「はい?」
「ん? その子はフェンリルですよね?」
モコは俺の後ろに隠れ、警戒している。
「え? いや、この子は私の息子ですよ?」
俺がそう言うと、オーガスタスは不遜な笑顔を俺とモコに向けた。
「そういうことなら、今はそうしておきましょう」
「………………。 何か勘違いされてるようですよ?」
「フッ。 ではご挨拶はこのくらいにして、王の元へ参りましょうか」
心臓がバクバクする。 でも、いざとなれば移動魔法で逃げることも出来るんだ。 今はとりあえず、様子見するか?
オーガスタスに着いていくと、城内は絢爛豪華そのもの。 城なんか生まれて初めて入ったから比べようがないけど、圧倒される。
王の間へと入ると兵士が綺麗に整列していたが、顔まで覆う全身の甲冑を着ているので、全く顔が分からない。 その無機質さが怖かった。
「たかふみぃ……」
不安そうにモコは、手を繋いでいる俺を見上げている。
「大丈夫だよ」
そう言って俺はモコを抱き上げた。
玉座には、これまたイメージ通りの恰幅の良い老人が座っていて、長く真っ白な髭を蓄えている。
顔は……、暗くてハッキリ見えないが、なんか様子がおかしい。
「そなたが海竜を倒したものか?」
王が俺に問いかけるが、どうも目が泳いでいるような気がする。
「はい。 私はハヤシと申します」
「そうか。 お主の武勲は聞いておるぞ。 海竜は稀でな、素材としても最高なものだ。 お主に感謝しておる者は多いぞ。 ワシからも改めて礼を言うぞ。 して、その子は?」
「モコと言います。 私の息子です」
「フム」
そう言うと、王は俺を一瞥した。 モコには興味が無さげだけど、どういうことだ? それにしてもやっぱり目がおかしい。 濁っている。
「そなたにわざわざ城まで来てもらったのは、褒美を取らせるためだ。 アレを」
王の一言で、銀の盆に載せた何かを従者が俺に差し出した。
俺が固まっていると、王の隣にいるオーガスタスが言った。
「さぁ、遠慮せず受け取ってください」
よく分からないが、宰相が玉座に座っている王の隣に立つことって許されるのか?
普通、一段下がったところにいなきゃダメなんじゃないのか?
おかしい、怪しい。
「さぁ、受け取ってください」
従者が俺に笑いかけるが、やっぱり目がおかしい。 コイツも目が濁っている。
銀の盆に乗っているのは、金のネックレスだった。
「さぁ、早く」
ニィーーーッと歯を見せ、従者が笑う。 ホラー映画のように。
これ、触って大丈夫なのか?
俺がネックレスを取ろうかどうしようが迷っていると、抱っこされていたモコが俺の耳元で囁いた。
「たかふみぃ、しょれ、こわいこわいの」
「え? うん……」
従者がさらに俺に近づき、「さぁ、さぁ」と迫る。
その瞬間、俺はモコを抱っこし直すフリをし、その反動で従者の腕を小さく振り払った。
カシャン!! と大きな音を立て、銀の盆ごとネックレスが床に落ちる。
「あっ……!!」
という小さな従者の悲鳴と同時に、ネックレスはウネウネと動き出し、大きな蛇へと変わり、整列していた兵士たちが一斉に俺たちに向かって襲いかかってきた。
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