異世界のんびり放浪譚

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第78話 ストレスと脂もの

公開日時: 2022年5月9日(月) 23:25
文字数:2,183

 チャラチャラ、チャラチャラしやがって。

 こういう奴は、産まれた時から恵まれてきたんだろう。 顔も良いし、王都の遣いなんてきっと役職としても勝ち組なんだろう。

 ヒエラルキーのトップじゃないのか? 知らんけど。

「あぁ〜〜〜ん? なんかポカンな感じィ?」

 なんなんだ、ポカンな感じって。 失礼だろ。

 っていうか、メルちゃん、めっちゃこっち見てくんじゃん……。 こっちっていうか、メンズ二人組みに釘付けになってんじゃん……。 まだまだ子どもだと思ってたのに……。

「ほ、ほら、手出されてるんだから、握手だろ?」

 ラウルさんの声にハッとして、俺はいやいや握手をした。

「改めまして、レオンハルトでぇ〜〜〜す!!」

「トバイアスです」

 と、青も握手の手を出してくる。

「ど、どうも……」

「で、そっちのおチビちゃんは、何ちゃんかな〜?」

 レオンハルトはモコに向かって、ウインクする。

 生ウインクをする人間を、俺は生まれて初めて見た。

「モ、モコ……だよ……」

 モコは俺の後ろにピッタリ張り付き、人見知り発揮中だ。

「モコちゃんかぁ〜。 めっちゃ可愛いねぇ〜。 いくつ?」

 グイグイ来られるのが苦手なモコは、見る見るドン引きしていった。

「ほら、怖がってるからその辺にしとけ」

 トバイアスがレオンハルトを牽制した。

 それにしても、トバイアスにレオンハルトって、只者じゃない名前だよな……。

「モコちゃん、ごめんねぇ〜? えっとぉ〜、とりあえずハヤシさんと話ししたいんだけど、良いッスか?」

「あ、あの……、俺、今日はちょっと……」

「なんだ? なんか用事あんのか?」

 ラウルさんが聞いてきたので、俺は思わず嘘を付いた。

「リ、リリーさんの店で出す料理の件で、これから行かなくちゃいけなくって……」

「あぁ、全然イイッスよ〜。 俺ら、ハヤシさん連れて帰るのに別に期限とかないし? 明日とかでも全然〜」

 んんんんんん……?? 嫌だ、逃げたい!

「あ、もう遅れそうなので……」

 そそくさとギルドを後にしたが、ラウルさんの視線が痛かった。 あれは、完全に嘘だとバレてる顔だ。


「あら! ハヤシさん。 どうしたの?」

 中途半端な時間だったので、ラーメン屋は空いていた。

「じ、実は……」

 かくかくしかじかと、嘘をついて逃げてきたことを告白した。

「ハハハハハ、なるほどね。 まぁ、ゆっくりしていって。 本当に新しいメニューでも作ってくれてもいいけど?」

 リリーさんは冗談交じりに笑った。

「じゃあ、台所借りてもいいですか?」

「あら!? 本当に? 嘘から出た誠ね」

 俺は猛烈にギトギトしたものが食べたくなっていた。昔からイヤなことがあると、そうだ。

 でも、どうせならオークとか使えるものが良いだろう。

 俺はレシピサイトを見ながら、生まれて初めてホイコーローと酢豚を作ってみたが、これがめちゃくちゃ美味い。

 あぁ〜、ビールが飲みたい……。


 モコが食べるのには少なめだが、みんなの試食兼軽食分くらいの量が出来上がり、急きょ試食会を開催することにした。

「ちょっとハヤシさん!!」

 リリーさんは酢豚がお気に入りのようで、白米と合わせて食う喜びを知った。

「これ、止まらないじゃない!!」

 男の子たちには、もちろん大ヒットだ。

 みんな毎回、『これが一番うまい』と言ってくれる。 まぁ、実際好き好きはあるだろうけど。

 モコは基本好き嫌いが無いのでもちろん気に入ってはいるが、量が足りずにムスッとしている。

「あ、お客さんだ」

 段々と良い時間になり、店は混んで来た。

「じゃあ、俺たちは帰りますね」

 調味料の問題はあるけど、今回も幾ばくが渡してしまった。 まぁ、多少のことはアリってことで。

「いつもありがとうね」


 家へ帰る道すがら、モコはブーたれのままだ。

「モコ〜。 おうち帰ったら、また作ってあげるからさ。 ね? もういい加減許して?」

「いっぱいちゅくる!?」

「うん、いっぱい作るよ〜。 モコがお腹いっぱいでもう食べられない!って言うくらい」

「ほんとぉーーー!?」

「うん、本当だよ〜」

 と呑気に家へと帰り、第二弾の酢豚とホイコーローを作る。 モコは得意の顔面食いで白飯をかきこみ、俺は一本だけビールを呑む。

 カァーーーーーッ、この為に生きてるよな!!

 するとドアをノックする音がした。

「誰だよ、こんな遅くに……」

 出ると、そこにはレオンハルトとトバイアスとラウルさんがいた。

「ハヤシさ〜〜〜ん! すいません、こんな時間に」

 レオンハルトが謝る。

「は、はぁ……。 どうしたんですか?」

「いやぁ、宿が取れなくってぇ〜。 で、ハヤシさんちに泊めてもらえないかと思って!」

 軽いノリでレオンハルトが言った。

「本当に急で申し訳ありませんが、お願いできないでしょうか? 我々も長旅で、建物の中でゆっくり休みたいのですが……」

 丁寧だが、随分と図々しいお願いをトバイアスがポツポツと口にする。

「うちに泊めてやりてぇんだが、ジョシュアの部屋に王都の遣いの方を泊める訳にもいかないしな……」

 ラウルさんは、顔にバツの悪さが如実に現れていた。

「なんかすっげぇ豪邸だし、どうッスか? 駄目ッスか?」

 断ったところで遣いの人間、果てに王都と関係が悪くなるのも馬鹿らしいので、俺は受け入れることにした。

「い、一泊だけなら……」

 すると二人の顔が、パァッと明るくなる。

「マジっすか!? 超ありがてぇー!」

「感謝いたします」

 俺はストレスで奥歯を噛み締めすぎて、頭が痛くなってきた。 ダメだ、もっとギトギトしたものが食べたい。

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