閉店後のギルドへ行くと、ラウルさんとメルちゃんが締めの作業をしていた。
「メルーーーーー!!」
モコは早速メルちゃんに抱きつき、抱っこしろと全力アピールしている。
「モコちゃん! 今日もかわいいねぇ〜」
「うん!」
本人に自覚あり。
「おい、こっち来い」
ラウルさんに呼ばれカウンターへ行くと、なにやら書類を渡された。
「なんですか? これ」
「まぁ、読んでみろ」
それは新たなダンジョンを発見したことが記載された書類だった。
「これがどうしたんですか?」
「それはギルド本部へ提出する、俺が書いたもんだ。 詳細を兄ちゃんに聞いてから、明日送る」
「はぁ。 で、どういう……?」
「いや、お前海竜の件もあるし、さらに新しいダンジョンも発見した奴が同じ人間だとなると、本部からお呼びがかかるんじゃねぇかと思うんだよ」
「本部にって、どういう意味でですか?」
難しい顔をしてラウルさんは考え込んだ。
「んん〜……。 いや、騎士団をまかされるような事になるんじゃねぇかと思ってんだよ」
「えぇ!? そんなのイヤですよ!」
「ハハ八、そう言うだろうと思ってたぜ」
「ムリですよ、俺が騎士団なんて!」
「まぁ、兄ちゃんじゃ無理だろうな!」
えぇ……??? そりゃそうなんだけどさ、そんなハッキリ言わなくても……。
「実際のところは分かんねぇが、一応話しておこうと思ってよ。 アイツら強引だからよ」
「……。 とりあえず、聞いておいて良かったです」
「おぉ。 ところでダンジョン入ったのか?」
「はい。 ちょっとだけ」
俺は見てきたものを話し、ドロップアイテムの鉱石や宝石、一匹だけサンプルで持ってきた甲虫をトングでカウンターへ出した。
さすがラウルさん。 臆することなく甲虫を素手で掴み、じっくりと見ている。
「うわぁぁぁ……」
俺は思わず心の声が出てしまった。
「兄ちゃんとジョシュアは、なんでそんなに虫がダメなんだよ。 男のクセに、ったく……」
現代日本ではジェンダー差別と騒がれるかもしれないラウルさんの発言だが、ここではそんな概念は全くない。
「この虫なんだけどよ……」
「あ! いいです、いいです! 聞きたくないです。 早くしまってください」
「お前……」
「ホントに虫ダメなんですって! クイーンビーの件で分かってるはずじゃないですか!」
「…………」
「そんな顔で見たってダメですよ。 俺、こんな虫出るダンジョンなんてもう二度と行かないですし、それがどんなやつなのかも知りたくないです」
「…………」
「俺の決意は固いですから!」
「なんていうかアレだ。 すげぇ喋るな。 分かったよ、そんなにイヤなら調査依頼はしねぇから」
冒険者が増えてくれて助かった……。
「でも宝石だのがドロップされるとなると、この村ももっと賑やかになるかもな」
ラウルさんは嬉しそうに言った。
「ところでよ、ギョーザっていうのをリリーに作ってやったんだって?」
「あぁ、そうなんですよ」
真っ直ぐ、曇りのない眼でラウルさんは俺を見つめている。
「た、食べてみます……?」
「いいのか? 悪いな。 催促したみたいでよ」
食糧難になることもなくなったので、ラウルさんは遠慮が無くなってきてる。
餃子は親子共々気に入ってくれたが、意外なことにラウルさんよりメルちゃんの方がハマったようだ。
モコは二日続けての餃子に不服そうで、チャーハンも一緒に出してあげたら、これがラウルさんにクリーンヒット。
以降、毎日チャーハンを作れと言われるので、メルちゃんはうんざりしてチャーハン嫌いになってしまった。
読み終わったら、ポイントを付けましょう!