「に、逃げなきゃ……」
ジョシュアが一歩、引き下がる。
「えっ? えっ?」
「いい? 走ったら駄目。 静かに、とにかく静かに戻ろう。 気づかれたら終わりだから」
震えながらジョシュアが言った。
「え、あれってジョシュア君でも倒せないの?」
「シッ! 俺の全力で一匹がギリ。 どうせアンタも無理でしょ……」
いや百匹はいるし、モコを闘わせるのもダメだよな……。
え、どうしたらいいんだよ。 俺ら、マジでピンチじゃん……。
ジョシュアは俺とモコを元来た道へ誘導しようとしたけど、時すでに遅し。
一匹のダークワイバーンが俺たちに気付き、聞いたこともないような大声で『ギィー!!ギィー!!』と叫んだ。
その鳴き声で一斉にダークワイバーンたちが俺たちに気付く。 今俺たちのいる洞窟の中に向かって突進してくる。
「あぁ、もう!!」
そう言うなり、ジョシュアがワイバーンに使っていた氷魔法を連発する。
氷魔法はダークワイバーンたちに当たりはするものの、何のダメージも受けていないようだった。
「ダメだ、走るぞ!!」
俺はモコを抱え、全速力で洞窟の中を引き返す。
「ダメだ、死ぬ……」
ジョシュアは発する言葉とは裏腹に、あきらめずに振り返っては魔法を打ちまくる。
洞窟の穴がダークワイバーンの大きさから比べると小さいのが幸いし、ダークワイバーンが洞窟の中へ入ってくるのに身体と身体がぶつかって、奴らは若干もたついていた。
俺たちに襲いかかろうと我先に洞窟に入ってこようとするその様は、まるで3D映画を見ているようで、どこか他人事のようだ。
ただ、そのダークワイバーンのもたつきも一瞬のことで、雪崩のように飛び込み、洞窟の中を覆い尽くす。
終わった。
「この先は大きな空洞になってたから、あそこまで行ったらもう逃げられない……!」
「ダークワイバーンが通れないような細道なんて、あと何キロもなかったよね……」
俺とジョシュアはうなだれた。
「ここで何とかしないと……」
ジョシュアはどうしたらこの苦境を切り抜けられるのか、必死に考えているようだった。
「たかふみぃ……。 ごめんちゃい」
モコはそういうなり俺とジョシュアの前に飛び出し、魔法を放った。
モコの手からは黄金色の光りが渦を巻いて繰り出され、ダークワイバーンを次々になぎ倒していく。
「は? え?」
ジョシュアは目が飛び出さんばかりに驚いている。
モコの繰り出す魔法は次々にダークワイバーンを倒し、死体の山が積み上がっていく。
「な、なに、え? あれって、え? ホーリー?」
ジョシュアはその間、ずっとブツブツ独り言を言っている。
モコはというと疲れを一切見せず、切れ間なくジョシュアのいうホーリーの魔法を放ち続け、ついに最後の一匹が断末魔をあげながら事切れた。
「な、なに……。 今の……」
ジョシュアは俺とモコの顔を見比べながら、頭を掻きむしる。
ジョシュアに話すべきなのか、どう繕うべきなのか?
俺はどうしていいか分からず、立ちすくむしかなかった。
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