異世界のんびり放浪譚

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第20話 カルビ丼

公開日時: 2022年3月19日(土) 20:14
文字数:1,243

 いつもの俺ならメラメラと復讐心を燃やし、カツ丼くらい作ったかもしれない。

 いや、作ろうかなとも思ったけど、今の俺にその体力も気力もないことにハタと気づいた。

 スライムとの激闘で身体中痛いし、ダルい。

 揚げ物なんかやってらんねぇよ、という心境だ。うぅ~ん、どうしよ…。


「ねぇ、たかふみィ~、どうしたのぉ〜?」

 モコが心配そうに言った。

「ううん、なんでもないよ。 美味しいご飯作るから、ちょっと待っててね~」

「はーい!」

 米は作れるときにまとめて土鍋で炊いた大量のストックがあるし、問題はおかずだな。


 何作ろうか……。とにかく楽なもので……。あ、もういいや、あれしかない!

 俺はジョシュアとモコが遊んでいる間にこそっと物陰に隠れ、ネットスーパーで牛カルビと焼肉のタレ、わかめスープとカットサラダを大量に買った。


 一人暮らしで友だちもいなかった俺は、焼肉屋に一緒に行く相手がいなかった。一人焼肉に行く勇気もないけど、でも焼肉は食べたい。そんな時によく作っていたのがコレだ。


 スーパーで売っている焼肉用カルビをフライパンでそのまま焼き、いい感じに火が通ったら強火にして焼肉のタレを回し入れ、なんちゃってフランベにして終わり。 超お手軽料理だ。

 これをご飯にのせるだけなんだけど、まぁ、美味いんだ、コレが。


 もちろん汁物はわかめスープ、そして付け合せは便利なカットサラダ(俺が今ハマってるレモン味のドレッシングでどうぞ)。


 どうよ、滅茶苦茶ラクだけど、満足メニューじゃないか?

 それに前にラウルさんから、この国でも米も食べる、と聞いていたし、どうだ、最高だろ。


「いい匂いだね〜!」

 ふふふ……、焼肉のタレも俺がいつも使っている178円の特売品じゃなく、お高いやつにしたからな……。

「モコ、ご飯できたよ〜。 ジョシュア君も呼んできてくれる?」

「は〜い!」


「……。 なに?」

「ご飯作ったから、ジョシュア君も良かったらどうぞ?」

「……」

「冷めちゃうから、おいしいうちに食べてね」

 なんで俺が気を使わなきゃいけないんだよ。

「いたらきま〜〜す!」

 モコはいつだって元気だ。

「うまい、うまーーい!! たかふみぃ、これ、すぅっっぅごくうまい、うまいの〜!」

「ねぇ、ジョシュアはどうして食べないの? うまいうまいの〜!」

 モコが不思議そうにジョシュアを見る。

 ジョシュアはモコの手前なのか、

「……。 食べるけど」

 と、少しだけカルビ丼を食べた。

「!?!?!?!?」

 ジョシュアが一口食べたそのとき! 瞳が一瞬輝いたのを俺は見逃さなかった。

「ねぇ、うまいうまい?」

「………。 うん……」

「ねぇ、たかふみぃ、ジョシュアもうまいうまーいって!」

 ふふふふふ……。 どうだ? 日本の食品メーカーをナメるなよ??


 こうして俺はジョシュアの胃袋をがっちり掴んだが、期待していた態度の緩和は一切なかった。


 カルビ丼は相当気に入ったようで三杯おかわりをしたが、肉が薄いと悪態をついた。ワカメスープもおかわりしたけど、ワカメがなんかピラピラして気持ち悪いと悪態をついた。


 うぅ〜ん、この思春期め……。



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