俺は黙々とダークワイバーンをアイテムボックスにしまいながら、どうしたらいいのか考えていた。
(でも、俺だってモコの正体はよく分かんないんだよな……)
ジョシュアは黙り込み、あぐらをかいて何かを考えこんでいる。
(モコがフェンリルだって言ってもいいのか?)
「たかふみぃ、ごめんしゃい。 ジョシュアなら負けちゃうとおもったの」
「あぁ……、いいんだよ。 助けてくれてありがとう」
モコは嬉しそうにニコーーーッと満面の笑顔で抱きついてくる。
「うん、よしよし。 良い子」
俺はどうしたもんかと思いながら、モコの頭を撫で続けた。
ダークワイバーンとドロップアイテムも全て回収し終わったのを見計らって、ジョシュアが口を開いた。
「そろそろ説明して欲しいんだけど?」
「あ、あぁ、うん……」
俺の返事と同時にギュルルルルル〜〜!!!っと、モコのお腹が尋常ではない大音量で鳴る。
モコは力を使いすぎたのかなんなのか、今まで聞いたことないお腹の音は洞窟の中に響き渡り、ジョシュアの張り詰めていた空気が一気に氷解するのが分かった。
「フッ。 とりあえず、ご飯食べさせなよ」
「あぁ、うん……」
「ダークワイバーン一匹出して」
俺は言われた通りに従うとジョシュアは見事なナイフ裁きで解体し、俺に肉を差し出した。
「Aランクの肉なんて、普通は貴族以上じゃないと手が出ないから」
「えっ、そうなの?」
「村で食べたキングキマイラなんて、ほぼ一生かかっても食べれるもんじゃない」
「ふ、ふ〜ん……」
ジョシュアはじっと俺を見つめ、何か俺から言い出すか待っているようだったけど、特に深入りする気はないようだ。 『今』は。
「あ、お肉ありがとう……」
俺はキマイラキングの件は完全スルーした。 まずは頭を切り替えて、メニューを考えなきゃ。
………………。
ダメだ、全く思い浮かばない……。
どう言い訳したらいいのか、そればかりが頭をぐるぐる巡る。
「たかふみぃ、ごはんたべたいっ!!」
「あぁ、ごめんね。 すぐ作るから……」
もういい、ここは超簡単に麺つゆで親子丼だ。
俺はネットスーパーで材料を買い、超適当な親子丼(本当は他人丼) を作った。
ネギも三つ葉もなし。 動揺してるから、味噌汁すら作るの忘れちゃったけど。
「いたらきます!!」
この問題の当の本人であるモコは、いつもと何も変わらず元気に食べ始める。
ジョシュアは何だか食欲なさげだ。
「おいしーーー!!」
モコはとにかく旨そうに食べるから、ジョシュアもそれにつられた様子。
「んっ!?」
「ど、どう? ジョシュア君。 美味しい……?」
「……。 この肉、ヤバい」
俺も食欲ないけど、一口食べてびっくり。 なんだ、この肉!?
正直言って、俺は鶏肉 (鶏肉じゃなくてダークワイバーンだけど) の善し悪しがあまり分からないし、地鶏も硬めだな、くらいしか分からない味音痴の男だ。
でも、この肉は確かに旨い。 こんな状況じゃなければもっと旨かったんだろうけど。
食事が終わった途端、ジョシュアが口火を切った。
「で、モコはどういうこと? あの強さ、マトモじゃない。 それに、この国に聖魔法使える人なんていないはずだけど」
「あ、そうなんだ……」
モコはどうしたらいいのか分からず、モジモジしている。
「あのね、ジョシュア君。 ハッキリ言って俺も分からないんだよ」
「分からない?」
「そう、分からない」
だって、事実だ。
「気付いたら強かった、としか言いようがないんだよ」
ジョシュアがモコを見る。
「あのねぇ、モコはね、ちゅよいの。 なんでかはわかんないの〜」
自分がフェンリルであることを言わないほうが良い、というのはモコもキチンと理解してる。
俺とモコの顔を見比べ、ジョシュアがため息をつく。
「はぁ〜……。 ねぇ、キングキマイラを倒したのもモコだったの?」
ギクッ。
「……そうでもあるし、そうではない、って言うのが正しいかな……」
「どういう意味?」
「あれはモコも覚えてないみたいだし、俺もなんだったのか分からない」
「分からないって? 見てないの?」
「気付いたらキマイラキングが死んでたっていうか……」
さすがに大人モコの話しなんてできる訳が無い。
「……」
長い沈黙のあと、ジョシュアが言った。
「もう分かった。 これ以上聞いても水掛け論だろうし」
「あぁ、うん……」
「ただ、これから面倒なことになるよ」
「面倒とは……?」
「ダークワイバーンの群れを壊滅なんて、一躍ヒーローだから。 しかも、こんな小さい子がやったなんてことがバレたら神童扱いされるに決まってるじゃん」
「そ、それは困る……。 なんとかならないかな?」
「ダークワイバーンとドロップアイテムは売らなきゃいいんじゃない?」
「あ、そうか……」
「それか、俺たちの村に帰ったときに父さんにうまいことやってもらうか」
な、なるほど……!!
「え、でもさ、ダークワイバーンがいなくなったことってバレないの?」
「は? ただのノーマルワイバーンだけしか依頼書に書いて無かったし。 そもそも、ダークワイバーンがいるなんて聞いてない」
「そう……。 あ、でもさ、モコのレベルが上がってたら? 怪しまれない?」
「あぁ、そうだね。 バレるな」
ダメじゃん……。 しばらくジョシュアは考え込んでから閃いた。
「あ、モコのギルドカードの登録を抹消すればいい」
「え、そんなこと出来るの?」
「出来る。 抹消だけだから届出さえすりゃいいだけ。 念の為カードも燃やしちゃえば?」
なんだかジョシュアが頼もしくなってきた。
ジョシュアも詮索するよりもモコを好奇の目から守ることにシフトしたみたいだし。
「ねぇ、なんか甘いものないの?」
「え、ダイエット……?」
ジョシュアにもの凄い顔で睨みつけられたから、俺はせめてもの優しさでゼリーをあげた。
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