それからオーガスタスさんは、大変そうだった。
王は体力を回復したものの、大事をとってしばらく休むそうで、その間俺とモコも待機状態。
オーガスタスさんは、王が取り憑かれていたなんてとてもじゃないが漏れる訳にはいかないし、でも自分も取り憑かれていたから、いつから誰がどうなったかも分からない。 でも取り憑かれている間の政策や財政状況におかしな点がないか調べなきゃいけないし、協力者も誰を信頼したらいいのか、そもそも取り憑かれていた奴は何者なのかなどなど、見ているこっちが可哀想になってくるほどやることが山積みだ。
「それにしても、もう本当に大丈夫なんでしょうか!?」
オーガスタスさんは不安そうに俺を見つめる。
「んん〜……、今のところ取り憑かれている方はいらっしゃらないと思いますよ」
俺がそう言っても、まだ不安そうにしている。 まぁ、俺にはさっぱり分からないけど、モコ曰くもう居ないそうだ。
「心配しててもしょうがないから、今は頑張るしかないんじゃないですか?」
俺に励まされるなんて、この人、よくこれで宰相なんかなれたな……。
「うぅ……。 ちょっと、王と相談してきます……」
「はい。 頑張って!」
「またあとでお喋りに来てもいいですか?」
「ど、どうぞ……」
なんだか自分を見ているような気になってくる……。 モコはオーガスタスさんを励ましてあげようと、折り紙で折った鶴をあげた。
「こ、これはなんですか?」
「ちゅるだよ……」
ぐちゃぐちゃで何か分かって貰えず、モコはショックを受けている。
「はぁ、そうですか……。 よく分からないですけど、ありがとうございます。 では、また後ほど伺いますね」
子どもくらいフォローしてから行けよ。 この人、思った以上にポンコツだな……。
モコはダンダン!と足を踏みつけ、折り紙はもうしない!と憤慨した。
今回の件は、レオンハルトとトバイアスが極秘に任命され、調査を行うことになったそうだ。
俺と顔見知りの人間の方が、調査するにも何かといいだろう、という判断と、イケメン二人組は意外と言ったら失礼だが、なかなかのキレ者らしい。
オーガスタスさんは日に最低三回は、俺たちの元へ訪れ愚痴をこぼしていく。
そんなことが続いたある日、オーガスタスさんは涙目でやって来た。
「ハヤシさぁぁぁぁん! 助けてください……」
「今日はどうしました?」
「あの……。 王の食欲がないのが本当に本当に心配で……」
「はぁ」
「ほとんど食事に手を付けないんです。 どうしたらいいでしょう!?」
知らんがな……。
「俺に相談されても、医者ではないので分からないですよ〜」
「そんなぁ〜!! レオンハルト達に聞きましたよ! ハヤシさんがお料理上手だって!!」
「はぁ」
「っということで! 王の食事を作って頂けませんか!?」
「はぁ!?」
「お願いします! 後生ですから!!」
「いやいやいや……。 王様が食べるようなものなんて、分からないですよ!」
オーガスタスさんは必死に食らいついてくる。
「で、でも! ハヤシさんは何かと先進的な料理や道具をお使いになられていると聞きました!! そんな凄い人の料理なら、王ももしかしたら食べるかもしれないじゃないですか!! お願いします! 私、もうどうしていいか分からないんですよ〜!!」
「じょーすいは!?」
話しを聞いていたモコが、自分も食べたいからか目をキラキラさせて口を挟んだ。
「じょーすいとはなんですか!?」
「あぁ、雑炊です」
「なんだか知らないですけど、それ、作ってくださいよ〜!!」
大の大人が俺の両腕を掴んで、頭を下げてきた。
「わ、分かりましたよ……。 それで食べなくても、責任取れませんからね?」
「はい! 全ては私の責任です!」
なんつーか、口ばっかりというのか、調子がいいというのか、憎めないというのか……。 まぁ、乗りかかった船だ、雑炊くらい作ってあげよう。 モコも食べたがってるし。
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