明日いよいよマリタへ着くという日の夕方、それは起こった。
テオドールさんと売り子の男の子の一人、エドワード君の誕生日が同じだということ、しかも今日がその日だということが判明したのだ。
「それは偶然ですね〜」
俺がそう言うと、モコが聞く。
「おたんじょーかいする!?」
え、お誕生会って知ってんの?
「え? あ、え?」
俺がキョドっていると、エドワード君がキラキラと輝いた瞳で懇願する。
「あの……、もし良ければ、少しだけでいいんで、ハヤシさんの料理を分けていただけませんか? この前いただいたのが物凄く美味しかったので……!!」
エドワード君は今日十三歳になる。 そんなピュアな少年の願いは断れないだろ……。
「おぉ、それは私もご相伴に預かりたいですな! もちろん、お礼はいたしますよ」
テオドールさん、アンタもか。
「いやいやいや、お誕生日の方たちにお礼なんて貰えませんよ……」
そんなこんなで、臨時で急遽お誕生会をすることになったのだ。
ちなみに売り子の男の子たちはみんな十二歳~十六歳位の子たちで、日本で言うところの丁稚奉公のような感じらしい。
歳の近いジョシュアと男の子たちは仲良くなりそうなもんだけど、逆に歳が近いことでお互い意識し合っちゃってギクシャクしてるんだよな。 それが見ていて結構面白い。
それにしても、お誕生会なんてしてもらったことも、小学生以来呼ばれたこともない俺は、何を作ったらいいんだ?
ピザか? ピザなのか? でも、オーブンがないし、バーベキューグリルでもダメだよな……。
「おたんじょーかい、なにちゅくる!?」
「そ〜だな〜。 モコ、何食べたい?」
「ラーメン!!」
「ハハハ、ラーメンはまた今度ね」
麺か……。 お? パスタなんかいいんじゃないか? 豚肉いっぱいあるしミートソースパスタにしよう!
ミートソースを作ったことなんか無いから、レシピサイトを見て何個かのレシピを勝手に混ぜ合わせ、一番楽な方法を作り上げよう。
それから、お誕生会でモコの大食いがバレないよう、事前に大量のパンを与えた。
ちなみにモコは薄い皮のパンシリーズが大のお気に入りで、色んなフレーバーのを買ってあげたら大喜びでがっついている。 一番のお勧めはクリームパンだそうだ。
よし、次は買い物だな……。
玉ねぎ、人参、オリーブ油……、あとはにんにくとナツメグと粉チーズ、忘れちゃいけないトマト缶を大量にポチる。
ハーブ類とかはよく分かんないのでやめた。
まずは玉ねぎと人参はみじん切りにして、オークとオーガは細かく刻む。
……。
ダメだ、肉を小さくできない……。 ま、いっか。 ゴロゴロ肉でもイけるでしょ。
フライパンにオリーブオイルと潰したにんにくを入れて火にかけ、にんにくが色づいたら玉ねぎと人参を加える。
玉ねぎと人参がしんなりしたら、オーガとオーク、ナツメグを加えてさらに炒める。
あぁ、良い匂い……。
豚肉にこんがり焼き色がつくまでしっかりと焼いたらトマト缶と水を適量加え、さらに煮込んでその間にパスタを茹でてるんだけど、俺はアルデンテの良さがイマイチ分からないので、普通に時間通りに従う。
今回は早ゆでの三分のやつにしたから、超ラク。
茹で上がったパスタとミートソースを和えてお皿に盛り、完成!
粉チーズはお好みで。
あとはトンテキの素で、オークとオーガもジョシュアが文句も言わず焼いてくれたし、カットサラダも追加で買った。 ケーキは作れないから、モコと二人で生クリームとイチゴを交互に重ねただけの深皿デザートも作ったし、即席の割には良くやったんじゃないか? モコもジョシュアもよくお手伝いしてくれから、俺、満足!
敷物はモコが敷いてくれたし(グチャグチャなのでジョシュアが敷き直した)、さぁ、お誕生会の始まり始まり〜。
「いやぁ、凄いご馳走ですな! ハヤシさん!」
「うわぁ〜〜〜!! 凄い! ハヤシさん、ありがとうございます!!」
テオドールさんもエドワード君も、売り子の皆も期待で目がキラキラとしている。
「いえいえ、時間がなくてお恥ずかしいです」
「じゃあ、遠慮なくいただきます」
テオドールさんがそう言うと、皆が一斉に、
「いただきます!」
の大合唱。
こっちにも麺料理があるところもあるらしいけど、マリタではそこまでメジャーじゃないらしい。
みんな物珍しそうであるけど、起用にフォークで巻かずとも食べてくれている。
「スゴい……」
「美味しい!!」
「こんなの初めて食べた!!」
パスタはみんなに大好評だな。
トンテキに至っては、
「うぅぅぅ〜〜〜ん!!」
と声にならずに、悶絶してくれる。
まぁ、トンテキは旨いけど、トンテキのタレ自体が美味いもんな……。
サラダは俺の大好きなレモンドレッシングにしたけど、酸っぱい酸っぱい言いながら気に入ってくれてる。
そしてみんな、俺の予想以上に食べた。 十代の食欲を舐めちゃいけなかったな……。
結局モコも引くほど食べちゃったけど、みんな自分が食べることに真剣で特に誰も気付かなかったのは幸いだったよ。
「じゃあ、皆さん、そろそろデザートにしましょうか」
俺がそう言うと、ジョシュアも黙ってデザートを取り分けてくれる。
あれから特にジョシュアとは、どうして付いてきたのかとか、これからどうするつもりかとか、そういう類の話は一切していない。
それがジョシュアに取っては良かったみたいで、そのお礼がお手伝いに繋がってるように思う。
デザートはみんなに衝撃だったようで、こっちの世界では甘いものは裕福な人間じゃないと中々手が出ない代物らしいので、ひどく喜んでくれて良かった。
あぁ、でもごめんなさい……。 パックのケーキくらい出してあげれば良かったです……。
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