さっそく俺たちは草原に向かうことにした。
俺は門番のおじいさんと軽く挨拶をかわし、モコは小さいパンとチーズをおじいさんにもらった。
「ほら、ありがとうは?」
「………。 ありがとう…」
とモコは小さく言うと、俺の足に顔をうずめた。
「子供はやっぱりかわいいなァ。 あんたら、アイテム探しに行くんじゃろ? 気をつけて行くんだぞ」
と、おじいさんはモコの頭をなでてくれた。
「モコ、パンとチーズしまっておくから、ちょうだい?」
「………」
返事がないモコを見ると、もう食べ終わるところだった。流石だ。
まずはもう一度依頼書をじっくり見てみようと用紙を広げると、モコが興味津々で覗き込んでくる。
「うん? これ? これはね、ここに描かれているお花や草が欲しいっていう人がいるから、これから代わりに取りに行くんだよ~」
モコは依頼書を手に取り、それぞれに描かれたアイテムの絵をじっと見ている。
「わかった~~~!」
といきなり叫びながら、モコは草原に向かって走り出す。
「モコーーーーー!!」
人間の姿だと三歳くらいのはずなのに、信じられないスピードでモコはぐんぐんと遠く小さくなっていった。ボルトどころじゃないんじゃないか…。なんなんだあれは。元がフェンリルだからか?
「モゴ…、ハァハァハァ…、待って…」
全速力でモコを追いかけたが、見失ってしまった。もう心臓が痛いし、喉から血の味もする。ダッシュなんか高校ん時にDQNにカツアゲされそうになったとき以来だ…。
「モコ………?? どこに居るの~? 危ないから帰っておいでぇ…。ハァ…ハァハァ………」
俺は立ち止まりフラつきながら辺りを見回したが、どこにもモコの姿は見当たらない。
「モコーーー?」
「おぉーい、モコーーー?」
五分くらい探しただろうか、
「たかふみぃ~~!!」
と、ちょっとした丘にある茂みからモコがヒョコっと顔を出して返事をした。
「ここ~、ここにいっぱいあるの~!!」
死にかけの腰を押さえながら、俺はヒョコヒョコとモコの元に向かう。
丘には、ポーションの原料であるキュア草や、エーテルの原料になるアリール草が沢山あった。
「モコ、えらい?」
俺はモコのぷくぷくホッペを両手でグリグリしながら答えた。
「うん、偉い偉い! よくここが分かったね~。でも、どうしてここにあるって分かったの?」
「モコはね、匂いで分かるんだよ!」
「ん?絵を見ただけなのに?」
「うん、よく分かんないけど、分かるの~」
まぁ、野生の勘のような感覚的なものなんだろう、と俺は思うことにした。
キュア草は一本で銅貨三枚、アリール草は一本で銅貨八枚の買い取りなので、税金を引かれることを考えたら、それなりに数がいる。
それから俺たちは少しだけ残して、取れるだけ取った。まぁ、正確には、ほとんどモコが取ったんだけど。
しかも、ウォーターストーンまで三つ見つけてきた。俺はダッシュのせいで中腰になれず、あまり役に立たなかった。
あぁ、情けない…。
結局、四十リットルのビニール袋がパンパンになるほど取れた。もうお昼時だし、今日はもうそろそろいいか。
「よし、モコ。そろそろご飯にするぞー!」
「食べるーーー!」
「さて、今日は何にしようかな…」
「唐揚げー! 唐揚げー! 唐揚げー!」
「えぇ? 毎日揚げ物ばっかりはよくないよ~」
「いいの~!唐揚げがいいの~!」
と、モコは地面に大の字に寝転びゴロゴロしだした。
「こら、お洋服が汚れちゃうよ?」
モコを抱き起こそうと中腰になった途端、バギン! と尋常ではない痛みが腰に走った。
「ぐあっ!」
これはマズイ、マズイぞ!
俺はそーっと地面に座り、何も言わずにネットスーパーの画面を開いた。
「唐揚げ?」
と聞いてくるモコには答えず、俺は大量の唐揚げ弁当を黙って買った。
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