異世界のんびり放浪譚

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第84話 悪役丸出し

公開日時: 2022年5月16日(月) 00:50
文字数:1,617

 え、甲冑って中身人間じゃないの? 俺、人間なんて殺せないって……。

 パニックで頭が真っ白になった俺は、呆然とモコを抱きしめたまま固まってしまった。

 するとモコはスルりと俺の腕から飛び降り、「パンッ」と手を叩き何やら青い魔法を放ったけど、その青い魔法は次々に甲冑たちの身体を覆い尽くし、甲冑はガシャンと大きな音をたててバタバタと崩れ落ちていく。

 と同時に大蛇が牙を向きこちらへ向かってくるので、俺は思わずファイヤーボールを放つ。 大蛇は何とも言えない不気味な断末魔を上げ、燃え上がった。

「ほう、なかなかやりますね」

 オーガスタスは悪役丸出しのセリフを吐き、モコに向かって右腕を突き出した。

「お前……」

 モコが攻撃されると思った俺がオーガスタスへ攻撃を仕掛けようとすると、

「おてて、ないない!」

とモコは俺に言って、さっき甲冑へ向けたのと同じ青い魔法をオーガスタスへ向けた。 オーガスタスはシールドを張ったっぽいけど、モコの魔法はそのシールドを突き破り、奴の身体は青い魔法に包まれた。

「クソッ!! 使えねぇ身体だな……」

 そう言うとオーガスタスの身体から小さな蛇が口の中からニョロニョロと這い出し、フッと消えていった。

 な、なにあれ、キモい……。

 モコはヨダレを垂らして目が泳いでいる王の前に行き、さっきと同じ青い魔法を放つ。 するとガクガクガクっと王は玉座から崩れ落ち、失神したようだった。

「モ、モコ、それって……」

 モコは振り返ると、とてちてと俺に向かって走り寄り、ギューっと抱きついてくる。

「あのねぇ、なんかわるいのがちゅいてたからね、ないないしたんだよ! モコ、えらい?」

「うん、エラいよ!」

 何かが取り憑いてたから、モコの謎の青い魔法で浄化したってことか。 王様なんてどう考えてもおかしかったし、主犯っぽいオーガスタスも蛇が憑いてたってことだよな……。

 あ! 忘れてた! 甲冑!! 一番近くにいた甲冑のひとりの顔部分をめくると、普通の人間が入っている。 でも、失神しているだけのようなので、安心した。

 っていうか、モコすげぇな……。




「本当に御礼の言葉もありません……。 なにをどう御礼したらいいんでしょうか!?」

 オーガスタスはヘニョヘニョと情けない口調で言った。

「いやぁ……。 別にお礼なんて……」

 俺は先程通された個室で、オーガスタスにさっきの事情を一から説明した。

「でも、私自身、いつから記憶がないか分からないんです……。 だって、国政の仕事を今日もした記憶はあるし、これってなんなんでしょう??? でも、所々記憶がないし、オボロげなんです。 あぁ! 私、もしかして処刑されるんじゃ……。 いやぁぁぁぁ!」

 よよよとオーガスタスは泣き出した。 顔つきがさっきまでと全く違い別人のように見えるけど、本来はこんな感じの人だったんだな……。

「あの、王様って……」

「あぁ、王は自室で休んでいます。 もう高齢ですから……。 どうやら王も記憶はあるようですが、私と同じようにオボロげみたいで……」

「俺たちを攻撃しようとしたことは覚えてるんですか?」

 オーガスタスはパッと顔を上げ、ブルブルと頭を横にふった。

「いいえ、まさか! 褒美を差し上げるよう王よりお話しがございましたので、お呼びしただけです。 さっきのことは全然分からないんです……」

「その褒美ってなんですか?」

俺がカマをかけると、オーガスタスは自慢げに言った。

「王は貴方様に領土を差し上げようとしていたのです! 寛大な御心の方ですよ!」

「領土?」

「はい!」

「さっき俺への褒美は、ネックレスを渡そうとしたんですよ」

「私がですか!? なんで!?」

 オーガスタスは目を剥いて驚いている。

 う〜ん、やっぱり何にも覚えてないんだな。


 オーガスタスが部屋から出たあと、俺はモコに聞いてみた。

「ねぇ、モコ。 さっきのなんだったか分かる?」

 口をポカンと開け、モコは塗り絵の手を止めた。

「わかんない! わるいのないないしたらけ!」

 まぁ、そりゃそうか。 でも、これは面倒なことになったな……。

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