それからは毎日が大変だった。
全国大会の決勝戦用に献上するシャンプーとトリートメント、石鹸を用意しなければいけない。
あとはテオドールさんに今回がシャンプーとトリートメントの最後の取り引きにしたいと伝えたので、多少売り物として販売できる程度の量を用意する必要もある。
とにかく俺は詰め替えが面倒なのでテオドールさんから空の酒樽をもらい、それにドバドバ入れることにした(あとは個別にあちらで小さい容器に入れてもらう)。
液体系はモコにイタズラされたら困るから、二人がダンジョンに行っている間に少しずつ溜めてる。
石鹸は洗顔用の高いやつから普通のやつまで、包装ムキムキも面倒だな……。
そして何より、120人分の料理が俺を悩ませた。
モコとジョシュアは毎日キチンと俺の言いつけを守り、ランクEかFのダンジョンにしか行かなかったし、昼には帰ってきた。
ジョシュアは午後から俺が教えた筋トレをこなし、少しずつ身体も締まってきている。
「アンタもやらないの?」
とジョシュアは一緒に筋トレやらないか、と誘ってくるけど、もちろんお断りだ。
最近はジョシュアも徐々に料理に興味を持ち出し、今までより手伝いたがるのでありがたい。
「で、メニューはなに?」
「あぁ〜、オーガとオークが大量に残ってるんだよね。 っていうか細かく切るの面倒だしなぁ〜。 ドーン!とデカく切った肉でなんかないかな……」
結局、メインはレシピサイトで探しだした、塊肉で作るなんちゃって豚の角煮にすることにした。
肉のカットはジョシュアがしてくれるし、俺はその間に少しずつ調理をしてはアイテムボックスにしまっていく。
「はぁ〜、いい匂いだなぁ」
部屋中に角煮の甘い香りが広がり、俺とジョシュアの食欲を刺激した。
「あれ、そういえばモコは?」
確かにいない。 いつもなら料理を作るところを楽しそうに見てるのに。
嫌な予感がして洗い場へ見に行くと、案の定モコがいた。
身体を半身すっぽりと酒樽に入った状態で、だ。 いわゆるスケキヨ状態というやつで。
「な、何やってるの!?」
急いでモコを救出すると、鼻先までシャンプーに浸かっている。
「んもーーーっっ!!」
「ご、ごめんなちゃい……。 なかに入りたくなっちゃった……」
シャンプーの入ってた量が少なくて、まだ良かった……。
こんな感じで毎日何かと事件があって、なかなか終わりが見えない。
そして俺は毎日、心底パーティ料理に悩んでいた。
まずパーティなんか行ったことないから、メニューがよくわからない。
角煮だけってわけにもいかないしなぁ……。
マリタは食べ物が美味しいと聞いていたけど、正直言って普通だし、パーティ料理のヒントにならないかと思って食堂も屋台もみんなで色々行ったけど、基本、塩コショウなので飽きちゃって何の助けにもならなかったんだよね……。
そんなこんなで料理は角煮と、余っていたマタンゴでガーリックバター炒めを大量に作ることにした。 で、それ以外の料理に悩み続けるうちに、あっという間に五日が過ぎた日の午後、事件が起きる。
毎日昼までに帰ってくるように、という約束だったのに15時を過ぎても帰ってこなかった。
俺は心配で気が気じゃなく、ダンジョンに迎えに行こうとしたところでドアが鳴る。
ガチャガチャ……。
「あ、おかえり! 遅いよ!! 心配だから今迎えに行こうと思ってたんだから!」
俺はそう言いながらドアの方に顔を向ける。
「ただいま〜〜!!」
そこにいたのは泥と血にまみれたジョシュアと、絶世の美男子の大人バージョンのモコが手を繋いで立っていた。
「は?」
茫然と立ち尽くす俺に、大人バージョンのモコが走って抱きついてきた。
「たかふみぃ、モコね、おなかすいた!! 干し芋たべたい!!」
ん、んん???
ジョシュアは気まずそうに口を開いた。
「ダンジョンはホントにFランクに行ったんだ。 でも、モコがそのダンジョンの中で隠しダンジョンを見つけて……」
モコはスリスリ顔を俺に擦りつけてくる。 や、やめろ!!
「そしたら、そこ、スケルトンの巣だったんだ……。 それもただのスケルトンじゃなくて、一体一体がA級かS級だった。 しかも、スケルトンロードまでいた……」
思い出したのか、ジョシュアは恐怖でブルブル震えている。
「こんなこと、ありえないんだ……。 スケルトンがあんなに強いなんて……。 スケルトンロードなんて、S級どころじゃない強さだった……」
「え、え? で?」
「そしたら、モコがなんか知らないけど変なヒカリに包まれたと思ったら変身したみたいで……」
「見たの?」
「うん……。 ヒカリに包まれたと思ったら、なんか、でっかくなって……。 それで、俺を守って闘ってくれたんだ。 で、全部モコが倒してさ、俺に今見た事をアンタ以外に絶対言うなって口止めして、なんかまた変なヒカリが出てきて元の姿に戻ろうとしたみたいだったから、俺、思わず手を掴んで引っ張ったら、モコを包んでたヒカリが消えちゃって……」
ジョシュアは完全にパニック状態で、目が泳いでいる。
「そしたら、姿だけ大人のままで、中身は子供のモコに戻ったみたい……」
はぁぁぁぁぁ??? なんだそれ!!!!!!
絶世の美男子のモコは、いつのまにかまた居なくなっていた。 まさかと思って洗い場を見に行くと、また酒樽の中に頭を突っ込んでいた。
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