「なんか腹減ったな……」
俺は夜中の二時に、ネットスーパーでカップラーメン、ポテチ、2個セットのパックケーキ(モンブラン)、チョコレートを買った。
一人夜中に食べるジャンクは、背徳感も混じりたまらないものだ。
モコは日本スピッツ姿で小さないびきかき、丸まって寝ている。
街ごと眠っているような静けさの中、自分だけがこんな時間に間食している罪悪感を抱え、気づけば俺は眠りに落ちていた。
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「皆さん、聞こえてますかぁ?」
「聞こえてる?」
「聞こえてますよね? え〜、予定の時間になったので、始めたいと思いま〜す」
ん? なんだ?
ここはどこだ?
その部屋は扉もなければ家具もなく、一面壁しかない。 ただ、部屋の中にポツンと一台のノートパソコンだけがあった。
パソコンモニターには、某大手動画サイトの動画が流れている。
俺はこの空間に怯えながら、恐る恐るパソコンの前に座った。
そこに映し出されているのは、色黒の男性が一人、座っている。
「えぇ〜、異世界転移者の林孝史! 今日はコイツのことを晒そうと思います」
え?? 俺!?
「本当はね、今日ライブ配信なんてする気は全然なかったんですけど、ちょっと状況が変わってきたので、急遽配信することにしました!」
な、なんなんだ……。
「えぇ〜、林と俺は直接の知り合いではありませんがぁ~、視聴者さんから匿名の告発DMがすごい来ていたのと、あまりの悪質さに、これはやらなきゃと思って、急遽の生配信をすることにしました!」
は?
それからその男性は、俺がこっそり一人だけ違うものを食べていること、鳥もも肉など安いものならまだしも、毛ガニやウニといった高いものを自分一人だけで隠れて食べ、いつまで経ってもモコとジョシュアにそれらをあげていない、ということをコト細かく晒した。
チャット欄は荒れに荒れまくり、俺に対する罵詈雑言が物凄い速さで流れていく。
スパ○ャも飛びまくる。
『ガーシー頑張れ!』
『徹底的に潰してくれ』
『こんなクズでも異世界転移でさきるなんて許せません』
俺は愕然としてモニターを見つめるしかなかった。
「で、コイツね、食い意地悪いのは百歩譲っておいとくとしても、モンスターの討伐なんか行きたくない、依頼なんか受けたくないってジョシュアに言いよったんですわ」
はっ!?
「いいですかぁ~? 皆さん」
「異世界転移してぇ~! チートスキルもらってぇ~! その力でカネ巻き上げまくって! 石鹸でボロ儲けしよって!」
男性は怒りからなのか、顔が光っている。
「そんだけオイシイ思いさせてもらってるクセにぃ~! コイツわ、その世界の人間たちを助けることを拒否したんですわ!」
「許されますか? こんなこと」
「自分一人だけいい思いして、ぶくぶくぶくぶく太りよってからに。 お前、ほんっとしょーもないな」
あわわわわわ。
「お前な、自分の周りの人間が味方ばっかりだと思うなよ? 取り巻きの人間を大事にしないからこんなことになっとんじゃ、お前は!」
男性は自分の言葉にうんうんと頷く。
「もういっぱいDM来てます! 証拠があるものから無いものまで含めて、今ぜんっぶ精査してます!」
怖い怖い怖い……。
「おいコルァ林ィ! お前、これからも徹底的に晒していくからな!」
「一つだけ忠告してやる」
な、何を忠告してくれるんだ……。
「お前な、取り巻きは大事にせなアカン! 取り巻きに裏切られる奴なんてな、そんなんナンボでも俺は見てきた!」
「え~、視聴者の皆さん、これからもコイツのことはドンドン晒していこうと思っているので、楽しみにしてて下さい!」
「ほなの」
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「たかふみ、おっき!」
目を覚ますと、そこはマリタのホテルのベッドの上だった。
俺は一体、なんて夢を見たんだ……。
なんかよくわかんないけど、これからは真面目に生きていこう、と自分自身に誓った。
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