「……もう行ったほうがいいですか?」
「いや……。 もう遅いし、明るくなってからでいいからよ。本当にすまねぇな……」
ラウルさんの真意はわからないけど、俺は素直にその言葉を受け取ることにし、明日の朝からダンジョンに向かうことにした。
翌朝、モコをラウルさんたちへ預けようとしたが、モコは俺と一緒に行くと駄々をこね火がついたように泣いた。
「ぎゃあぁぁぁぁぁ!! 一緒にいく!! 絶対いく!! ぎゃあぁぁぁぁぁ!!」
どうしたもんか……。
「モコ、危ないからお留守番してて?」
「いやぁぁぁぁぁ!! モコだって強いもん!! 魔法使えるもん!!」
え、そうなの? 魔法使えるの?
前に一度モコのステータスを見てみようとしたが、俺に鑑定スキルがあるのに何も出てこなかった。
ラウルさんやメルちゃんにも聞いてみたけど、詳細なステータスはギルドでも見ることは出来ないらしく、基本、レベルやクリアしたダンジョン、生死などしか分からないし、そもそも他者の詳細なステータスを見ることが出来るのは一握りの魔術師だけだ、ということだった。
俺は物は試しだと思い、
「ねぇ、モコ。 じゃあスライムやっつけてみて? 本当にモコが強かったら連れて行ってあげるから」
と言った。
「……イイよ」
モコはグズりながら言った。
草原を少し進むと、スライムが5、6匹たむろしていた。モコはそこへ見たこともない魔法を、無詠唱で放った。
あまりの速さに一瞬しか分からなかったが、鋭いカマイタチのようとしか言いようのないものが放たれていた。
「は?」
そのカマイタチは地面を削り、スライムを木っ端微塵にし、そのまま真っ直ぐ進み勢いが減ることなく見えなくなった。
数秒後にドゴォォォッッッという何かにぶつかる音がした。
え? 強くね?
「モ、モコ……。 ねぇ、モコって強いの……?」
「モコ、ちゅよい!! 」
え……。 レベルは52だって……。 レベル52ってそんなに強いのか……?
「あの〜、モコ……。 どれくらい魔法使えるの?」
「うんっとね〜、いーーーっぱい!」
モコが両手でぐるぐる円を描いてアピールしてくるが、具体的なことを聞いてもうまく説明出来ないようだった。
「……、ねぇモコ、本当はどれくらい強いの?」
「モコはフェンリルだからね〜、すんごいちゅよい!!」
「でも、レベルは52だよ? こんなに強いもんなの?」
「そんなのモコ知らないもん! モコちゅよい!!」
なんだ? どういうことなんだ? よく分かんないけど、モコが強いということだけは分かったな。
っていうか、強すぎるかも……。
モコは魔法がすごい!と褒められないからか、プンプンしている。
「モコ、凄いねぇ、強いねぇ」
そう言って俺はモコの頭を撫でると、満足そうにニコニコしている。
「モコが強いのは分かったから、今度からも俺が魔法使って、って言うまでは使っちゃダメだからね」
「う〜〜〜ん? イイよ! モコもいっしょいく?」
俺より格段に強いんだ、情けないがむしろこっちからお願いしたいレベルだ。
「うん、いいよ。 でも、魔法はダメだからね?」
こんだけ強いと逆にヤバいので、俺はモコに念押しした。
「分かった〜!!」
森へ着くと、10メートルほど木々がなぎ倒されていた。多分、モコの魔法だな……。
ラウルさんから貰った地図を頼りに俺たちはダンジョンを目指したが、合間合間でオーガやスライムが出るのでダンジョン到着までに随分時間がかかった。
モコはその都度、「モコやっちゅける!」と気合いを入れていたが、ご遠慮願った。
俺は迷いながらもダンジョンにつくと、その入り口は洞窟だった。まるで昔あったジャングルの奥地へ行く冒険番組のようだ。
「モコ、行くよ?」
「は〜〜〜い!!」
俺はモコの手をぎゅっと掴み、洞窟の中に入る。
そこにはちょっととした空洞の中に、ゲームに例えるとセーブポイントのような光り輝く1メートル位の青いクリスタルの柱があった。
ラウルさんからダンジョンに入ったらクリスタルの柱に同時に触るように、と言われていたのでモコと一緒に手を繋ぎながら触った。
ヒュンッッと音がし、その次の瞬間にはダンジョンの1階部分に俺たちは居た。そこは石造りのダンジョンで、壁にはロウソクの灯りがある、あまりにベタなダンジョンの光景でが広がっていたことに俺は少し笑った。
マップが無いので、ひたすら手探りで探すしかない。道なりに進んでいくと、左右へと枝分かれしている別れ道があった。
「……。 どっちに進んだらいいんだ?」
俺が考え込むと、モコも俺の真似をして考え込む。
「うんっとねぇ〜、こっち!!」
と、モコが左の道を選んだ。 こんな子供の言うことを信じていいのか? と思うかもしれないが、俺はモコを信じることにした。 どっちに行ったらいいのかも分からないし、どうせならモコの行きたいほうに行こうっていう、ただそれだけだ。ま、どっちに行こうが進むしかないんだし。
モコの言う左の道に進むと、マタンゴが居た。赤くて白い斑点模様のキノコのモンスターだけど、あれ……、可愛い……。
マタンゴがひょこひょこ近づいてきた。ステータスを見ると、毒ガス使用と書いてある。 え、毒ガス!?
俺はマタンゴの弱点である火魔法、ファイヤーボールを使うとすぐ倒すことが出来た。
「弱かったねぇ〜」
「うん、そうだね〜」
と和やかな会話をしながら進んで行くと、ちょこちょこマタンゴが現れるようになった。 たまにアイテムをドロップすることがあり、その『マタンゴの胞子』は魔法薬の材料や解呪薬の原料になったりするものだった。
マタンゴ自体も食料になるので回収しつつ進んでいくと、モコが「階段みーーーっけ!!」と何やら気付いたようだった。
モコの指示通りに進むと、確かに階段はあった。
ただ、その階段の横に、誰かが倒したと思われるマタンゴが山積み積まれていた。
なんだコレ……。 異様な光景なんですけど……。 俺が引いてると、モコが一匹のマタンゴに貼られているメモを見つけた。
『俺のアイテムボックス小さいから、あんたのに入れて来い ジョシュア』
と書いてあった。
何なの? 何、この追いかけて来られるのを分かってるこの感じ。
俺はチッと舌打ちをしながら、言われた通りに全てのマタンゴをアイテムボックスに入れた。
何がムカつくって、素直にジョシュアの指示に従ってる自分にも腹が立つし、道なりに倒したマタンゴを放置せずに、階段の所にひとまとめにしているジョシュアのその斜め上の気遣いにも腹が立つ。
そんな気遣いいらないから、頼むから家出しないでくれよ……。
結局その先の全ての階にその気遣いがされていることを、俺はまだ知らない。
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