チャラチャラ、チャラチャラしやがって。
こういう奴は、産まれた時から恵まれてきたんだろう。 顔も良いし、王都の遣いなんてきっと役職としても勝ち組なんだろう。
ヒエラルキーのトップじゃないのか? 知らんけど。
「あぁ〜〜〜ん? なんかポカンな感じィ?」
なんなんだ、ポカンな感じって。 失礼だろ。
っていうか、メルちゃん、めっちゃこっち見てくんじゃん……。 こっちっていうか、メンズ二人組みに釘付けになってんじゃん……。 まだまだ子どもだと思ってたのに……。
「ほ、ほら、手出されてるんだから、握手だろ?」
ラウルさんの声にハッとして、俺はいやいや握手をした。
「改めまして、レオンハルトでぇ〜〜〜す!!」
「トバイアスです」
と、青も握手の手を出してくる。
「ど、どうも……」
「で、そっちのおチビちゃんは、何ちゃんかな〜?」
レオンハルトはモコに向かって、ウインクする。
生ウインクをする人間を、俺は生まれて初めて見た。
「モ、モコ……だよ……」
モコは俺の後ろにピッタリ張り付き、人見知り発揮中だ。
「モコちゃんかぁ〜。 めっちゃ可愛いねぇ〜。 いくつ?」
グイグイ来られるのが苦手なモコは、見る見るドン引きしていった。
「ほら、怖がってるからその辺にしとけ」
トバイアスがレオンハルトを牽制した。
それにしても、トバイアスにレオンハルトって、只者じゃない名前だよな……。
「モコちゃん、ごめんねぇ〜? えっとぉ〜、とりあえずハヤシさんと話ししたいんだけど、良いッスか?」
「あ、あの……、俺、今日はちょっと……」
「なんだ? なんか用事あんのか?」
ラウルさんが聞いてきたので、俺は思わず嘘を付いた。
「リ、リリーさんの店で出す料理の件で、これから行かなくちゃいけなくって……」
「あぁ、全然イイッスよ〜。 俺ら、ハヤシさん連れて帰るのに別に期限とかないし? 明日とかでも全然〜」
んんんんんん……?? 嫌だ、逃げたい!
「あ、もう遅れそうなので……」
そそくさとギルドを後にしたが、ラウルさんの視線が痛かった。 あれは、完全に嘘だとバレてる顔だ。
「あら! ハヤシさん。 どうしたの?」
中途半端な時間だったので、ラーメン屋は空いていた。
「じ、実は……」
かくかくしかじかと、嘘をついて逃げてきたことを告白した。
「ハハハハハ、なるほどね。 まぁ、ゆっくりしていって。 本当に新しいメニューでも作ってくれてもいいけど?」
リリーさんは冗談交じりに笑った。
「じゃあ、台所借りてもいいですか?」
「あら!? 本当に? 嘘から出た誠ね」
俺は猛烈にギトギトしたものが食べたくなっていた。昔からイヤなことがあると、そうだ。
でも、どうせならオークとか使えるものが良いだろう。
俺はレシピサイトを見ながら、生まれて初めてホイコーローと酢豚を作ってみたが、これがめちゃくちゃ美味い。
あぁ〜、ビールが飲みたい……。
モコが食べるのには少なめだが、みんなの試食兼軽食分くらいの量が出来上がり、急きょ試食会を開催することにした。
「ちょっとハヤシさん!!」
リリーさんは酢豚がお気に入りのようで、白米と合わせて食う喜びを知った。
「これ、止まらないじゃない!!」
男の子たちには、もちろん大ヒットだ。
みんな毎回、『これが一番うまい』と言ってくれる。 まぁ、実際好き好きはあるだろうけど。
モコは基本好き嫌いが無いのでもちろん気に入ってはいるが、量が足りずにムスッとしている。
「あ、お客さんだ」
段々と良い時間になり、店は混んで来た。
「じゃあ、俺たちは帰りますね」
調味料の問題はあるけど、今回も幾ばくが渡してしまった。 まぁ、多少のことはアリってことで。
「いつもありがとうね」
家へ帰る道すがら、モコはブーたれのままだ。
「モコ〜。 おうち帰ったら、また作ってあげるからさ。 ね? もういい加減許して?」
「いっぱいちゅくる!?」
「うん、いっぱい作るよ〜。 モコがお腹いっぱいでもう食べられない!って言うくらい」
「ほんとぉーーー!?」
「うん、本当だよ〜」
と呑気に家へと帰り、第二弾の酢豚とホイコーローを作る。 モコは得意の顔面食いで白飯をかきこみ、俺は一本だけビールを呑む。
カァーーーーーッ、この為に生きてるよな!!
するとドアをノックする音がした。
「誰だよ、こんな遅くに……」
出ると、そこにはレオンハルトとトバイアスとラウルさんがいた。
「ハヤシさ〜〜〜ん! すいません、こんな時間に」
レオンハルトが謝る。
「は、はぁ……。 どうしたんですか?」
「いやぁ、宿が取れなくってぇ〜。 で、ハヤシさんちに泊めてもらえないかと思って!」
軽いノリでレオンハルトが言った。
「本当に急で申し訳ありませんが、お願いできないでしょうか? 我々も長旅で、建物の中でゆっくり休みたいのですが……」
丁寧だが、随分と図々しいお願いをトバイアスがポツポツと口にする。
「うちに泊めてやりてぇんだが、ジョシュアの部屋に王都の遣いの方を泊める訳にもいかないしな……」
ラウルさんは、顔にバツの悪さが如実に現れていた。
「なんかすっげぇ豪邸だし、どうッスか? 駄目ッスか?」
断ったところで遣いの人間、果てに王都と関係が悪くなるのも馬鹿らしいので、俺は受け入れることにした。
「い、一泊だけなら……」
すると二人の顔が、パァッと明るくなる。
「マジっすか!? 超ありがてぇー!」
「感謝いたします」
俺はストレスで奥歯を噛み締めすぎて、頭が痛くなってきた。 ダメだ、もっとギトギトしたものが食べたい。
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