうだね〜」
俺はモコを肩車し、しばらくその圧巻の光景に見入ってしまった。
「ハヤシさん、どうですか? 見事でしょう?」
「そうですね、こんなに川を綺麗だと思ったのは初めてです」
テオドールさんはうんうんと頷く。 他愛のない雑談をしていると、ガサガサッと草が擦れる音がした。
「ん? なんかいる?」
俺は音のした方を見ると、1メートル位先に日本猿くらいの大きさのビーバーがいた。
「ビーバー!?」
俺が叫ぶと、モコも真似する。
「びーばー!」
「ハヤシさん、早く逃げて!!」
テオドールさんは、幌馬車の中で休憩していた売り子の男の子たちの元へさっさと逃げてしまった。
「それはアーヴァンクです! 殺されますよ!」
テオドールさんや男の子達は、顔面が真っ青になっている。
そのビーバーもといアーヴァンクは、青黒い色の体に、殺傷力の高そうな鋭い爪を持っていた。
「ギッギッーーー!!」
と何とも言えない声で威嚇してるが、どう見てもビーバーだ。
鑑定すると、Dランク。
「ファイヤーボール!」
アーヴァンクは素早く魔法を避けた。
「結構早いな……」
俺が魔法を放ったことでアーヴァンクは怒り狂い、奇声を発しながらモコを肩車している俺たちに向かって走り出す。
「ファイヤーボール! ファイヤーボール!」
何発打っても避けられる……。 アーヴァンクの俊敏さに俺は舌を巻いた。 テオドールさん達も不安そうに見ている。
ちょっと、俺一人だとDランクはキツいかも・・・。 かといって、モコを闘わせるのはテオドールさん達の手前、どうなんだ?
どうしようもないのでもう一度ファイヤーボールを放つと、肩車されていたモコが腕をぬっと出し、俺のファイヤーボールにモコのファイヤーボールを重ねてきた。
「!?」
それは俺のファイヤーボールとは比べられないほどの魔力と速さを持ち、アーヴァンクを瞬殺した。
「モコ……」
「たかふみ、勝手に魔法ちゅかってゴメンなさい」
「あぁ、いや……。 ありがとう、助かったよ」
モコはニコーーーっと笑った。
テオドールさん達が慌てて走り寄り、声を掛けてくる。
「凄いお強いんですね!」
「ハヤシさん、驚きましたよ! 初めは苦戦されていたので心配しましたが、凄い魔力じゃないですか!? も〜、出し惜しみしないでください!」
どうやらモコが魔力を足した所は見えていなかったようだった。
「いやぁ、アーヴァンクがいるとは……」
テオドールさんが驚いている。
「いつもは居ないんですか?」
「私は仕事柄この道は何度も通っていますが、ここでアーヴァンクを見たのは初めてです」
「そうなんですか」
「あれの性格は気が荒くって、人間さえ食い尽くすんですよ……」
怖ぇ……。
「いやぁ、でも、ハヤシさんがいらっしゃれば我々も安心ですな!」
「いやいや……」
まぁ、モコがいれば安心だな。
「ところでテオドールさん、これって食べれるんですか?」
「いやぁ、泥臭くって食べれたものじゃありませんよ!」
「へぇ〜」
「ただ、爪は魔法薬の材料になりますし、歯は人間の入れ歯の素材になるんです。 なので、回収された方が宜しいですよ」
「あぁ、分かりました」
「ではせっかくなので、この綺麗な景色を見ながら昼休憩にしましょうかね」
「あぁ、そうですね」
「ごはん! ごは〜〜ん!」
モコはいつもながら大喜びだ。
マリタまでは、馬車で約十日ほどの道のりの予定。 その間の食事は、テオドールさんにお世話にならない契約にした。
その理由はコレ。
俺たちのダンジョン攻略のかいがあって、チコルの村は食糧を俺と半々にしたとはいえ、今は潤沢にある。 でも、テオドールさん達も食糧を村で不足分を補ったので、俺たちの分まで村から買い取られないほうがいいかと思ったからだ。
俺たちはテオドールさん達からは少し離れた風下の場所で、いつものキッチングッズをモコのお手伝いのもと設置した。
「何がいいかな……。 なんか簡単なものがいいよな……」
基本的に俺は、こちらの世界のものをメインで食べていこうと思っている。 お金はあるとは言え、使っていればそのうち無くなるし、モコも大食漢だし、買ってばかりはいられないしね。
今はオーガとオークの豚肉仲間が沢山あるので、それを使うことにしよう。 あとはマタンゴもあるし、豚肉とキノコの炒めもの……、肉野菜炒めだな。
レシピサイトを見ると、色々あり過ぎて何を手本にしたらいいのかさっぱり分からなくなってきたので、某メーカーのペーストチューブにすることにした。
簡単だしね。
続いてネットスーパーで玉ねぎと人参、味の決め手のペーストチューブとごま油を買う。
キャベツはこの前のトンカツの時の残りがあるから、それを使おっと。
オーガとオークの肉は半々の割合で使うことにしたから、あとは適当にバラ肉っぽく薄く切る。
野菜は超適当なざく切り。
まずはごま油をひいたフライパンを温め、火の通りづらい人参、マタンゴ、肉、玉ねぎ、キャベツの順に適当に焼き、何となしに火が通ったら、ペーストチューブとにんにんチューブも入れ馴染ませる。
このにんにくチューブをプラスするのがポイント。
そして最後に火を強火にし、追いごま油を少量回し入れてなんちゃってフランベにしたら、出来上がり〜。
この肉野菜炒めをご飯に乗っけて、完成だ!
「モコ、出来たよ〜」
モコはにんにくの香りにうっとりしている。
「いたらきます!!」
「はい、どうぞ」
「うまい! うま〜い!!」
俺はモコのおかわり用の肉野菜炒めを大量に作りまくり、ようやくひと息ついてご飯にありつく。
「うまっ……」
「うまいねぇ〜、たかふみ!」
「モコ、さっきはたすけてくれてありがとね」
「うん!」
「でも、他の人に見られたら困るから……」
「らいじょうぶ! あのひとたちからは見えないって分かってたもん!」
この子、凄い……。
「ねぇ、たかふみぃ、これすっごく美味しい! モコ、これだいしゅき!」
モコはニッコリ笑って褒めてくれるが、ほっぺたが食べかすだらけだ。
俺が笑いながらモコの顔を拭いていると、聞き慣れた声がした。
「ねぇ、俺もお腹空いたんだけど」
恐る恐る振り返ると、予感的中。
そこには村で別れてきたはずのジョシュアがいた。
読み終わったら、ポイントを付けましょう!