ひとつ下の階に進むと、オーガばかりが出現するフロアで、その階の階段の横にはやはり大量のオーガが山積みされていた。
さらにその下の階に進むと、キラービーのフロアだった。
俺は本当に虫が嫌いで、そんじょそこらの虫嫌いとは訳が違う。 一度会社にスズメバチが何処からか入ってきたことがあり、女子社員に取ってくれと言われたことがあった。 俺は女性陣から総スカン食うのを承知で本当にムリ! と断ったことがある。
お察しの通り、その日から俺は女性陣から無視や、お菓子外しという嫌がらせを受けた。 っていうか男だからという理由でやらされるのは納得がいかない。 男性差別だ。
それを一度同期の男に話したら、だからお前はダメなんだと言われた。 イヤなこと思い出したな……。
それにしたって、想像して見てほしい。 バスケットボールくらいの大きさの蜂が、自分めがけて飛んでくるところを。
下手したらキマイラキングよりも怖いんじゃないかと思う。 ただ、キラービーは蜂蜜をドロップしたり、レアだとローヤルゼリーをドロップしたりもするのでアイテム的には良いかもだけど、ビジュアル的にはかなり厳しい。
まぁ、せめてもの救いは魔法でノータッチで倒せるところだけど、その死体がまた気持ち悪くて、俺は薄目を開けて進むことにした。
モコはそんな俺の気持ちを汲んだのか、率先して「よいしょ」と言いながらアイテムを拾ってきてくれる。
モコのアイテムを拾っている、そのむちむちボディの後ろ姿がたまらなく可愛いかった。
俺はへっぴり腰でモコに手を引かれ付いていくと、次のフロアに続く階段に辿り着いた。
「あぁ、これで蜂地獄から抜けられる……」
「たかふみぃ、これもないないする?」
「え?」
またキラービーが横に山積みされていた。 なんでだよ!? キラービーは食えないだろ!? 頭にきながら鑑定すると、キラービーの毒針と触角が素材として使用可能だった。 なんだよ、食料だけ持って帰れば良いわけじゃないのかよ……!!
いや、無理だから。 こんなん触れる訳が無いから。
俺は信じられないスピードで、ネットスーパーのアウトレットコーナーにある火バサミを二つ買った。
「モコ、手伝ってくれる?」
「なに〜〜〜?」
「あのね、この蜂さんを俺のアイテムボックスの中にポイポイってしてくれる? 出来るかな?」
「やってみる!!」
モコは猛スピードでポイポイと、俺のアイテムボックスの中へキラービーを全て捌いてくれた。 モコ、本当にありがとう……。今日のご飯は期待してくれ……。
次のフロアは、オークのフロアだった。 オークも倒すことに苦労することなくフロアを進み、また階段横のオークを回収する。
そこからはスライム → マタンゴ → オーガ → キラービー → オークの階層を繰り返し、深く潜るほどモンスターのレベルが少しずつ上がっていくという構造になっていた。 俺でも攻略が問題ないレベルだったのが救いだな。
途中、モコがお腹が空いたと言うので、頃合いを見て休憩することにした。
「モコ、今日は本当に大活躍だから、美味いもん食べさせてあげるね」
「やったぁぁぁ〜!!」
俺は国産の牛ステーキとご飯、デザートにはケーキを大奮発し、モコに思う存分食べさせてあげた。
ステーキは飽きないように色んな種類のソースで出してあげると、モコは更に食欲に火がついたようだ。
超高級寿司屋くらいの金額になったけど、まぁ、今日は良しとしよう。
15階層を超えたあたりから、ポツポツと宝箱をモコが見つけるようになった。
「たかふみぃ、こっち、なんかある!」
「どれどれ〜? お、宝箱じゃん!」
「モコ、しゅごい?」
「うん、凄い! 何が入ってるのかなぁ〜?」
開けるとハイポーションが五本入っていて、それからも宝箱には毒消しかハイポーションのいずれかが入っていた。
「あ、ジョシュアいる!」
モコがそう言うので、てっきりそのフロアにジョシュアがいるかと思ったら、そこから更に15階下った地下30階にジョシュアはいた。
居た、というか壁にもたれかかって寝てた。
「ジョシュア〜〜〜!!」
モコが揺り起こしても全然起きない。
「おーい、ジョシュア君、迎えに来たよ〜」
うんともすんとも無く、寝ているかと思ったらどうやら気絶しているようだった。
どうしたらいいんだ、これ?
ジョシュアが気絶していた場所は、大きな扉の向かえの壁だ。 えぇ〜? これ、扉開けた瞬間に吹き飛ばされたんじゃないのか? コイツ。
ハイポーションを飲ませようとしたが、ダラダラこぼれてしまい失敗に終わった。
今までこのダンジョンの中に、こんな扉は一つも無かった。 きっとここがボスの居るところなんだろう。
えぇ……。 開けたくない……。
俺はジョシュアをズリズリと横へ引きずり寝かせる。
「モコ、ジョシュアとそこに居るんだよ?」
「は〜〜〜い!」
「でも、もしかしたら魔法使ってもらうかも……」
情けないが、軽くジャブを打っておいた。
「モコ強いから、なんかいても大丈夫!」
「ありがとね……」
俺が扉をそ〜〜〜っと開けると、そこはエイリアンの巣のようだった。 粘り気のあるドロドロの粘液が壁まとわりついている、おぞましい空間がそこに広がっていた。そして、中にはSUVくらいあるキラービー、もといクイーンビーがいた。
「ひっ……!!」
俺はクイーンビーの顔や胴体のグロテスクさにやられ、何もされてないのに自分からジョシュアが倒れていた壁まで引き下がり、もたれかかった。 薄れゆく意識の中で、あぁジョシュアが倒れた理由もこれだな……と勘づきながら、俺はそのまま失神した。
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