俺がクビになった会社に、『ナカジマ』という新卒の男がいた。ソイツは国立大の出身だったが、違う意味でオツムが良いとは言えなかった。
とにかく会話が噛み合わなかった。話のポイントを全部違う方向へ持っていく。
そのせいで自分の顧客や、俺の長年のお得意様をぶちギレさせることはしょっちゅうだったし、俺はそいつのせいでクレームを三時間喰らわされたこともあった。
そして俺の会社では謎の暗黙のルールがあり、全員三十分前には出社し、朝の掃除をするという伝統があった。
他の新卒は文句も言わずに参加しているのに、アイツだけは一切しなかった。出勤してくるのも、朝の八時五十九分というギリギリ出勤だった。
上司が仕事について注意をしても、何で注意されているかが分からない、もしくは教え方が悪いと逆ギレする、本当に頭に来る奴だった。
出来が悪いだけならまだしも、態度も悪かった。椅子の座り方だって腰で座って生意気だったし、まともに返事も出来ない、目を見て話すことも出来なかった。営業なのにだ。
さらにアイツは電話に一切出ない。誰だって出たくなんかないが、仕事なんだからでなきゃダメなんだよ……。
なんで会社はアイツを雇ったんだ?
もちろん、人間は年齢だけでは計れない。しっかりしている新卒もいたし、全く仕事をしないで愚痴ばっかり言ってる定年間際のおっさん・おばさんもいるし。っていうか、俺も新卒の時はあぁだったのか?いや、もう少ししっかりしてたよな。
ただ、俺の若者嫌いの原因は、『ナカジマ』にあるのは明確だ。
ナカジマの野郎、俺の退職の挨拶のときにニヤニヤしてやがったな……。くッそ、イライラする。
俺とナカジマの様々な苦い思い出が、走馬灯のように頭の中に走った。
「……ふみぃ?」
「……ちゃん」
「……ちゃん」
「おい、兄ちゃん!!」
「は、はいっ!」
どうやら俺は、ジョシュアに対するイライラからどんどんと思考が広がり、最終的には地球での若者とのイヤな思い出にシフトしてしまっていたようだった。
そしてその怒りを中華麺にぶつけ、生地を叩きつけ練りまくっていた。
ラウルさんが来ていたことにも、さっぱり気付かなかった。
「兄ちゃん、大丈夫か?」
「あ、すいません……。 無心で生地を練っていました……」
ラウルはさんは、ほーんと少し意地悪な笑顔を見せた。
「で、どうよ、お二人さん。 仲良くやってっか!?」
やってねぇよ。
「あ、はい……。 早速、ジョシュア君はドライの魔法も使ってくれましたし……」
ラウルさんはニヤニヤしている。
「ま、いいや。 で、インスタントラーメンは順調か?」
「あ、そうですね。 早速、残りの麺にドライの魔法をかけてもらいましょうか」
ダルそうにジョシュアは、全ての麺に魔法をかけた。
結局全部で五種類の中華麺を作ったが、二つは失敗、二つはそこそこの成功、一つはビックリするほどの大成功だった。
そう、大成功したのは、ナカジマへの怒りをぶつけた最後の一つだった。
俺は初めて、ナカジマに感謝した。
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