異世界のんびり放浪譚

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第29話 石けん

公開日時: 2022年3月28日(月) 22:50
文字数:2,280

 ラウルさんから無謀なジョシュアへの怒りの説教が終わるのを待ってから、俺は倒したモンスターの解体をお願いした。

「おい、これ以上あるなら外に出してくれ」

 大量のオークとオーガの山を作り出したところで、ラウルさんが焦りながら言った。

 ギルドの裏庭に向かった俺たちは、キラービーはモコ、クイーンビーはジョシュアに出してもらったが、そこでまた俺とジョシュアはクイーンビーに恐怖し気絶した。

 メルちゃん曰く俺たちは同時に倒れたらしく、仲が良いですねと笑われた。


 買い取り金は迷惑代として全て俺たちに渡すとラウルさんは言って聞かなかったが、そこはキチンとしてもらうことにした。




 翌日、何やら広場の喧騒で目が覚めた。

 朝食を食べてから様子を見に行くと、南にあるマリタという都市から行商人の一行が来ていた。

「どーぞ皆さん、よってらっしゃい、見てらっしゃい!」

 幌馬車三台分の品々が広場に広げられ、店員さんも五名の若い男の子たちがキビキビと働き、いつもの寂しげな村の様子とは一変していた。

「よう、兄ちゃん、チビ」

「あ、ラウルさん、メルちゃん、おはようございます」

 メルちゃんは買い物に夢中で、俺たちに気づいていない。

「おはよ〜ごじゃ〜ます」

 モコが頭を下げて俺の真似をする。

「凄い活気ですね〜」

「あぁ、そうだな。 ここの商会は結構デカくてよ、中々おもしろいもんが売ってるぞ?」

 俺たちはラウルさんと一緒に見て周り、俺とモコの服なんかを何着か買った。

「石けんはもうないのかな?」

 メルちゃんが独り言のように呟くと、奥から恰幅のいい人の良さそうな初老の男性が出てきた。

「ごめんね、お嬢さん。 石けんはどこも人気で品切れなんだよ」

 初老の男性が気の毒そうに言った。

「メルちゃん、石けんが欲しいの? 欲しいならあげようか?」

 俺がそう言うと、メルちゃんが目を丸くして驚く。

「え?」

「石けんならいっぱいあるし、あとであげるよ」

「あ、あの……、いっぱいあると言うのは、いかほどお持ちなんでしょうか?」

 初老の男性が口を挟んだ。

 俺はそこで初めてピンと来た。 これは商売になると。

「ご満足いただけるほどご用意できますが?」

 俺はキメ顔で言った。

「な、なんと……!! では是非、今から商談させてください!! ギルドマスター、お部屋を借りられますかな?」

「あぁ、どうぞお使いください」

 ラウルさんはそう言うと、なんだか意味ありげな視線を俺に向けた。


 俺は一旦宿に戻り、ネットスーパーで石けんを何種類も買い、モコと二人で包装をバリバリ剥がしてからギルドへ向かった。

 ギルドの応接室へメルちゃんに通されると、そこにはラウルさんと先程の初老の男性がいた。

「お待たせしました」

「いえいえ、とんでもありません。 私はマリタで商人を行っております、テオドールと申します」

「私はハヤシです。 この子はモコと言います」

 モコは俺の真似がマイブームらしく、恭しくお辞儀をする。

「ちょっとした商談がありまして、その帰りにこちらの村へ寄らせていただいたんですが、まさか石けんをお持ちの方に会えるとは、いやはや驚きました」

 俺はイマイチ石けんの貴重さが分かっていない。

 こちらの風呂事情は結構悲惨。 宿に風呂場というか洗い場はあったけど風呂桶はなく、タライに入った湯で汗を流すだけの場所だった。

 もちろん備え付けの石けんもシャンプーも無かったが、俺はネットスーパーで買ったものを使っていたので特に困ったことは無い。 まぁ、ちゃんと風呂には入りたいけど。

 なので、みんなが石けんやシャンプーを持っているのかどうかも知らなかったというわけだ。

「是非、お持ちのものを見せていただけませんか?」

 俺は見本として石けんを見せた。

「!?」

 テオドールさんはマジマジと石けんを見つめている。

「これはなんと質の良い……」

 そう言いながら、次から次へと石けんを手に取り感嘆している。

「あの……、いかほど買い取らせていただけますでしょうか!?」

 テオドールさんは興奮で顔が真っ赤だ。

「あの……、一つおいくらになるんでしょうか……」

「そうですね……。 これだけの質であれば銀貨六枚……」

 え、百円位のものが約六千円!? 俺は唖然とした。

「いや、七枚、八枚……」

 えぇ? マジか……。

「えぇ〜い! 持ってけ泥棒! 金貨一枚だ!」

 約一万かよ、マジか……。

 俺はその日用意した石けんで、金貨五十枚を稼いだ。

 嬉しいの半分、罪悪感半分の妙な気持ちでいっぱいだ。

  ただ、ラウルさんは俺たちの商談中、ずっと無言で神妙な顔をしていることが気になっていた。


「ところでハヤシさん。 伺ったところによると、あなた様は冒険者ギルドに登録されているとか」

「はい、そうです」

「ではよろしければ、我々の護衛をお願いできないでしょうか?」

「へ?」

「いえね、護衛を頼んでいたパーティがいたんですが、お恥ずかしい話、お金を騙され逃げられてしまったんです。 こちらのギルドで改めて募集しようと思っていたのですが、いかがでしょうか?」

「はぁ……」

「ランクもCに上がったそうですね」

 俺たちはこの前のキマイラキングとダンジョン攻略で、ランクCまで上がっていた。 キマイラキングを倒しているので本当はもっと上がるはずなんだが、ギルドマスターの権限ではCまでしか上げられないということだった。

「マリタまでの帰りの護衛をお願いしたいんです。 マリタの街は美しくいですよ。 食べ物もおいしいですし、どうでしょう?」

「おいしいものいっぱい!?」

 モコの目が輝いている。

「あぁ、いっぱいだよ。 ダンジョンも沢山あるし、街は活気に満ちてるしね」

「あの……、少し考えさせてください」

 俺はそう言い、部屋を後にした。

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