「う、うめぇ………!! 」
「なんだコレ!? 」
ラウルさんは物凄い早さで、スープの一滴まで完食した。
サッポロ○番のメーカーの人に、この食べっぷりを見せてあげたいくらいだ。
「こんなうめぇもん、生まれて初めて食ったぜ… 」
そうでしょうそうでしょう、俺はうんうんと深く頷いた。
「おい、これ、この麺はなんなんだ?」
「あぁ………、えっと~~~、小麦粉?」
「なんで疑問系なんだよ」
「す、すいません…。 あんまり詳しくなくて…。 乾麺だと思うんですけど……… 」
「カンメンってなんだよ」
「乾いた麺? で、保存期間が長い?」
ラウルさんが、ジロリと俺を見る。
「か、乾いてるから、ほ、保存期間が長いんです………と、思いますです、ハイ…」
「保存期間が長いって、どれくらいだ?」
えぇ、知らないよ…。
「多分、半年位? あ、どれだけ乾燥してるかによるんでしょうけど、多分半年くらいだと思います、ハイ……… 」
保存が効く、ということがラウルさんに響いたらしく、
「それはいい! 小麦粉ならこの村にも備蓄があるからな! 古い小麦粉でその乾麺とやらを作れば、大助かりじゃねぇか! 」
村では保存期間が経過した古い小麦粉を、虫が湧く前になんとか活用出来ないかと前々から課題になっていたそうだ。
「兄ちゃんよ、俺らの小麦粉でこの麺を作ってくれねぇかな」
「えっ!? いや、無理です、作り方わかんないし………」
「じゃあ、兄ちゃんがそれを買った店でもなんでもいいからよ、伝書鷲でも飛ばして聞いてくれや」
伝書鳩じゃなくて、鷲なんだ…。
「いや~、難しいんじゃないですかね~……… 」
「年寄り共がせっかく、苦労して収穫した小麦なんだ! 古い小麦粉を活用できるんなら、こんなありがたいことはねぇ! 年寄り共だって、苦労が報われるだろ!」
「頼む、この通りだ!」
と、ラウルさんは俺に頭を下げた。
「や、やめてください!」
「いや! 兄ちゃんがこの話を飲んでくれるまで、俺は頭を上げない!」
えぇ………、参ったな。
「ラウルさん、あの………」
ラウルさんは目をぎゅっと固く閉じ、膝の上で両手のひらに血管が浮き出るほど、握りしめていた。
「ラウルさん、すみません。 麺は作れると思います。でも、乾燥させることが俺には出来ません………」
「干し肉とは違う方法ってことか?」
「え、干し肉は、どうやって作るんですか?」
「手間暇かけた昔ながらの方法もあるけどよ、最近はドライの魔法で作ることが多いな」
ドライの魔法で干し肉が出来るなら、中華麺さえ出来れば案外イケちゃうんじゃないか?
「でも、ドライの魔法って誰でも使えるんですか?」
「いや、もちろん、使えねぇ奴もいるよ。俺はドライは使えねぇな」
「はぁ」
「魔法自体使える奴はそれなりにいるけどよ、一種類の魔法しか使えねぇやつもいれば、色んな魔法を操れるやつもいる。ま、人それぞれだな」
あとは魔力の強さの問題だそうだ。
「でよ、ドライはうちの倅が使えんだよ! だから、な、兄ちゃん、頼む! この通りだ!」
そう言ってラウルさんは、また頭を下げた。
ラウルさんが勢いよく頭を下げた反動で、今は無い左足の部分にあるズボンの結び目が、ゆらゆらと揺れた。
「………。 分かりました。出来るかどうかは別として、やれるだけのことはやってみます」
「本当か!? ありがとな、兄ちゃん! 本当にすまねぇ!」
別に同情したわけじゃない。
ただ、もし俺がラウルさんと同じ立場になったら、俺は自分以外の人や、村のことを考えて、こんな素性も分からない男に頭を下げて頼み事が出来るだろうか?
いや、きっと俺は自分がいかに不幸かを卑下して、腐って、他人や、まして村のことなんか考える余裕なんてどこにもないだろう。
だからせめて、そんな人からの頼みくらいは聞いてあげたいと思った。
ま、コソッとレシピサイトに中華麺のレシピがあるか、確認したしね。
「あの、息子さんって………」
「あぁ、兄ちゃんも見たことあるはずだ。日がな一日、ギルドんとこのベンチに座ってるからよ」
やっぱり。
「じゃあ、頼んだぞ」
と、ラウルさんは帰って行った。
「おかわりー!!」
というモコの声でまた、俺はお代わり係兼テーブル拭きに戻った。
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