郵便局事件のあと、その足で俺たちはテオドールさんの店へ行くことにした。
シャンプーとトリートメント、石鹸の買い取りをお願いしに。
その道中は、さっきの出来事でイライラしっぱなし。 そのせいで店の地図ももらってたのに、怒りで冷静じゃないから、上手く地図も読めない。
それにしても、ジョシュアの株が急上昇だよ。 今日はパックのケーキを買ってあげよう。
道に迷いながらも店へ辿り着くと、テオドールさんは笑顔で俺たちを迎えてくれた。
「あぁ、皆さん、良くいらっしゃいました! どうぞどうぞ!!」
俺たちは応接間へ通され、モコはまた貰ったお菓子を貪り食っている。
「今日は、シャンプーなど持ってきました」
「それはそれは、ありがとうございます! ところでホテルは如何でしたかな?」
「あぁ、とても立派ですし、ベッドもふかふかでよく眠れましました。 ただ、あの……。 せっかくご紹介いただいたのに申し訳ないんですが、違うホテルを探そうかと思いまして……」
「何かあったんですか?」
「あぁ、いえいえ……。 ちょっと料金が高いかなぁ〜と思いまして……。 半額にしていただいてなんなんですが……」
「ハヤシさんなら、それくらいの金額大したことないでしょう?」
「いやぁ……。 そうでもなくてですね……」
「そうですか。 ただねぇ、マリタは物価が高いですからね。 安宿となると、本当に酷い場所しかありませんよ? 治安も悪いですしね」
「え? そうなんですか?」
「はい。 オススメはいたしませんな」
「銀貨5枚くらいだとどうなんでしょうか?」
「あぁ、そうなると酒場に挟まれてるような所ばかりですしね、うるさくって寝られたもんじゃないですよ? 宿の人間に荷物を盗まれたりなんてのも、日常茶飯事だそうですし」
「えぇ……??」
「ところで、ラウルさんに手紙は書かれましたか?」
ジョシュアが頷いた。
「ジョシュアと俺の手紙を、さっき郵便局へ出してきました」
「おぉ、随分仕事が早いですな」
俺は腹の虫が収まらなかったので、さっきの顛末をテオドールさんに話した。
すると、最初はおだやかに話を聞いていたテオドールさんの顔が、みるみる般若のようになってくる。
「テ、テオドールさん、どうしたんですか?」
「それ、ガラですよ!」
「が、がら?」
「そう、ガラという名の女です! あの女、昔うちの店で働いていましてね。 うちの店で横領したんてわすよ! ハッキリした証拠は出なかったんですが、どう考えてもあの女しかいないんですよ!」
「えぇ?」
俺は「柄が悪い」という、至極低レベルなダジャレを思いつき、ぴったりな名前だなと思った。
「そのことを問いただしたら、さっさと辞めて転職したんですよ! 接客態度も悪いし、本当に酷い女です! 逮捕されないとタカをくくって、本当に悔しいんですよ、私は!」
テオドールさんはヒートアップして行く。
「私はね、伝書局の局長にも伝えているんですよ! あの女には注意しろって!」
テオドールさんは苦々しそうに、吐き捨てた。
「どうせ伝書局でも横領してますよ! そのうちしっぽを掴まれると思いますけどね!」
フンスフンスとテオドールさんは興奮しているし、モコは唖然としている。 俺は自分以上に怒ってる人を見ると、怒り狂っていても何故か落ち着いてくるんだよな……。 これって、なんでなんだろう、と考えていた。
「とりあえず、男性の方が謝りに来てくれるらしいんで、まぁ良しとします」
テオドールさんは全然俺の話を聞かない。
「それにしてもジョシュア君が騎士団の名前を出したのは、痛快ですな! その時のガラの顔を見てやりたかったですよ!」
「アハハ。 では、テオドールさん、今日の分です」
もう悪口は止まらないだろうと思って、俺はシャンプーとトリートメント、石鹸を出した。
「おぉ! これは……!!」
俺は詰め替えが本当に面倒くさくて、シャンプーとトリートメントは各10個ずつで打ち止めにした。
その代わり石鹸は大量に持ってきている。 包装を剥くのも、100個を超えたあたりで数えるのをやめたけど、200はゆうにあると思う。
「あぁ、これはありがたい……」
結局、全部で金貨428枚を手に入れた。 シャンプーがひとつ金貨5枚、トリートメントが一つ金貨10枚、石鹸は変わらず金貨1枚。
原価でこれなんだから、実際の販売価格なんて恐ろしいことになるんだろうな……。
「ハヤシさん、よければ店内をご案内いたしますよ?」
俺はテオドールさんの言葉に甘え、お願いした。
「うちはあらゆる物を取り揃えていますのでね、なにか欲しいものなんかありますか?」
「あぁ、そうですねぇ……。 強いて言うなら、調理道具とかキッチン関係のものを見てみたいです」
「はい、かしこまりました!」
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