異世界のんびり放浪譚

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第32話 哀しい過去

公開日時: 2022年3月31日(木) 20:07
文字数:1,976

「な、なにしてんの!?」

「ジョシュアだ〜」

 モコがジョシュアに駆け寄る。

「なにって、何が?」

 一体なんなんだコイツは……。

「いや、なんでここにいるの!?」

「……、別に」

 出た。

「別にってさぁ〜……。 ジョシュア様はなんでここにいるんですか?」

「ジョシュア様?」

「いや、……別に」

 うつった。

「とにかく、ジョシュア君はどうしてここにいるの!? キチンと説明して!」

「……。 村に居てもしょうがないから、ついてきただけ」

「モコ、ジョシュアがいるって分からなかったの?」

「う〜ん? 知ってたよ! でもジョシュアが教えちゃダメって!」

「いや、あのねぇ」

 俺たちの騒ぎを聞きつけ、テオドールさん達も様子を見に来た。

「あれ、ジョシュア君! どうしたの!?」

「……。 」

「おやまぁ、ついてきてしまったんですか。 全く気付きませんでしたよ……。 どうしましょうか。 我々も時間が無いので戻ることは出来ませんし、かと言って一人で帰す訳にも……」

「……」

 ジョシュアは不安そうに俺を見ている。 え、俺に頼られても困る……。

 その様子を見ていたテオドールさんが言った。

「しょうがないですね。 一旦、マリタへ帰ってから、ラウルさんに手紙を出しましょう」

「あの……、今手紙を送ることは出来ないんでしょうか?」

 俺が聞くと、ラウルさんは首を横に振る。

「無理ですな。 伝書鷲がここにはいませんからね」

「そうですか……」

「まぁ、起きてしまったことはしょうがありません。 ところでハヤシさん! この匂いはなんですか?」

「え? あぁ、肉野菜炒めを作ってたんです」

「???」

 テオドールさんは興味津々でモコと俺の皿を眺めているし、後ろにいた売り子君たちも目をキラキラさせて俺を見つめる。

 ……。

「た、食べます?」

 こう言うしかないよね……。

「「「「「 はい!!!!! 」」」」」

 ジョシュア以外の全員が元気よく返事をした。


 俺はまた大量の肉野菜炒めを作り、みんなに振舞う。

「!!!」

「美味しい……」

「うまい……」

 みんな口々に驚いてくれる。

「こ、これは何の肉なんですか!?」

「あぁ、オークとオーガです」

「ここまでオークが美味しくなるなんて……」

 テオドールさん達も、ジョシュアもガツガツ食べている。

 っていうか、みんな良く食べるな。 なんだか料理にやり甲斐を感じてしまいそうだ……。


 それからみんなでお茶を飲んでまったりしていると、テオドールさんが「少しいいですか?」と散歩に誘ってきた。

「いやぁ、ジョシュア君には困りましたね」

 テオドールさんが苦笑いする。

「本当ですよ。 ラウルさん、今頃怒り狂ってるんじゃないですか?」

「ハハハ。 あの、ハヤシさんはユーウェインの話しは覚えておいでですか?」

「あぁ、はい。 ラウルさんの弟さんですよね」

「はい」

 テオドールさんが俺とモコに河原に座るよう促す。

「ジョシュア君はね、ユーウェインにとても懐いていたんです。 というよりも、ユーウェインが育てたようなもんですな」

「え?」

「ラウルさんが奥様を亡くして冒険者を引退して、ギルドで働くようになりましてね。 人手もないので、すぐにギルドマスターにされてしまいまして」

「はぁ」

「覚えることは多くて大変だし、周りからのやっかみなんかもあったし、子どもたちも小さいし……。 あの頃は本当に大変だったと思います。 そんな状態だから、なかなか子供に向き合う時間がなかったんですな。 なので代わりに面倒を見ていたのが、まだ少年だったユーウェインだったんです」

「そうなんですか……」

「あの頃はラウルさん一家は本当に大変なときでね。 ラウルさんの妹のリリーさんもその頃ご主人とお子さんを亡くされたりね、ホント気の毒でした」

「そんな……」

「……、ハヤシさん」

「はい」

「だからね、ジョシュア君はユーウェインの面影を感じるあなたと一緒に居たいんだと思いますよ」

「はぁ……」

「これからのことはさておき、ひとまず今は許してやってくれませんか?」

 心が沈むとは、こういうことなんだろうな、と思った。 ラウルさんもリリーさんもメルちゃんも、そんな苦労をしてもあんなに明るくいられるなんて。

 ジョシュアにしたって、なんて切ないんだろう。

 こんな知り合ったばかりの人間にすがりついてくるなんて、あんまりだ。 胸が苦しくなる。

「……。 そうですね、ひとまずマリタまで連れて行って、ラウルさんと手紙のやり取りをして決めます」

 テオドールさんはにっこりと笑い、「あぁ、良かった。 ホッとしました」と胸に手を当てる。


「そういえば、さっきのアーヴァンクとの闘いは凄かったですね。 流石です」

「あぁ、いや……。 でもテオドールさん、俺に逃げろって言いましたよね?」

「すみません……。 ハヤシさんがお優しい顔してらっしゃるのでつい……」

 うん?

「……。 弱そうってことですよね?」

「ハハハ。 いやぁ、それにしてもさっきの料理は旨かったですなぁ!」

 コイツ、ごまかしやがったな。


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