「たかふみぃ〜……」
モコが不安そうにこっちを見ている。
「モコ、大丈夫だからね。 そのまま動かないで。 絶対何もしちゃダメだよ、分かった?」
「……うん……」
もうこうなったらヤケだ。ヤラれる前にヤッてやる!
いつもの俺であれば、あんな怪しい洞窟にモコを連れて中に入ったりしないし、もしも今のこの状況になったとしてもビビり倒しているだろう。
だけど今日の俺は、ひと味もふた味も違う。
まず、今日が人生で一番金銭的に余裕があるのでテンションMAXなのがひとつ、そしてキマイラの雫を装備していることがふたつ目だ。
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鑑定:キマイラの雫
Sランク
肌に直接装着することで、モンスターからの経験値を多く取得出来る効果を持つ。
※装着時ステータス極大アップ
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社会人として知っておくべき大切なことのひとつに、全ての書面に於いて一番大切な点は※印に書かれている、ということがある。
※装着時ステータス極大アップ
まぁ本音はさっさと売っぱらってもっとお金が欲しかったんだけど、今となってはラウルさんにマジ感謝だ。なんせ、極大アップだからな。
そうこうしているうちに、様子がおかしいことに気づいた小屋の中に居たオーガ達もワラワラと出てきた。恐らく外に出ている奴らは二、三十匹はいる。
「ファイヤーボール!!」
俺はオーガ達に向かって、魔法を放った。
最初のテニスボール大の頃とは比べ物にならない、数倍もの大きさと魔力を持った炎の球体が複数となって、オーガ達へ直撃した。流石、極大!!
「ギャッ!!」
という悲鳴と共に、直撃したオーガが五体、崩れ落ちた。
「おぉ! すげぇ!!」
チラッとジョシュアを見ると特に驚いている様子も無く、眉間にシワを寄せ厳しい顔をし、心配そうな顔をしているモコを抱っこしていた。
まぁ、そうだよな……。 キマイラキングはS級だったけど、ただのオーガはD級だもんな……。 それなのにこの微妙な感じだもんな。圧倒的強さじゃない……。
俺は、はははっと愛想笑いをしてオーガへ向き直る。
クッソ……、なんか中途半端だな……。 俺が弱すぎるから、ステータス極大でもこの程度ってことか……。
「グギャャャッッ!」
と叫びながら、オーガ達は棍棒を振り回しながら俺に襲いかかろうと走り出した。
「ファイヤーボール! ファイヤーボール! ファイヤーボール! ファイヤーボール! ファイヤーボール!」
魔法を連発し、とにかくオーガ達に向かって俺は無我夢中で撃ちまくった。
「ハァハァハァッッ」
もう大丈夫かな? オーガ達が巻き起こした土煙が落ち着くと、そこには全てのオーガ達が横たわっていた。
「……。 やったよ……」
「たかふみ、しゅご〜〜い!」
モコは大喜びしている。
「……。 小屋の中まで見てきたら?」
俺はジョシュアの言う通り、残りのオーガがいないか見て回った。
数匹のオーガが残っていたので、ファイヤーボールで簡単に倒した。
「……。 オーガは食べられるから、全部集めて」
はいはい……。 俺は素直にその言葉に従い、アイテムボックスへ全部で四十五匹のオーガを納めた。
その間じーっと、ジョシュアの怪しんでいる視線を感じながら。
ギルドへ帰り、俺たち三人はラウルさんへオーガの買い取りをお願いしに行った。
「おぅ、兄ちゃん。 今日も買い取りか?」
「は、はい……。 オーガが一杯いまして……」
俺は山盛りのオーガをラウルさんの前に出した。
「おい、お前、これどこに居たんだ?」
「あぁ〜、ちょっと色々ありまして、森の中で見つけました……」
「!? おい、危ねぇから森の中には行くなって言ったよな?」
「あぁ〜……」
「おい、ジョシュア、お前か?」
ジョシュアは不貞腐れながら頷いた。
「なんでお前はそんなことすんだ!? あぶねぇだろ!?」
「……。 キマイラキングなんて、あと百年は出ない。 それにオーガがいればみんな喜ぶ……」
「お前知ってたのか!? ならなおさらだ、馬鹿野郎!」
「だって……!!」
「だってもクソもねぇんだよ、そんなに行きてぇならテメェ一人で行けばいいだろ!?」
「……。 キマイラキング倒した人なんでしょ? この人。 だったらオーガの集落ごとき問題ない」
「それにしたってお前な……」
「……もしこの人が弱くてオーガも倒せなかったとしても、俺がいれば問題ないだろ!? いちいちうるせぇんだよ!」
その時、ラウルさんはジョシュアをぶん殴った。
「お兄ちゃん!!」
メルちゃんが駆け寄っていったが、ジョシュアはラウルさんを睨みつけ走って出て行ってしまった。
「あの〜……」
モコが怯えている。
「あぁ、すまなかったな、兄ちゃん、チビ」
「いや、俺は全然大丈夫なんですけど……。 どういうことなんでしょうか……?」
ラウルさんから、森には元々オーガが居て重要な食料源だったこと、狩りに行く依頼を受注出来る冒険者がいなかったこと、森に行くことは危険なのでジョシュアに禁止していたこと、というのを聞いた。
キマイラキングの件を嗅ぎ付けたジョシュアが、俺の力試しを兼ねて行ってみたかったんだろう、ということだった。
「あのね〜、ジョシュアはね、みんなに美味しいご飯を食べさせてあげたかったんだよ」
その時、モコが口をはさんだので、みんなが一斉にモコを見つめた。
「あのね、先祖祭りのときに、たかふみにオーガを料理してもらってねぇ、みんなで一緒に美味しいご飯食べたい!って言ってた」
俺の料理が美味しいという話をモコがジョシュアにしたら、そう言ったということだった。
「お兄ちゃん……」
「……、 アイツの母親が生きてたときはな、うちの嫁さんが中心になって、オーガ料理作って村のみんなと食ってたんだよ……」
あぁ、そういうことか……。 なんだか切なくなるな……。
「ラウルさん、そういうことなら俺も協力しますから……」
すまねぇな、とラウルさんは小さく呟いた。
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