いつもの俺ならメラメラと復讐心を燃やし、カツ丼くらい作ったかもしれない。
いや、作ろうかなとも思ったけど、今の俺にその体力も気力もないことにハタと気づいた。
スライムとの激闘で身体中痛いし、ダルい。
揚げ物なんかやってらんねぇよ、という心境だ。うぅ~ん、どうしよ…。
「ねぇ、たかふみィ~、どうしたのぉ〜?」
モコが心配そうに言った。
「ううん、なんでもないよ。 美味しいご飯作るから、ちょっと待っててね~」
「はーい!」
米は作れるときにまとめて土鍋で炊いた大量のストックがあるし、問題はおかずだな。
何作ろうか……。とにかく楽なもので……。あ、もういいや、あれしかない!
俺はジョシュアとモコが遊んでいる間にこそっと物陰に隠れ、ネットスーパーで牛カルビと焼肉のタレ、わかめスープとカットサラダを大量に買った。
一人暮らしで友だちもいなかった俺は、焼肉屋に一緒に行く相手がいなかった。一人焼肉に行く勇気もないけど、でも焼肉は食べたい。そんな時によく作っていたのがコレだ。
スーパーで売っている焼肉用カルビをフライパンでそのまま焼き、いい感じに火が通ったら強火にして焼肉のタレを回し入れ、なんちゃってフランベにして終わり。 超お手軽料理だ。
これをご飯にのせるだけなんだけど、まぁ、美味いんだ、コレが。
もちろん汁物はわかめスープ、そして付け合せは便利なカットサラダ(俺が今ハマってるレモン味のドレッシングでどうぞ)。
どうよ、滅茶苦茶ラクだけど、満足メニューじゃないか?
それに前にラウルさんから、この国でも米も食べる、と聞いていたし、どうだ、最高だろ。
「いい匂いだね〜!」
ふふふ……、焼肉のタレも俺がいつも使っている178円の特売品じゃなく、お高いやつにしたからな……。
「モコ、ご飯できたよ〜。 ジョシュア君も呼んできてくれる?」
「は〜い!」
「……。 なに?」
「ご飯作ったから、ジョシュア君も良かったらどうぞ?」
「……」
「冷めちゃうから、おいしいうちに食べてね」
なんで俺が気を使わなきゃいけないんだよ。
「いたらきま〜〜す!」
モコはいつだって元気だ。
「うまい、うまーーい!! たかふみぃ、これ、すぅっっぅごくうまい、うまいの〜!」
「ねぇ、ジョシュアはどうして食べないの? うまいうまいの〜!」
モコが不思議そうにジョシュアを見る。
ジョシュアはモコの手前なのか、
「……。 食べるけど」
と、少しだけカルビ丼を食べた。
「!?!?!?!?」
ジョシュアが一口食べたそのとき! 瞳が一瞬輝いたのを俺は見逃さなかった。
「ねぇ、うまいうまい?」
「………。 うん……」
「ねぇ、たかふみぃ、ジョシュアもうまいうまーいって!」
ふふふふふ……。 どうだ? 日本の食品メーカーをナメるなよ??
こうして俺はジョシュアの胃袋をがっちり掴んだが、期待していた態度の緩和は一切なかった。
カルビ丼は相当気に入ったようで三杯おかわりをしたが、肉が薄いと悪態をついた。ワカメスープもおかわりしたけど、ワカメがなんかピラピラして気持ち悪いと悪態をついた。
うぅ〜ん、この思春期め……。
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