異世界のんびり放浪譚

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第86話 リゾットと雑炊

公開日時: 2022年5月18日(水) 00:40
文字数:2,190

 冷静に考えたら、体調の悪い西洋の食文化の人間に雑炊なんて、簡単に受け入れてもらえるだろうか?

 モロ和風出汁だもんな……。

 よし、ここはリゾットだろ。 ということでレシピサイトを見ると、星の数ほどレシピがあった。

 なんだよ、こんなの何を選んだらいいのかサッパリ分からんぞ。

「モコ、リゾットにしようと思うんだけど、何がいい?」

「リジョット?」

 そうか、モコにリゾットなんて洒落たもん、食べさせたこと無かったな……。 知るわけないか。

 よし、何だかよく分からんが、トマトリゾットなんて良いんじゃないか? さっぱりしてそうだし。

 モコと俺は雑炊だな。 カニ雑炊の素で作って、贅沢に毛ガニの身も入れよう! 想像しただけで、生唾が出てくる……。

 俺はネットサイトでトマトリゾットの素、生トマト、カニ雑炊の素と毛ガニを買った。 あとは俺の浅はかな知識で、食欲のない人にはすしおろしリンゴだろ、ということでリンゴも買っちゃう。


 特例でキッチンを使わせて貰えることになったので、念の為の見張りとしてレオンハルトとトバイアスが就いた。

「なんか、サーセン! 一応、毒味兼見張りが必要っつーことで!」

「ハヤシさん、お気を悪くなさらないでください。 あ、あの蛇の件は調査中なんですが、ほぼ進展してないです」

 レオンハルトは軽口を叩き、トバイアスは……、いつも通りだ。

「まぁ、今日もよろしく」

 俺が言うと、モコも

「よろしくおねがいします!!」

 と大きな声で挨拶し、いざ料理スタート!!


 レオンハルトもトバイアスもモコも、めっちゃ近くでジーッと見つめてくる。

「な、なんかやりづらいンだけど……」

「いやいやいや、その今入れてるやつ、何なんすか?」

「あ、これ?」

 リゾットと雑炊の「素」が気になるようだ。

「あぁ、これは故郷のもので、なんていうかトマトと、カニをドライで凝縮したみたいな???」

「???」

「まぁ、味付けに使うものかな」

「へぇ〜、ほんっとハヤシさんの料理って変わってますね」


 まぁ、リゾットも雑炊も、これが見事にすぐ出来た。 なんてったって、素を使ってるからな。

 大鍋で作っているので毒味もすぐ終わるし、何かと一石二鳥だったかも。

 毒味係の二人に完成したトマトリゾットを渡すと、目をハートにしながら食べている。

「いやぁ〜、こんなに旨いもん、毒入ってたとしてもそれで死ねれば本望です!!」

 と、いつもは淡々としているトバイアスが興奮気味にまくし立てた。

「じゃあ、王様へはそのトマトリゾットを渡して差し上げてください」

「え?」

 トバイアスは不思議そうにしている。

「あ、あぁ、こっちのカニ雑炊は俺とモコの分だから、毒味も必要ないよ」

「えぇ??? それはないっスよ〜、ハヤシさん! 俺ら、そっちも食ってみたいっスよ〜!!」

「ハヤシさん、是非いただきたいです」

「そ、そう? じゃあ、ちょっとだけ……」

 大丈夫かな? 和食丸出し過ぎる気もするんだけど……。

 二人に毒味? 味見? させると、意外とカニの方が旨い!! と大好評で、ヤベェヤベェと興奮している。

「ハヤシさん! お代わり欲しいッス!」

 レオンハルトが期待に胸を踊らせ、皿を俺に差し出す。

 するとその時、オーガスタスが様子を見に来た。

「どうですか? 順調ですか!?」

 お代わりの邪魔をされたイケメン二人組はしょぼんとし、モコは自分の雑炊が減らなくなったことにホッとしているのを、俺は見逃さなかった。


 そしてここで衝撃の事実が判明する。

「あれ!? これ、トマトですよね!? あぁ、言い忘れてました!! うちの陛下、トマト嫌いなんです!!」

「は?」

「すいません〜〜〜!! すっかり言うの忘れてました……」

 俺とモコとイケメン二人組、そしてオーガスタスさんの間に、冷えた空気が流れる。

「そ、そんな変な空気で責めないでくださいよ〜! 僕だって大変なんですよ〜!!」

 しょうがないので、カニ雑炊とすりおろしリンゴのセットを渡した。

「ありがとうございます! これで王が口を付けて下さればいいのですが……」

 俺には床に伏せった姿を見せたくない、という王の意向で、オーガスタスとイケメン二人組が給仕することになっているので、俺は王が食べてくれるのかどうか、見ることは出来ない。

 が、結果として王はカニ雑炊を大層気に入り、リンゴもこんなに甘いのは初めて食べたと喜んでくれた、と後から聞いた。 しかも完食までしたので、医者も大変驚いていたようだ。


 ………と、ここまではいい話だったんだけど、モコは自分の分を取られたことに納得がいかないようで、不貞腐れて体育座りしたまま動かなくなった。

「モコ〜、王様は病気なんだよ? だから、あげてもいいんじゃないかな?」

「………………」

 モコによくよく話しを聞いてみると、王様が可哀想だから雑炊はあげてもいいけど、ちゃんとモコにその許可を取ってからあげてほしかった、という硝子のハートのような気持ちを告白された。

「えぇ……。 今までだって、料理は色んな人にあげてたのに、どうして今日だけそうなるの?」

「…………。 だって、おなべひとっちゅしかないもん……」

 なるほど、量の問題か。 確かにアイツらの手前、いつものように大量に作っていない。 リゾットと雑炊、それぞれ鍋一つずつしか作ってなかったからな……。

 機嫌を取り戻すために俺はカニ雑炊を大量に作り、おまけでダークワイバーンの唐揚げも大量に作ると、モコはテンションMAXで俺がタップアウトするまで抱き締めてくれた。

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