「マジで、この部屋ヤバいっすね〜」
「そんな大したものではないですよ」
レオンハルトは通された客間に、感嘆している。
「トバイアスさんは、お隣の部屋にどうぞ」
「ありがとうございます」
この青ことトバイアスは、見た目がシュッとしている割にイマイチだ。
営業としてイケメン採用した割に契約が取れなくて、裏で悪口言われるタイプというか……。 まぁ、平たく言えば損するタイプだな。
「バスルームは共通なので、譲り合って使ってください」
「バスルーム!?」
二人はハモリながら、風呂場を覗き込む。
「うわっ……。 デカい浴槽ッスね!!」
ふん、金ならあるんだ。 マリタの大工にそそのかされて、余計な豪華絢爛なバスルームを作ったからな。
それに俺とモコが使っている風呂は、こんなものではない。 大浴場だ。
「お湯沸かしておきましたので、上がったらお湯抜いておいて下さいね」
「ハヤシさんたちは、浸からないんですか?」
トバイアスが純粋な質問をぶつけてきた。
「俺たちは別にバスルームがあるので、気にしないでください」
「え? 風呂、何個もあるんスか?」
レオンハルトはデカい目をさらにデカくして、驚いている。
「えぇ、まぁ」
こんなに気持ちのいいマウントが取れる日が来るなんて……。 やっぱり、世の中金なのか!?
「はぁ〜、さすが海竜を倒しただけはありますね」
「ハハハ……。 では、ごゆっくり休んでください」
「ありがとうございます。 では、明日また」
「お休みなさい」
ダイニングルームに行くと、モコが床で爆睡していた。 大工の言うこと聞いて、カーペットを敷いておいて正解だ。
覗き込むと案の上、顔に酢豚なのかホイコーローのタレなのか、はたまた両方なのか分からないが、ベッタベタに付けて寝ている。
嘘だろ……。
「モコー、ねんねまだ早いんじゃないの〜? おっふ入るよ〜?」
ダメだ、かんっぜんに爆睡している。
なんで子供っていうのは寝た途端、こんなに重くなるのだろうか。 子泣きじじいのようだ。
翌日、イケメン二人組みが宿に行くと、やはりまだ空きはなく、数ヶ月先まで予約でいっぱいだそうだ。
「俺ら、ハヤシさん連れて行くまで帰れないんすよね〜」
「いや、そう言われましても……」
「ハヤシさん、王はあなたの武勲に褒美を送りたいだけなんですよ?」
トバイアスは淡々と説得にかかる。
「いや、あなたたちが来てくれただけで、気持ちは充分いただきましたから……」
このやり取りを何度繰り返すことになろうか。 結局のところ一度泊めてしまえば出ていってくださいという訳にも行かず、向こうも王都行きを折れず、平行線のまま。 どうしようもない。
揉めるのも面倒なので、俺とモコは王都へ来た。 移動魔法は一度足を踏み入れたところしか使えないので、丸二ヶ月、グッドルッキングガイ共と一緒に旅をしたのだ。
その間、移動魔法を使わなかった。 なるべく王都の人間にはバレたくなかったし、変に利用されるのはゴメンだし。
ただ、旅のストレスと引き換えに、俺は右側頭部に十円ハゲが出来た。
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