異世界のんびり放浪譚

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第42話 オーブンと炊飯器

公開日時: 2022年4月6日(水) 22:05
文字数:2,392

 テオドールさんは張り切ってこれからの石鹸の販売計画を話しながら、俺たちを売り場へ連れていってくれた。

 それにしても、テオドールさんのさっきの怒りはなんだったのか、というほど機嫌がよくなっている。

 なんだか可愛らしい人だな。


 テオドールさんの案内で売り場へ行くと、オーブンコーナーがあり、そこには一際立派な7個口付きコンロのオーブンがあった。

「テオドールさん、これ……!!」

「さすがハヤシさん! お目が高い! これはね、便利ですよ〜。 なにせ、コンロが七個口ありますし、下部は3段のオーブンになっていますからね」

 良い……。すごく良い……。 幅も広くて使いやすいし、何よりモコの食事を作るには、むしろこれくらいコンロがあるほうが助かるぞ! それに、この下部のオーブンだったら魚も焼けるんじゃないか?

「お、お幾らですか?」

「金貨150枚です」

 高いよな……。

「まぁ、これだけの大きさですし業務用ですからね」

 今まで使ってたガスコンロじゃ結構キツかったし、いずれ必要になってくるよな……。

 よし、買うぞ!

 俺は豊かなふところ具合に、調子に乗っていた。

「テオドールさん、買います!」

「えぇ!? いいんですか!? 大きすぎやしまませんかね?」

「いえ、大丈夫です! あの、これって燃料はなんなんですか?」

「あぁ、魔石ですよ」

「魔石?」

「はい。 魔石に魔力を封じ込めているんです」

「そうなんですか……。 あの……、その魔力はいつか無くなるってことですか?」

「そりゃそうですよ。 当たり前じゃないですか」

「え、じゃあ、魔石をまた買うんですか?」

「魔石を新たに買うのが、ほぼほぼですね」

「ほぼほぼ?」

「生活魔法の中にチャージというのがあるんです。 これが使えれば、自分の魔力を魔石に封じ込めることが出来るんですよ」

 うん? 俺、生活魔法使えるからイケるんじゃないか?

「魔石の色が薄くなったら自分でチャージすればいいんですから、チャージが使えれば随分便利でしょうな」


 俺はウキウキ気分でほかに何かないかとキョロキョロ店内を見回すと……。

 俺は見つけてしまったのだ。 炊飯器を。

「テ、テオドールさん! こ、これは……!!」

「あぁ、炊飯器ですよ」

「炊飯器!!」

「ハハハ。 気に入られましたか?」

「気に入るもなにも……!!」

 炊飯器の中を開けると、一升炊き位のサイズのようだ。

「お、お幾らですか!?」

「そちらは一つ、金貨7枚ですよ」

 金貨7枚? 3合炊きの炊飯器しか買ったことのない俺には分からないけど、こっちの世界だとそこそこお安めなんじゃないか?

 これ何個か買って一気に炊いておけば、随分楽になるぞ……?

「テオドールさん! これ10個ください!」

 俺は炊飯器を見つけたテンションで、バカになっていた。

「じゅ、10個ですか……!? 多すぎませんか?」

 確かに多い。 でも、米のストックはいくらあっても良いんだよ……。

 何せこっちには、モコがいるんだ。

「いえいえ、大丈夫なんです。 お願いします!」

「はぁ、分かりました」

 結局テオドールさんは、今回も2割引にしてくれた。


「そういえばハヤシさん、これからどうするんですか?」

「これからですか……? うぅ〜ん、正直あまり何も考えてないんですよね。 まずはジョシュア君のこともあるし、それが決まるまではちょっとゆっくりしようかと思ってます」

「そうなんですか。 では、これからも週に一度でも構いませんので、買い取りさせていただけませんか?」

「あぁ、ありがとうございます」

「ハヤシさんなら、何か他にも面白いもの沢山おありでしょうし、よろしくお願いします」

「ハハハ……」

「それでは、ギルドにも行かれないんですか?」

 ギルドねぇ……。 依頼受けなくてもお金はあるし、しばらくは行きたくないんだよな〜。

「ジョシュア君もいますし、ハヤシさんだってCランクなんだから重宝されると思いますよ?」

「ハハハ……」

 俺は笑って誤魔化し、店を後にした。


「……。 ホテル探すの?」

 ジョシュアはお金のことを気にしているようだ。

「あ〜……。 どうしよっかな……」

 正直、石鹸だけでもかなりの収入になるし、もう今のままでいいんじゃないかという気がする。

 俺はとにかく自分に甘いんだ。

「いやぁ〜、もう今の所でいいかなぁ〜……」

「でも、見るだけ見た方がいいんじゃないの?」

 マジか〜。 もう面倒臭いんだよな〜。

「俺、テオドールさんに安宿がある場所聞いてくるから」

 そう言うなり、ジョシュアは店の中へ戻って行った。

 アイツ、俺がカネあるの知ってても、やっぱ遠慮してんだなぁ〜。

 モコと二人で睨めっこをしながら五分ほど待っていると、ジョシュアが地図を片手に帰ってきた。

「聞いてきたから、行こう」

「あぁ、うん……」

 30分ほど歩かされて辿り着いた安宿のあるその一帯は、マジでヤバかった。

 道端で虚ろな目をして空を見つめ、口を開きヨダレを垂らしている人が道端に5、6人いたのだ。

 いや、これ、絶対よからぬものキメてるだろ……。

「ねぇ、ジョシュア君。 やっぱりホテル帰ろうよ」

「なんで? 値段だけでも……」

「いいから帰るよ」

 ジョシュアを遮り、ホテルへ戻ってから俺は延泊の申し込みをした。


 それにしても、これからどうすっかなぁ〜。

 ラウルさんから返事来ないと、なんかどうにもならんよな〜。

 それまで何もしないっていうのもどうかと思うけど、ちょっと位ダラけてもいいよな?

 よし、決めた! ラウルさんから返事が来るまで、俺はゴロゴロすることにするぞ!



 ホテルへと帰ると、受付のお姉さんに伝書局からの伝言を渡された。

 その内容は、手紙は既に発送したこと、返事がくれば伝書局から配達すること、謝罪については今調査中のためしばらくお待ちいただきたい、ということが書かれていた。

 なんだか、大ごとになってきたなぁ。


 それから何の音沙汰もない7日間、俺たちは部屋に引きこもり、食っちゃ寝、食っちゃ寝の暴飲暴食生活を送ることになる。

 結果、俺とジョシュアは激太りした。

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