部屋の中では作るスペースがなかったので、宿屋の裏庭を借りることにした。
キャンプテーブルやガスコンロを用意していると、モコがキラキラした目で早く早くーーー!と嬉しそうに跳び跳ねている。
「待ってね、すぐ作るからね~」
「たかふみ、早くちゅくるのーーー!」
俺にとってのサッポロ○番は、味噌一択だ。って言っても、塩もウマイんだけどね。
異世界に来て初めての自炊がサッポロ○番っていうのも、中々オツかもな。
(あれ、モコはなん袋食べるんだろう…。あ、そうか、寸胴鍋で大量に作ってアイテムボックスに入れておけばいいのか)
よし、まとめて作るぞーーー!
俺のサッポロ○番の作り方は、まずは豚バラともやしを塩胡椒で炒め、最後にニンニクチューブを加える。これがポイント。
卵は麺を湯がいている鍋の中に割り入れ、なんちゃってポーチドエッグ風にする。ま、よくつぶれて失敗しちゃうし、ゆで時間も全然足りてないから半熟どころの騒ぎじゃないんだけど。でも、俺はこれが好き。
麺と卵がゆで上がったらどんぶりに移し、炒めた具材を載せ、最後に刻みネギと、忘れちゃいけないバターを添える。これで出来上がり。
「モコ、出来たよーーー!」
「はーい!」
う、うまい………!!
失業手当時代は、カネがないから具なしか、入れても卵だけだったから、身に染みる旨さだ。
お代わりをよそってあげる度に、モコは「ウマイ、ウマイのーーー!」と叫んだ。
誰かのために料理を作って、その相手が喜んでくれることって、こんなにも嬉しいものだな。俺は自然と自分が笑顔になっていることに気付いた。
そんな俺は、モコのあまりの食べる早さに自分が食べる暇もなくなり、せっせとモコのお代わりをよそったり、モコが麺をこぼしたテーブルを拭いたりと忙しくしていた。
「ウマイ、ウマイのーーー!」
と、何度目かのモコの絶叫のあと、
「なんだなんだ~?」
とラウルさんが、夕暮れ時の宿の裏口から松葉杖をつき、片手にランプをぶら下げながら入ってきた。
「ラウルさん、こんばんは。どうしたんですか?」
「それはこっちの台詞だよ。妹んとこに来たらよ、チビの叫び声がするから何事かと思って見にきたんじゃねぇか」
宿屋の女将さんはラウルさんの妹さんだったのだ。
(美形揃いは血筋か…)
「なんだよ」
「あ、いえいえ。すいません、モコがお騒がせしちゃって…。ラーメンが美味しくて叫んでしまうみたいで…」
「??? ラーメンって何だ?」
(………。あ、そうか。ラーメンなんてないよな。っていうか、ラーメンって何だ?麺とスープが合わさったもの? じゃあ、うどんやソバはどうなんだよ。中華麺を使ってる? えぇ、中華麺って何? 説明するって難しいな…)
「なんていうか、スープの中に麺とか肉とか野菜が入った料理です…」
「よければ、ラウルさんもご一緒にどうですか?」
「いやいや、この食糧難の大変な時代に、人様から食い物もらうほど俺は浅ましくねぇよ」
あ…。そうか、食料難ってそういうことなのか。人一人が食べるのも大変なのに、俺、おじいさんからモコにパンとチーズを貰ってしまった…。
考えが至らなかった自分が恥ずかしくて、情けない。なけなしの食料だったんだな…、そう思うとちょっと泣けてくる。
「どうした?」
俺は恥ずかしかったが、おじいさんの一件を話した。
「本当に申し訳ないことをしてしまいました…」
「あぁ、別にそれくらいいいんじゃねぇか? 食糧難つったって、村にはある程度の備蓄もあるし、じいさんが死ぬわけじゃねぇよ」
「でも…」
「大体よ、年寄りっていうのは世話を焼きたいもんなんだよ。その気持ちは、お前さんが取っといてやらないと、じいさんに失礼ってもんだ」
ラウルさん、あんた、顔も良いけど、中身も良いな…。
「ラウルさん、せっかくなんで食べてってください。お世話になっていますし、何かお礼がしたいんです。沢山ありますから、ホントに遠慮しないで」
「いやいや…」
「俺の気持ちでしていることですから、ラウルさんも受け取ってください」
「あぁ~~~、なんか悪いな、気ィ使わせちまってよ…。 じゃあ、遠慮なく頂くよ」
ラウルさんの前にどんぶりとフォーク、れんげ代わりのスプーンを差し出すと、
「なんだ?この匂い」
と言いながら、恐る恐るスープを飲んだ。
「!!!」
実際にはもちろん見えないんだけど、ラウルさんの頭の上にビックリマークが出ているのが俺には見えた。
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