何故なのか。 何故、こんなことが起きるのか。
「モコ……、お前……、何やってんだよ?」
シャンプーまみれで大人のモコは、なんとも気まずそうな顔をしている。
「ご、ごめんなさい……」
「モコ、お前ちょっとそこで待ってろよ」
「う、うん……」
俺はジョシュアに向き直り、まずは怪我の様子を確認することにした。
「俺は大丈夫だって」
「いやいや、血まみれだろ。 何でこうなったの?」
「斬撃でちょっと頭を切っただけ……」
いくら討伐隊に入っているような子だとはいえ、人様からお預かりした子を怪我させるなんて大問題だよな。
「いや、病院いこうよ」
「大丈夫だから。 討伐隊のときなんか、こんなの怪我のうちにも入らないし」
頑として病院には行かないというので、ネットスーパーで消毒薬やらガーゼやらをこっそりトイレで買ってから、ジョシュアに処置をした。
「ねぇ、モコのこと放っといていいの……?」
「あぁ、うん……。 そうだよね。 ジョシュア君は横になってな。 俺はモコの所に行ってくるわ」
モコにどう接していいのか分かんないんだよな……。
洗い場へ戻ると、モコは大きな身体を小さく丸め、シャンプーまみれで泣いていた。
「うっ……、うぅ……」
はぁ〜〜……。
「モコ……。 お前、なんで泣いてんの?」
泣きたいのはこっちだっつーの。
「うっ……、だって、だって……」
「モコ、お前、今どういう状況かわかってる?」
「うわぁ〜〜〜ん!! そんなのモコ、分かんないもん!! なんか、おっきしたら、からだがおっきくなってたんだもん!! ぎぃやぁぁぁぁーーー!!」
嘘だろ、ギャン泣きじゃん……。
「はぁ……。 とりあえず今はもういいから、そのまま風呂入れ。 シャンプー流さないと」
「モコ、ひとりでおっふはいれないもん!! たかふみがいじわるするーーー!! なんかおしゃべりもいつもよりこわいよ!! モコはモコだもん! おまえって名前じゃないもん!! うわぁぁぁーーーん!!」
そう来たか。 確かに今までは俺が身体も頭も洗ってあげていたし、言葉もキツかったかもな。
でも、何で俺が大人の入浴まで面倒見なくてはいけないのか。 誰得だよ……。 介護だろ、コレ。
いや、でも実際中身は子どもなんだもんな……。 可哀想なことしたか……。
「モコ、今まで俺と一緒にお風呂入ってたんだから分かるだろ? 教えてあげるからやってごらん?」
頭だけは俺が手伝ってあげたけど、身体は自分で洗ってもらった。 その間グズグズとモコは泣いていたので少しだけ胸がチクッとしたけど、流石に身体まで洗ってあげるのはちょっとね……。
使えるようになったドライの魔法で髪を乾かしてあげ、ジョシュアのいるリビングへ行く。 ジョシュアは俯いてソファに座り、彼なりに罪悪感を感じているようだった。
俺はモコに干し芋を渡し、聞いてみる。
「モコ、またお話し聞いてもいい? なにがあったの?」
両手で干し芋を鷲掴みにしバクバク食べながら、モコは頭を横に振る。
「なんかねぇ〜、すっごい強いのがいたの。 だからモコね、ジョシュアより強いのだったからね、やっつけようとおもったの! でもね、なんかもうみんなネンネしてたんだよ〜」
「うん。 それで? どうやって身体が大きくなったの?」
「う〜〜〜んとねぇ、わかんない! おっきしたらなってたの!」
やっぱりモコには自分から変身する意思はなくて、勝手になるんだろうな。 そして記憶もない、と……。
「……。 アンタさ、そんなに驚いてないと思うんだけど。 モコがこうなるって知ってたの?」
もう、黙っててもしょうがない。
「信じるか信じないかは別として、一度だけ見た。 その時にキマイラキングを倒た」
「やっぱりね……」
「大人のモコと他に何か喋ったの?」
「俺のことは知ってるみたいだったけど? 名前呼ばれたし。 でも、話したのは口止めされたくらいで、あとは特に何も。 そのまま戻ろうとしてたし」
「そうなんだ……」
「モコってアンタの子どもじゃないんでしょ?」
なんて答えるべきなんだろう。
「あぁ……、血は繋がってない。 けど、でも、モコは俺の……、俺の子どもっていうか……。 子どもだと思ってる」
モコは嬉しそうにニコニコしている。
「……そう。 で、モコのこれからのことだけど」
「うん」
「キマイラキングのときにも、こうなったんでしょ? だったら、またS級が出るところに行けば大人のモコの意識が戻るんじゃないかと思うんだけど。 それで入れ替わりが元に戻るんじゃない?」
「うん……」
確かに俺が大人のモコに会った時、S級とかホントにヤバいときだけこの姿になれるって言ってたしな。
っていうか今の現状でなんて、それくらいしか試せる方法はないよな……。
「え、っていうか、その隠しダンジョンって大丈夫なの?」
「……何が?」
「だってランクがEとかFレベルのダンジョンの中にそんな隠しダンジョンがあるなんて、他の冒険者が行ったら危ないんじゃないの?」
「まぁね。 でも、もうモコが塞いできたし」
「え、そうなの?」
「出来る?って試しにモコに聞いたら、塞いだ」
「モコねぇ〜、ちゃんっとふたみたいのしたからね、だいじょうぶなの!!」
「そ、そうなんだ……」
「ねぇ、モコえらい?」
冷静に考えてみて欲しい。 傾国の美青年が幼児化しているのだ。 どう接していいか、よく分からんぞ。
「う、うん……。 エラいね……」
俺がいつものように褒めないことで、モコは気分を害したようだった。 頬っぺを膨らませてプリプリしている。
ダメだ! 俺がこの状態を受け入れられない!! 早くモコを元に戻さなければ……。
「よし、そこに明日行ってみよう!」
なぜかジョシュアは微妙な顔をした。
翌日ダンジョンに向かおうと外へ出ると、モコが俺とジョシュア、それぞれと手を繋いでくる。
「みんなでおでかけ、たのしいね!!」
身長190cm越えで銀髪の超絶美青年、ぽっちゃり目の美少年、ただの中年デブの男三人が手を繋いで歩いているのだ。
道行く人々の俺たちへ向ける視線が痛い。
「……だからイヤだったんだよ……。 ダンジョン帰りに手を繋がないと泣くから昨日大変だったんだよ……」
そういえば、昨日帰ってきたときもモコとジョシュアは手繋いでたな。 そうか、昨日のジョシュアの微妙な顔の理由は、これか。
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