モコを撫でながら声がした方向を見ると、何もない真っ暗な空間にサッカーボールくらいの光り輝く玉が見えた。
「は? 帰ってきたねって…?」
言い終わるのと同時か、頭の中に直接映像が流れ込んできた。それは、俺こと林孝史(はやしたかふみ)とモコは、元々地球に生まれるはずじゃなかったこと、やんごとなき事情があって地球に行かせざるを得なかったこと、ようやく俺とモコを本来の場所に戻せるようになったこと、が映像を通して説明された。
(えぇ…?なにそれ…?)
本来生まれるべき場所は、地球に良く似た美しい星アリア。科学の代わりに魔法が発展した世界で、まぁ映像を見る限り、昔からよくあるファンタジーゲームの世界観そのもの。もちろん魔物もいるし、妖精もいるし、戦争もある世界だそうだ。しかも、見る限りあまり優しくない世界のようだ。
(あぁ、こんなことってホントにあるんだな…)
俺はぼんやりとまるで他人事のように思った。
「君たちを連れてくるために力を結構使っちゃったから、時間があまりないんだ。だから、詳しく説明してあげられない」
そう光りが言う?囁く?と、
「つまりは、君はこっち側の人間、モコと君をお互いを守るために地球にいた、次は君たちでこちら側の世界を守る番だってこと。ちなみにモコは本当は犬じゃないからね」
(は?)
すると途端に映像が切れ、薄暗闇の世界がスゥーッと広がった。モコは3歳くらいのぽちゃぽちゃほっぺのタヌキみたいな顔をした、ケモ耳と尻尾のついた男の子になっていた。
「えっ!?は!?マジで?なにが?え?」
光りは、「さっきも言ったように、もうあまり時間がない。出来るだけ早くまた会いに来るから。だから、君も協力してね。その時にまた…」というと、パッと光りはなくなった。
協力って何を…という俺の心配を他所に、気付くと俺は嬉しそうにニコニコとこっちを見ている猫耳ならぬ狸耳のモコと手を繋いで、見知らぬ森の入り口に立っていた。
え、なにソレ。どーすんのコレ。
人間、衝撃的なことがあると意外と冷静なもので、俺は心の中でケータイ代と光熱費分の口座引き落とし分が足りなかったよなとか、空き缶のゴミ出し明日だったのになとか、あのアニメの3期決定したのに見れなかったなとか、そんなことばかり考えていた。
「たかふみィーーー!!」
と、モコが尻尾をぐるんぐるんとぶん回しながら抱きついてきた。
意外と冷静なんて嘘だ。
ヤバい、パニックだ。
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