異世界のんびり放浪譚

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第76話 チャーハン嫌い

公開日時: 2022年5月8日(日) 00:55
文字数:1,408

 閉店後のギルドへ行くと、ラウルさんとメルちゃんが締めの作業をしていた。

「メルーーーーー!!」

 モコは早速メルちゃんに抱きつき、抱っこしろと全力アピールしている。

「モコちゃん! 今日もかわいいねぇ〜」

「うん!」

 本人に自覚あり。


「おい、こっち来い」

 ラウルさんに呼ばれカウンターへ行くと、なにやら書類を渡された。

「なんですか? これ」

「まぁ、読んでみろ」

 それは新たなダンジョンを発見したことが記載された書類だった。

「これがどうしたんですか?」

「それはギルド本部へ提出する、俺が書いたもんだ。 詳細を兄ちゃんに聞いてから、明日送る」

「はぁ。 で、どういう……?」

「いや、お前海竜の件もあるし、さらに新しいダンジョンも発見した奴が同じ人間だとなると、本部からお呼びがかかるんじゃねぇかと思うんだよ」

「本部にって、どういう意味でですか?」

 難しい顔をしてラウルさんは考え込んだ。

「んん〜……。 いや、騎士団をまかされるような事になるんじゃねぇかと思ってんだよ」

「えぇ!? そんなのイヤですよ!」

「ハハ八、そう言うだろうと思ってたぜ」

「ムリですよ、俺が騎士団なんて!」

「まぁ、兄ちゃんじゃ無理だろうな!」

 えぇ……??? そりゃそうなんだけどさ、そんなハッキリ言わなくても……。

「実際のところは分かんねぇが、一応話しておこうと思ってよ。 アイツら強引だからよ」

「……。 とりあえず、聞いておいて良かったです」

「おぉ。 ところでダンジョン入ったのか?」

「はい。 ちょっとだけ」

 俺は見てきたものを話し、ドロップアイテムの鉱石や宝石、一匹だけサンプルで持ってきた甲虫をトングでカウンターへ出した。

 さすがラウルさん。 臆することなく甲虫を素手で掴み、じっくりと見ている。

「うわぁぁぁ……」

 俺は思わず心の声が出てしまった。

「兄ちゃんとジョシュアは、なんでそんなに虫がダメなんだよ。 男のクセに、ったく……」

 現代日本ではジェンダー差別と騒がれるかもしれないラウルさんの発言だが、ここではそんな概念は全くない。

「この虫なんだけどよ……」

「あ! いいです、いいです! 聞きたくないです。 早くしまってください」

「お前……」

「ホントに虫ダメなんですって! クイーンビーの件で分かってるはずじゃないですか!」

「…………」

「そんな顔で見たってダメですよ。 俺、こんな虫出るダンジョンなんてもう二度と行かないですし、それがどんなやつなのかも知りたくないです」

「…………」

「俺の決意は固いですから!」

「なんていうかアレだ。 すげぇ喋るな。 分かったよ、そんなにイヤなら調査依頼はしねぇから」

 冒険者が増えてくれて助かった……。

「でも宝石だのがドロップされるとなると、この村ももっと賑やかになるかもな」

 ラウルさんは嬉しそうに言った。

「ところでよ、ギョーザっていうのをリリーに作ってやったんだって?」

「あぁ、そうなんですよ」

 真っ直ぐ、曇りのない眼でラウルさんは俺を見つめている。

「た、食べてみます……?」

「いいのか? 悪いな。 催促したみたいでよ」

 食糧難になることもなくなったので、ラウルさんは遠慮が無くなってきてる。


 餃子は親子共々気に入ってくれたが、意外なことにラウルさんよりメルちゃんの方がハマったようだ。

 モコは二日続けての餃子に不服そうで、チャーハンも一緒に出してあげたら、これがラウルさんにクリーンヒット。

 以降、毎日チャーハンを作れと言われるので、メルちゃんはうんざりしてチャーハン嫌いになってしまった。


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