『起きて~!!』
モコと一緒に寝落ちしてしまっていたようだ。久々に泥のように寝たな…。
アイテムボックスの中のスマホを見ると、朝の八時だった。スマホの充電が減っていないので、時間停止の機能があるんだろう。
『たかふみィ~、お腹すいた~』
マジか…。
結局昨日は銀貨六枚近く使っていた。あんまりカネのことは言いたくないが、厳しい…。
『モコね、昨日の唐揚げまた食べたい!』
昨日のぐったり具合が嘘のように、モコは元気いっぱいだ。ベッドの上でグルグル回り続けてる。
やっぱり、食べ物と疲労の関係はあるのかもしれない。まぁ、ぐっすり寝たっていうのもあるかもだけど。
ただ、このまま弁当ばっかり食ってたら、生活が成り立たない。
どれだけアイテム収集で収入を得られるかも分からないし、面倒だけど自炊も考えないといけない状況だ。
結局モコは、朝から昨日の夜より食べる勢いだったが、
「モ、モコ…。ご飯は朝だからそれくらいにして、お、おんも行こうか…」
というひよった俺の震え声にパッと顔を上げ、
『行くーーーーー!!』
と俺に抱きついてきた。
あぁ、罪悪感…。
これはなんとしてでも稼がねば。
広場は今日も閑散としていたが、食料品の露店は出ていた。
パッと見、食材が見えないスープと固そうなパン、痩せ細った野菜と干し肉が幾ばくかのみで、店番をしているおばあさんも覇気がなく、どこかうつろだった。
俺たちがギルドに行くと、昨日のギプスをしたイケメン少年が、また同じベンチに座ってこっちをボーッと見ている。
今日はカネになる仕事があるか心配でそれどころではない。スルーだ。
ギルドの扉を開くと、昨日の父娘が元気に挨拶してくれる。
「おはようございます!」
「よぉ!よく来たな」
「おはようございます。あの、今日はこの辺のことや、俺でも出来る依頼などをご相談したくて…」
「おう、なら兄ちゃん、ちょっとこっち来い!」
と、カウンターをバンバン叩く。
「まぁ、座りな」
「ありがとうございます」
モコを椅子に座らせようしたけど、力を入れて拒絶する。
「かわいいなぁ、父ちゃんの抱っこじゃなきゃ嫌ってか!」
モコはぎゅっと目をつぶって抱きついてくる。
あぁ…、かわいい…。
「兄ちゃんよ、やっぱり聞きたいんだが、あんたどっから来たんだ?今はどこもモンスターだらけで危ねぇのによ」
「あ、あの…。あ、えぇ~~…」
ダメだ、何にも思い浮かばない、どうしよう…。
するとモコがもじもじしながら、
「おうちから来たんだよ」
「ハッハッハッ、そりゃそうだ!! 分かった分かった、もう聞かねぇよ!」
た、助かった…。
「俺はラウルって者だ。ここの支配人だが、魔物、まぁモンスターの解体なんかも俺がやってる。事務的なことは娘がやってくれてるがな」
「あの、魔物とモンスターって何か違うんですか?」
「いんやぁ?まぁ、言いやすいか言いにくいかの違いだな。俺はモンスターのほうが言いやすいがな」
「はぁ…」
「ま、そんなことよりよ、兄ちゃんこの辺のことに疎そうだからな。俺が親切に教えてやるから耳の穴かっぽじってよく聞けよ~」
ラウルさんの話を要約すると、
・ここはナウリーノ国のセバタ県チコル村
・数年前から徐々にモンスターが大発生し、国軍や冒険者と勇者らで討伐していたが、各地で大発生が頻発しているので、討伐が追い付いかず手に負えないところまで来ている
・モンスターといっても大体食べられるし、皮や角なんかは素材にもなる、さらにドロップアイテムを落とすモンスターもいるから、人間にとって無くてはならない存在、生活の糧でもある
・モンスターの大発生で人間側に余力がないので、アイテムやモンスター肉をギルドに卸す頻度が落ちている。食糧難、経済難の二重苦
・農家の人までモンスター討伐に連れて行かれ、老人が主に農作業に駆り出されているので、どうしても収穫量が減る
・チコル村も約三年前にモンスターに襲われ死傷者が出た
ざっとこんなことを聞いた。
「モンスターがいなけりゃ、俺らは生活が出来ねぇ。あいつらを食ってもいるしな」
「あの、モンスターが大発生する前は、どうだったんですか?」
「まぁ、バランスだわな。稀に事故は有ったが、そん時ゃ人員の余裕があったから警備もあったし、ギルドから出した討伐依頼であいつらの数は調整出来てたんだよ」
ラウルさんはフッとタメ息を吐き、
「でもな、こんだけモンスターが増えると実際に人が死ぬんだよ。倒す為にも人が死ぬ、若い奴らも前線に連れて行かれちまってそいつらも死ぬ。討伐したモンスターをギルドに持ってくる人的余裕がねぇ、だから経済も回らねぇ。若い奴らもいねぇし、いろんなところで後が育たねぇんだ」
「ま、この堂々巡りよ」
と、寂しそうに呟いた。
「あの、モンスターの大発生って、何が原因なんですか?」
ラウルさんは笑いながら、
「それが分からねぇんだとよ、王都のお偉いさんも。伝説の魔獣の封印が解かれただの、神の怒りに触れただのってまぁ、噂は色々あるんだけどよ。どれも俺からすれば眉唾もんだがな」
「それと、兄ちゃん気になってるだろうから先に言っとくとよ、俺のこの足は村が襲われた時にやられたんだよ」
と、ラウルさんは足の無い部分をさすった。
俺は言葉が出なかったから、その代わりに、モコをぎゅっと抱きしめた。
そうだよな。犬ですらたまに人を噛み殺したってニュースになったりするんだから、モンスター相手にしてたら怪我や死ぬことがあるなんて当たり前なんだよな。
俺は自分が甘い考えをしていたことを、痛感した。
「まぁ、そうは言っても村にいる奴もいるし、帰ってくる奴らのためにも暗くなってばかりじゃいられねぇからな」
と笑って言いながら、ラウルさんは数枚の紙を俺に手渡した。
「これが今の兄ちゃんでも請け負える依頼だ」
そこにはポーションやエーテルの原料採取、スライム討伐といったもの、雨どいの修理なんかの大工仕事や薪割りなんかもあった。
「兄ちゃんよ、言っちゃ悪いがレベルが低いだろ?そんなら大工仕事なんかどうよ?」
「すいません、俺、腰が悪くて、多分お役に立てると思えません…」
ラウルさんの顔には、あからさまに「はぁぁぁ~~~?何言ってんだコイツ」と書いてあった。
「ごめんなさい…」
「いや、まぁ、うん…。しょうがねぇよな…」
「………」
「………」
「あ、あの、アイテム採取なら出来ると思います…」
「………。 よし、その意気だ!」
俺は素材アイテムの絵が描かれた依頼書を何枚か受け取った。
「兄ちゃんがウォーターストーンを見つけた草原にもあるからよ、まずはそこで探しな」
「あの草原にモンスターって出るんですか?」
「兄ちゃんがウォーターストーン拾ったろ?この前の討伐ん時の取りこぼしだろうって話したけどよ、そん時にあの辺は根こそぎ討伐してたからな。もうしばらくは大丈夫だろ」
「もうしばらく?」
「モンスターはな、絶滅しねぇんだよ。討伐しても二、三ヶ月もすりゃ、またどっからか湧いてくんだ」
「え、あの草原の討伐って何ヵ月前なんですか?」
「一ヶ月半前だから、大丈夫だぞ」
俺は心配だ。
もしモンスターが出たら?モコを守れないのに行くのか?
俺の心配を察したのか、ラウルさんは二ヶ月以内に出たことはこの辺じゃねぇからな、と念押しした。
確かに出なかったらそれにこしたことはないし、ラウルさんが言うなら間違いないんだろう。ハッキリ言って、大工仕事でヘルニアが悪化するのも怖い。
カネのためにも、背に腹はかえられない。
よし!やる!俺はやるぞ!甘いかもしれないが、腰が痛くならない程度に!
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