以前チコル村の近くにある森で、キマイラキングをモコが倒したことがあった。
そのときに『キマイラの雫』というアイテムがドロップされたんだけど、このアイテムの効果は身に付けるだけで入手する経験値が上がる、ステータスが上がる、というもの。
ところがこれ、レア中のレアアイテムだったらしく、装着者のレベルが上がることでこのアイテム自体成長し、特殊スキルが発動するものだったのだ。
そして新たに発動したスキルが、「装着者がダンジョン内にいる場合、モンスター発生率が高まる」というチートなのか何なのかよく分からないもので、海竜のダンジョンもそのせいで大量のモンスターがいたらしい。
「お前よ、もう一生分の運使い果たしたんじゃねぇか?」
とラウルさんに脅されるほど、レアドロップだったらしい。
「これからも、兄ちゃんのレベルが上がれば何かのスキルが付くかもな」
と言っていた。
ラーメン屋は相変わらず繁盛しているけど、リリーさんは危機感を感じており、新メニューの開発に勤しんでいた。
「何か良いアイデアがあれば、教えてね」
そう言われ俺が真っ先に思いついたのは、もちろん「餃子」だ。
それに、俺も餃子が猛烈に食べたい。
まずはネットスーパーでキャベツとニラ、餃子の皮、ラー油を買う。 醤油は買わなくてももちろん常備してある。
キャベツとニラは粗みじん切り、オークも挽き肉には程遠い荒みじんだけど、まぁ、いいや。 これに塩コショウなどで味を整え、よく捏ねる。
これはモコが喜んでやってくれた。 「ぬらぬらして、きもちいい!」だそうだ。
肉に粘りが出てきたら野菜と混ぜ合わせ、さらにモコが捏ねる。
それを餃子の皮で包むのは面白いみたいだけど、モコは綺麗に包むことが出来ないので泣き出し、大変だった。
「キレイに出来なくても大丈夫だよ?」
「いやぁ〜〜〜、たかふみみたいにちゅくりたいーーー!!」
この会話のキャッチボールがエンドレスに続く。
フライパンにサラダ油をひき焼き色がついたら水を加え、フタをしてで蒸し焼きにしたら出来上がり〜。
モコの分は作ってたらキリがないのでチルド餃子を大量に焼き、モコはたらふくご飯と餃子をかっこんで机に突っ伏し、寝た。
俺もこういう風に生きていきたい。
閉店後のリリーさんのラーメン屋へ行くと、男の子たちとリリーさんが夕食を食べているところだった。
「あの〜、お邪魔しま〜す。 新メニューにどうかと思って、料理を持ってきました〜」
「あら!? もう!?」
「はい。 オークとかオーガ、あと野菜で出来るのにしました」
40個ほど作った餃子は、あっという間に無くなった。
「ど、どうでしたか?」
「これは良いわ!! 早速、私も作ってみる!」
「スッゴく美味しかったです!!」
「もっと食べたかったなぁ……」
「腹いっぱい、これ食べたい!!」
口々に褒められると、段々その気になってくる。
「ボク、こんなに美味しい食べもの初めて。 お母さんにも食べさせてあげたいな……」
このエドワード君の一言が、俺の導火線に火を付けた。
一旦家に帰り、イチから作るのは時間がかかるのでチルド餃子を再び買い、焼き餃子、水餃子、揚げ餃子をどんどん作り、再びリリーさんの宿へ行く。
みんな同じものなのに調理法が違うだけでこんなに味が変わるのか、と驚いていた。
「味も、付けるものによって変わるのね」
「そうなんですよ」
俺は結局、醤油とラー油、酢をネットスーパーで買い、リリーさんに渡した。
肉や野菜ほど大量に使うものでもないし、これくらい良いだろう。
「私も、色々味のバリエーション考えてみるわねー! なんだか楽しみがまた増えたわ!!」
リリーさん本人から聞いたわけじゃないけど、彼女は息子さんを亡くしている。
丁稚奉公の男の子たちが来てから、リリーさんはみるみる元気になっていった。
元々快活な人だったけど、さらに活力がみなぎっている気がする。 男の子たちを自分の子供のように可愛がっている姿を見ると、嬉しい反面、チクッとなる。
「じゃあ、ここにレシピ置いておきますね」
レシピサイトを書き写した紙を置き、家へと向かった俺は、自分で一個も餃子を食べていないことにまだ気付いていなかった。
読み終わったら、ポイントを付けましょう!