異世界のんびり放浪譚

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第30話 外の世界へ

公開日時: 2022年3月29日(火) 20:57
文字数:2,364

 部屋に戻った俺は、どうしたもんかと考えていた。

 このまま村にいるのか、それとも旅に出るか。

 Cランクといっても、あくまでそれは俺とモコのパーティ単位での強さだ。 というかモコの強さだ。


 確かに俺のレベルは少しずつ上がってきている。

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 林 孝史(ハヤシ タカフミ)

 年齢 :31

 レベル:15

 HP :1528

 MP :153

 魔法 :火魔法 氷魔法  水魔法 生活魔法

 スキル:アイテムボックス、鑑定、言語習得、インターネット→ネットスーパー・レシピサイトのみ

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 順調に強くはなってきている。 でも、全くモコには及ばない。

 モコはレベル52のままだけど、そもそもモコにレベルは関係ないんじゃないかという気がしてる。 大人バージョンのモコも何か言いたそうにしてたし。


「はぁ……」

 俺はため息をついた。

「たかふみぃ、どーしたの?」

 モコが俺のひざに乗ってくるので、俺は抱きしめながらモコに説明してみた。

「うぅ〜ん? このまま村にいるか、旅に出てみるか、どうしようかなぁ〜と思って」

「モコ、いろんなところ、行ってみたい!」

 と言いながらギュッと抱きついてくる。

 そうだよなぁ……。 散歩でさえあんなに喜ぶんだから、そりゃ色んな所に行きたいよなぁ……。


 俺は宿から広場を見渡し様子を伺うと、既にテオドールさんは売り場に戻っていた。 すかさず俺はモコを連れてギルドへ向かう。

「よぉ、どうするんだ?」

 扉を開けた途端に、ラウルさんが聞いてくる。

「いやぁ、どうしたもんですかね……」

「おめぇはどうしたいんだよ?」

「俺は……。 外の世界を見てみたいような、怖いような……」

 モコはメルちゃんに抱っこされ、お菓子をもらってご満悦そうにしている。

「あの……、モコは旅をしてみたいようでして……」

「兄ちゃんよ、行ったらいいんじゃねぇか?」

「え?」

「こんな田舎のギルドマスターにはむずかしいことはナンにもわかんねぇがよ、キマイラキングは倒すわ、見たことも聞いたこともねぇ料理は作るわ、はたまた石けんなんか売るほど持ってるわ、商人以上のアイテムボックスは持ってるわ……。 お前ら普通じゃねぇぞ。 だからな? こんな田舎に収まってないでよ、外の世界を見るっていうのも良いと思うぞ? イヤならすぐ戻ってくればいいんだしよ」

「はぁ……。 俺はてっきり反対されるかと思ってました」

「なんでだよ?」

「いや、テオドールさんとの商談中、ラウルさんいつもと違ってたから……」

「あぁ……。 いや、お前らがいなくなったら寂しくなるなと思っただけだよ。 それにメルもジョシュアもな」

「あ……。 そうですか……。 ありがとうございます」

 こんな知り合ってから短い期間でも、そんな風に思ってくれるもんか?

 他に何かあるんじゃないのか?

「本当にそれだけですか?」

「ハハハ、何にもねぇよ!」

「そうですか…… 」

「で、どうする?」

 俺はモコの言葉を思い出し、決めた。

「行きます」


 それからは怒涛の二日間が過ぎた。旅の準備はもちろんだが、ラウルさんに依頼していたダンジョン分の買い取り精算、初回ダンジョン攻略の報酬や、詳細の聞き取り調査、ジョシュアの執拗な粘着などなど……。

 忘れちゃいけない石けんと詰め替えたシャンプー・トリートメントを、こっそりメルちゃんにプレゼントもすることが出来たし、そんなこんなをしているうちに、あっという間に出発の日の朝になった。


「では、皆さん、本当にお世話になりました」

「気をつけろよ、兄ちゃん。 いつでも帰って来い!」

 大半の村人たちが見送りに来てくれ、口々に「帰ってこい」と言ってくれる。

 ジョシュアも見送りに来てくれ、嫌味の一つも言うかと思えば素直に送り出してくれたことが意外だった。

 モコは皆からプレゼントをもらい、嬉しそうにしている。

「では、皆さん、どうぞご無事で!」

「バイバ〜イ! またねぇ〜」




 幌馬車に揺られながらモコと流れゆく風景を見ていると、テオドールさんが話しかけに来てくれた。

「ハヤシさん、ありがとうございます。 困っていたところなので、本当に助かりました」

「いえいえ、マリタまでは強いモンスターも出ないと聞いていたので受けたまでで……」

「そんなご謙遜を。 ラウルさんから頼りになると聞いてますよ」

「えっ、そんな……。 あの……、ラウルさんとは昔からの知り合いなんですか?」

「あぁ、もう付き合いは長いですよ。 彼が冒険者だった頃からね」

「えっ!? 冒険者だったんですか!?」

「あぁ、ご存知なかったんですな。 昔の話ですよ」

「はぁ……」

「それにしても、ラウルさんはあなたたちの事を随分気にかけていましてね。 村に残って欲しいけど、村に残るのはあなた達のためにはならないと」

「そうですか……。 ラウルさんには、本当に良くしていただいてます」

「えぇ、そうでしょうな。 あなたを見ているとユーウェインを思い出すと言ってましたよ」

「ゆーうぇいん?」

「あぁ、ラウルさんの弟ですな」

「弟……?」

「えぇ。 ちょうどあなたと同じ位の年齢でね。 パーティごと行方不明になってしまいまして」

「え……」

「歳の離れた弟なので、ラウルさんも随分可愛がっていたんですがね」

 テオドールさんが目を伏せる。

「死んだならまだマシだ、生きてるのか死んでるのか分からないことほどツラいことはないっていつも言ってましたな……」

 そうか、ラウルさんが俺に目をかけてくれたのは、そういうことか……。

「さぁ、もうすぐ大きな川の支流が見えますよ!」

 俺は川を眺めながら、今日が晴れで良かったなと思った。

 だって、これで天気まで雨なら泣くところだ。

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