異世界のんびり放浪譚

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第41話 MK5 (後編)

公開日時: 2022年4月5日(火) 22:53
文字数:1,896

 郵便局事件のあと、その足で俺たちはテオドールさんの店へ行くことにした。

 シャンプーとトリートメント、石鹸の買い取りをお願いしに。


 その道中は、さっきの出来事でイライラしっぱなし。 そのせいで店の地図ももらってたのに、怒りで冷静じゃないから、上手く地図も読めない。

 それにしても、ジョシュアの株が急上昇だよ。 今日はパックのケーキを買ってあげよう。


 道に迷いながらも店へ辿り着くと、テオドールさんは笑顔で俺たちを迎えてくれた。

「あぁ、皆さん、良くいらっしゃいました! どうぞどうぞ!!」

 俺たちは応接間へ通され、モコはまた貰ったお菓子を貪り食っている。

「今日は、シャンプーなど持ってきました」

「それはそれは、ありがとうございます! ところでホテルは如何でしたかな?」

「あぁ、とても立派ですし、ベッドもふかふかでよく眠れましました。 ただ、あの……。 せっかくご紹介いただいたのに申し訳ないんですが、違うホテルを探そうかと思いまして……」

「何かあったんですか?」

「あぁ、いえいえ……。 ちょっと料金が高いかなぁ〜と思いまして……。 半額にしていただいてなんなんですが……」

「ハヤシさんなら、それくらいの金額大したことないでしょう?」

「いやぁ……。 そうでもなくてですね……」

「そうですか。 ただねぇ、マリタは物価が高いですからね。 安宿となると、本当に酷い場所しかありませんよ? 治安も悪いですしね」

「え? そうなんですか?」

「はい。 オススメはいたしませんな」

「銀貨5枚くらいだとどうなんでしょうか?」

「あぁ、そうなると酒場に挟まれてるような所ばかりですしね、うるさくって寝られたもんじゃないですよ? 宿の人間に荷物を盗まれたりなんてのも、日常茶飯事だそうですし」

「えぇ……??」

「ところで、ラウルさんに手紙は書かれましたか?」

 ジョシュアが頷いた。

「ジョシュアと俺の手紙を、さっき郵便局へ出してきました」

「おぉ、随分仕事が早いですな」

 俺は腹の虫が収まらなかったので、さっきの顛末をテオドールさんに話した。

 すると、最初はおだやかに話を聞いていたテオドールさんの顔が、みるみる般若のようになってくる。

「テ、テオドールさん、どうしたんですか?」

「それ、ガラですよ!」

「が、がら?」

「そう、ガラという名の女です! あの女、昔うちの店で働いていましてね。 うちの店で横領したんてわすよ! ハッキリした証拠は出なかったんですが、どう考えてもあの女しかいないんですよ!」

「えぇ?」

 俺は「柄が悪い」という、至極低レベルなダジャレを思いつき、ぴったりな名前だなと思った。

「そのことを問いただしたら、さっさと辞めて転職したんですよ! 接客態度も悪いし、本当に酷い女です! 逮捕されないとタカをくくって、本当に悔しいんですよ、私は!」

 テオドールさんはヒートアップして行く。

「私はね、伝書局の局長にも伝えているんですよ! あの女には注意しろって!」

 テオドールさんは苦々しそうに、吐き捨てた。

「どうせ伝書局でも横領してますよ! そのうちしっぽを掴まれると思いますけどね!」

 フンスフンスとテオドールさんは興奮しているし、モコは唖然としている。 俺は自分以上に怒ってる人を見ると、怒り狂っていても何故か落ち着いてくるんだよな……。 これって、なんでなんだろう、と考えていた。

「とりあえず、男性の方が謝りに来てくれるらしいんで、まぁ良しとします」

 テオドールさんは全然俺の話を聞かない。

「それにしてもジョシュア君が騎士団の名前を出したのは、痛快ですな! その時のガラの顔を見てやりたかったですよ!」

「アハハ。 では、テオドールさん、今日の分です」

 もう悪口は止まらないだろうと思って、俺はシャンプーとトリートメント、石鹸を出した。

「おぉ! これは……!!」

 俺は詰め替えが本当に面倒くさくて、シャンプーとトリートメントは各10個ずつで打ち止めにした。

 その代わり石鹸は大量に持ってきている。 包装を剥くのも、100個を超えたあたりで数えるのをやめたけど、200はゆうにあると思う。

「あぁ、これはありがたい……」


 結局、全部で金貨428枚を手に入れた。 シャンプーがひとつ金貨5枚、トリートメントが一つ金貨10枚、石鹸は変わらず金貨1枚。

 原価でこれなんだから、実際の販売価格なんて恐ろしいことになるんだろうな……。


「ハヤシさん、よければ店内をご案内いたしますよ?」

 俺はテオドールさんの言葉に甘え、お願いした。

「うちはあらゆる物を取り揃えていますのでね、なにか欲しいものなんかありますか?」

「あぁ、そうですねぇ……。 強いて言うなら、調理道具とかキッチン関係のものを見てみたいです」

「はい、かしこまりました!」

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