「あ! ハヤシさん!!」
「えっ!? こんなところで、どうしたんですか!?」
「いやぁ、ラウルさんからリリーさんの店で働く人材の相談がありまして。 お陰様でうちに働きに応募にくる子がたくさんいたもんでね」
テオドールさんは得意げだ。
「ただ、うちでは面倒見切れないほど応募がありまして……。 で、チコル村でどうかと聞けば、みんなここで働きたいと言ったので、連れてきたんですよ」
「あぁ、それはリリーさんも助かりますね」
「えぇ、えぇ。 それに、浴槽も買いたい、ということでしたので、こうして伺いました」
「そうだったんですか」
「まぁ、今回は屈強なパーティを護衛としてちゃんと付けて来たので、安心です。 まぁ、ハヤシさんたちには敵いませんがね」
「ハハハ……」
「ところでハヤシさん! モコちゃんは?」
「モ、モコは、あの……。 体調悪いのが続いていまして……」
「そうですか……。 それは残念でしたなぁ。 良い医者を紹介しましょうか?」
「いえいえ、大丈夫です……」
すっかり油断してた。 モコの事情はラウルさん、メルちゃん、リリーさんしか知らない。
村の人には、もちろん伏せていた。 モコにも正体は明かしちゃダメだと言って聞かせているし、本人も分かっている。
「あ、そうだ。 お風呂屋さんってどんな浴槽なんですか?」
「お! 見たいですか!?」
見たくはないが、話しを逸らすのには大成功だ。
テオドールさんが連れて来た子達は、全部で六人。 ほぼ初対面の少年たちだったけど、テオドールさんと同じ誕生日のエドワード君もいた。
「あれ? エドワード君も村に住むんですか?」
「あぁ、そうなんですよ。 まぁ、新人のまとめ役といいますかね。 この話しがあったときに、エドワードからチコル村に行きたいと希望がありまして」
「そうなんですか」
「はい。 エドワードが育った村と、チコル村が似ているそうですよ」
「へぇ〜」
「ところで、ハヤシさん。 家をリフォームするそうで?」
「あぁ、そうなんですよ」
「その話しもラウルさんからお手紙頂いておりましてね。 資材や家具なんかも色々お持ちしてるんですよ」
「えっ!?」
商魂逞しいな……。
そしてテオドールさんは用事が済むと、次の仕入れへとさっさと旅立った。
「ハヤシさん、王家のコンペの結果次第では、また来ますからね!! ちなみに結果は、近々出ます!」
と、言い残して。
ラウルさんの実家は、やはり建て替えが必要な状態と判断された。
なので、結果的にはテオドールさんが持って来てくれた資材は大いに役立ったし、なんなら足りなくて追加注文することになったぐらいだ。
「お前、貴族にでもなるつもりか」
とラウルさんに言われるほど、なぜか豪邸になっていってしまった。 というか、大工さんの上手い営業にまんまと乗せられてしまった、というのが正解。
モコと二人だってのに、バスルームも三つあるし、キッチンまで二つある。 もはやいいカモにされたけど、マリタから来てくれた大工さんは商売に対して貪欲だし、断れない性格の俺との組み合わせでこうなってしまった。
ただ豪邸になってしまったことで、チコル村ではかなり浮いていた。
「なんだかなぁ……」
「たかふみぃ、あたらしいオウチきらい?」
「ううん、そんなことないよ〜」
そんなことはない。 そんなことはないんだけど、なんとなく豪邸すぎて落ち着かない。 根っからの貧乏性だ。 対してモコは家をいたく気に入り、自分の遊び部屋を大いに満喫し、調子にのって作った大浴場でも大ハッスルしていた。
そんなこんなで数ヶ月後、クローズ後のギルドへ行くと、ラウルさんからまとめてダークワイバーンやスケルトン、海竜の買い取り金を渡された。
「すまねぇな、兄ちゃん。 海竜の解体が遅れちまってよ」
「いえいえ、こちらこそお手数お掛けしてしまって……」
金貨が入った麻袋が、えげつないほど並べられていた。
「金貨、7億7982枚!!」
「うわ……」
「なんせ現金が足りなくて、王都のギルドに助けてもらってるからな」
「はぁ……」
「海竜のレアドロップと、借りてたナイフはこの前話した通り、こっちで買い取ってるかな」
「あぁ、はい……」
海竜のレアドロップは、ネックレスだった。 身に付けていると水中で息が出来る、という優れものだったので売るのをやめることにした。
「なにこれぇ〜!? スゴーーーイ!!」
モコは金貨の山にビックリして、机に手を置き、ピョンピョン飛び跳ねている。
「なんだお前のリアクションは。 モコだってこんなにはしゃいでるんだから、もっと喜べよ!」
「なんか、良いのかな、と思って……」
「罪悪感なんか感じても、腹の足しにもならねぇぞ。 ま、その金で、モコに美味いもんでも食わしてやれってんだ」
「はぁ、まぁ……」
豪邸を建てたのは、正解だったかもしれない。 この世界にお金を落とさないと、経済的に問題だよな。
「煮えきらねぇ男だなぁ。 ところでよ、お前、ヒジャーバの件どうすんだよ?」
海竜をラウルさんが買い取りし市場に流通させた件で、ヒジャーバのギルドや商工会議所的なところで大問題になったらしい。
ヒジャーバにとって、経済的に大打撃だったみたいだ。 そりゃそうだよね。
ラウルさんもチコル村で海竜の素材を使った武器や防具を作らせ流通させるよう努力していたし、まぁ、全部が全部チコル村で完結出来たわけじゃないけど、かなり村が潤ったのは事実だ。
そんなことがあったので、正式な謝罪をしたい、とヒジャーバのギルドから連絡があった。
ラウルさん曰く、実際は謝罪というより、改めてダンジョンにもう一回潜って、ヒジャーバに海竜を卸して欲しい、というのが本音だろうと言った。
ただ、モコを元に戻すためにももう一度海竜を倒すのもアリ、というのも、また事実だし……。
「あぁ、どうすっかなぁ……」
「グダグダしてねぇで、サッサと行ってこい!」
「は、はい……」
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