「モコは……? え、キマイラは死ん……、え?」
「キマイラはもう死んだよ。俺が殺したから。 それに、俺がモコだよ」
その辺の俳優なんか目じゃない。どんなフツメンだろうがブサイクだろうがイケメンと呼ぶ今の世の風潮をぶった斬る、超絶イケメンだ。
「え? どうして……?」
「本当に危険なときだけ出てこれるんだ。 さっきのはキマイラキングで、S級モンスターだったからね」
「は?」
「ゴメンね。 この姿で長い時間いられない。 でも、孝史と会えてよかったよ……」
そう言うと、モコは悲しそうな顔をして俺の顔を撫でた。俺が女の子に生まれていたなら、一発で落ちるだろう。
「孝史、お願いだから気をつけてね……。 あと、子供のときの俺は……」
そこまで言うと、ポンッと煙がたち、人間の子供の姿のモコに戻っていた。
は? 一体何が起こったんだ? 子供のときのモコって、何を言いかけたんだよ。
それに気をつけてってなんだよ……。 なんか怖いんですけど……。
っていうか、俺がキマイラ倒したわけじゃないんだな。 そりゃそうか。
ちびっ子モコは、俺を心配そうに見ている。
「たかふみぃ、大丈夫?」
「え、モコ……。 今のなんだったの?」
「なにがぁ? ねぇ、これ、気持ち悪い!! たかふみがやっつけたの!? しゅご〜〜い!!」
モコはキマイラキングを恐る恐る覗き込んでいる。
モコはさっきのことは全く覚えていないようで、何を聞いても「モコ、わかんない、知らない」と、何が起きたか全く分かっていないようだった。
あれは一体なんだったんだ? モコが変身した? それとも未来から来たとか? えぇ、さっぱり分からん……。
頭の中は混乱してるけど、また化け物が出てきても困るしな、一旦村へ帰ろう。
「よし、モコ、村へ帰ろっか」
「うん! かえる〜!」
とりあえずコイツ売ればカネになるかもしれないし、とりあえず拾っていこうかな。
俺はキマイラキングを触るのが怖くて、ひぃゃぁぁっと奇声を発しながらアイテムボックスにしまった。
ギルドに着くと、ちょうど午後からオープン予定だったこともあり、メルちゃんが開店準備をしているところだった。
「あ、ハヤシさん、モコちゃん。 もうオープンなので、どうぞお入りください」
中へ入るとラウルさんが肩を落として俯いていた。
「あ、どうも…… 」
そうか、奥さんの墓参りだったな……。
「おぅ……」
「……で? 今日はどうした? レベル上げは順調か?」
「あぁ、まぁ……。 あの〜、さっきキマイラキングが出まして、ちょっと色々あって倒したんですが……」
「プッ! あ、ゴメンなさい!」
俺たちの後ろにいたメルちゃんが、たまらなそうに吹き出した。
「アハハハッ!! なんじゃそりゃ! ヒーヒッヒッ、笑わせるんじゃねぇよ!」
ラウルさんは続けた。
「お前は一体なんだっつうんだよ! 辛気臭ぇことになってたがよ、兄ちゃんの冗談のお陰で笑わせてもらったよ! 」
Sランクなんだから強いのは分かるけど、そんな笑うことなのか? 強いと言っても、今いち希少性がわからん。
っていうか、キマイラキングがずっとアイテムボックスの中にいるのが気持ち悪いし、売っ払いたいんだよな。
「いや、ホントなんですよ」
「……。 お前なぁ、そんなに言うなら見せてみろよ……。 プッ」
俺はまたヤツを触るのが気持ち悪くて、ひああぁぁぁッッと情けない声を出しながらキマイラキングを床に出した。
「あっっっ!!」
メルちゃんが口を押さえて固まっている。
「……。 兄ちゃん、コレ、お前……」
ラウルさんも、固まっている。
俺はいたたまれなくなり、
「あの……」
と言ったが、その場の空気に耐えられず、俺も黙って固まってしまった。
数分が経っただろうか。
「コイツは確かにキマイラキングだな……」
ラウルさんが沈黙を破った。
「兄ちゃん、正直に言ってくれ。 これ、どうしたんだ?」
「あの、えっと……、 草原の向こうにある村の入口にいましたよ」
「で? 誰が倒したんだ?」
えぇ? 大人になったモコらしき男が倒しただなんて、正直に言って大丈夫か? いや、ダメだよな……。 どうしよう。
「えぇっと……、なんというか……」
「あのな、悪気があるわけじゃねぇがよ、兄ちゃんらのレベルでどうこう出来るもんじゃねぇんだよ。 A級の勇者様たちが複数のパーティでギリギリ勝てるかどうかっていうすげぇ奴なんだよ。 分かるか?」
「はい……。 それは、あの……」
メルちゃんが「念の為にレベルの確認をします」と、ギルドカードの提出を求めてきた。
メルちゃんにモコと俺の分を渡す。
「あっ! お父さん! モコちゃんが倒したかもっ!」
「はぁ? そんなわけねぇだろ」
と、ラウルさんがレベルを確認する。
「ウソだろ……」
なんと、モコのレベルが1だったのが、52まで上がっているらしい。
「おい、チビ。 お前さん、コイツやっつけたのか?」
モコはキョトンとした顔で、
「モコしらない。 わかんない!」
と、不貞腐れている。
俺にも色々聞かれたし、ウンザリしているようだった。
「でもな、お前これ……」
「わかんないの! モコもうやだ!」
そういうとモコは俺に抱きつき、ワンワン泣き出した。
「あの、すいません。 俺もよく分からないんですが、モコもこれ以上はちょっと……」
「……あぁそうだな。 悪かったな、チビ」
ラウルさんとメルちゃんは何か言いたそうにしていたが、グッと堪えているのが傍目にも分かった。
「……。 ちなみに俺は……」
と言うと、メルちゃんは有無を言わさず、
「ハヤシさんはレベル三です」
と、早口でピシャリと言った。 俺、変化無しじゃん……。
「で、どうする? 全部買い取りでいいのか?」
「もちろんです」
「いいのか? S級の肉なんか絶品だぞ?」
えぇ〜、あんなの食べるなんてキモい……。
「いえ、大丈夫です……」
「……。 モコ、おいしいの食べたい」
モコが突然、言い出した。
えぇ……、モコ、さっきまでギャン泣きだったじゃん……。 食べ物のことになると目ざといな……。
「じゃあ、こうしませんか? 肉はギルドで買い取りするとして、その肉を料理上手なハヤシさんに調理してもらう。それで村のみんなで食べましょう!」
は? なんで?
「そうすれば、モコちゃんもお肉食べれるし! 先祖祭りも近いし、ね、お父さん!」
「あぁ、それいいな! さすが我が娘!!」
「あの〜、先祖祭りってなんですか?」
二人は呆れた顔をしている。
「兄ちゃんは本当に何にも知らねぇな」
ラウルさんの話によると、先祖祭りは日本で言うところの『お盆』に近く、その期間は村を花で埋めつくし、帰ってきた死者を迎えるそうだ。
そして最終日には、村のみんなでご馳走を食べる習慣があるので、その日のメニューにキマイラキングを入れたい、ということだった。
あぁ、断りづらい……。
「モコも食べるぅ〜〜!!」
モコはお尻をフリフリしながら、謎のダンスをして喜んでいる。
「兄ちゃんなら、たいそう美味いもん食わしてくれんだろ!?」
「私もハヤシさんの料理食べてみたいです!」
あぁ、外堀を埋められるとはまさにこの事だな……。
「……。 分かりました……」
「やった〜! 私、すっごい楽しみです!!」
「モコもたのしみ〜〜!!」
と、モコは謎のお尻フリフリダンスを更に激しくしながら、喜んでいる。本当にあの超絶イケメンと同一人物なんだろうか。
「で、先祖祭りっていつからなんですか?」
「あぁ、今日からです。 最終日は一週間後ですね」
「でよ、買い取りの精算はヤツを解体してからになるから、また明日来てくれ」
俺たちは宿に戻り、俺はモコをジッーーと見つめた。
っていうか、こんなたぬきみたいなぷくぷく可愛い顔してるのに、大人になったらあんなハリウッド俳優よりも綺麗な顔になるんだな、と関係のないことに感心した。
そういえば、ラノベとかではフェンリルってもの凄い長生きだよな。
モコもそうなら、俺はモコが大人になるまで生きて育てられないんじゃないか? 会えて良かったって言ってたし、もしあれが未来から来たモコなら、大人の状態で俺に会ったことがないってことなんじゃないのか?
そうなる前に俺は死ぬってことだよな。
それに、気をつけてってどういう意味だろう? なんか深い意味でもあるのか?
グルグルと答えが出ないことに思考が巡り、俺はぐったりしてきた。
それにあれだ、気持ち悪いキマイラキングのメニューだって考えなきゃな……。
獣人姿でベッドの上でお絵描きをしていたモコが言った。
「たかふみぃ、モコ、お腹すいた!」
「ハハハ。 そうだな、メシにしよっか! モコ、何食べたい?」
「ラーメン!!」
俺は難しいことは考えるのをやめて、サッポロ〇番味噌ラーメンを大量に作った。
読み終わったら、ポイントを付けましょう!