異世界のんびり放浪譚

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第65話 バターチキンカレーの男

公開日時: 2022年4月26日(火) 23:47
文字数:1,822

 ダンジョンから出たモコは、疲れ切っていた。

 呆然としている、と言った方がいいかもしれない。 俺も自分ではいまいちピンとこないけど、死ぬところだったみたいだし、身体がだる重い。 腰も重いし……。

「アンタ、自分のステータス見たほうがいいんじゃないの?」

「あぁ、レベル上がるってモコ言ってたもんね……」


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 林ハヤシ 孝史タカフミ

 年齢 :31

 レベル:87

 HP :8728

 MP :877

 魔法 :火魔法 氷魔法 水魔法 雷魔法 土魔法 生活魔法 移動魔法

 スキル:アイテムボックス、鑑定、言語習得、インターネット→ネットスーパー・レシピサイトのみ

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「めちゃくちゃレベル上がってるんだけど!?」

「海竜だからじゃね?」

 ジョシュアは耳をほじりながら、まるで興味がないのか、悔しいのか、つっけんどんに言った。

「っていうか、こんなに上がるもん!?」

 モコだってSランクのキマイラキング倒したってレベル52だったのに……。 まぁ、そりゃ、キマイラキングより海竜のほうが経験値凄いってことなんだろうけど。


 あれ??? 雷と土魔法は海竜のダンジョンでいつの間にか習得してたんだけど、移動魔法って!?!?

「ねぇ、移動魔法が使えるようになってるよ! これ、ナニ!?」

「移動魔法!?」

 ジョシュアが耳に指を突っ込んだまま、目ん玉をひん剥いて驚いている。

「移動魔法が使えれば、一度でも行ったことがある所なら一瞬で移動することが出来るんだ……」

 面白くなさそうに、ジョシュアが言った。

「え、じゃあ、村に帰ろうよ!」

「はぁ? 嫌だよ、そんなの!! 人がどんな思いで出てきたと思ってんだ!」

 断固としてジョシュアが拒否するので、俺たちは村に帰れなかった。


「たかふみぃ、モコ、もうおなかすいたの……」

 大人しくしているのかと思いきや、モコは空腹でこころなしかげっそりしている。

「あぁ、ごめん、ごめん! 早く街に帰ろうか」

「モコ、もうあるけない」

「えぇ!? じゃあ、もうしょうがないね。 今日はここでテント張ろうか」

「うん。 あのね、モコね、カレーライスたべたいの……」

 あれ、大丈夫か? モコは身体を丸めて横になろうとしている。

「モコ、お布団出してあげるからちょっと待ってな」

 俺がテントと布団を用意していると、モコは青ざめた顔でじっと見つめてくる。

「モコ、先にお菓子とかパンとか食べる?」

「ううん、いらない。 ごはんたべたいの……」

 やっぱり復活の魔法って、モコでもかなり疲れるシロモノってことか……。


 時間かけて作ってる場合ではないし、俺も本調子ではなかったので、ルーを使った簡単バターチキンカレーにすることにした。

 これだとトマト缶とかいらないし、鶏と玉ねぎだけで出来るからお手軽だ。

 まぁ、使うのは鶏ではなくて、ダークワイバーンなんだけど。

 解体と一口大サイズまでのカットをジョシュアにお願いし、俺はひたすら玉ねぎを切り、米のストックも無くなってきていたので、研いでは炊き、研いでは炊き、を繰り返す。

 ジョシュアが手伝ってくれた一口大のダークワイバーンに塩を振り、皮目を下にしてフライパンに並べ、パリっと両面が焼けたら一旦フライパンから出す。

 コンロなんて三つあれば充分だったのでは? と思ってたけど、この日は七つのコンロをフル活用だ。

 ここまできたら鍋にバターとにんにくチューブ、スライスした玉葱を入れ、しんなりするまで炒める。

 そこにダークワイバーンを戻し、牛乳を入れ弱火で煮込めば出来上がり!

 本当は三十分くらい煮込みたいところだけど、モコが限界を迎えそうだったので、すぐ食べることにした。

「モコ、ジョシュア、出来たよ〜」

「はぁい……。 いたらきます……」

 モコはぐったりしながらのそのそとテントから這い出し、席に着く。 そして一口食べると、徐々に気力を取り戻していった。 徐々に火がついたように食べ、最終的に四十八皿食べた。

「モコ、もうねんね……」

 デザートも食べずモコはそのまま寝てしまい、俺とジョシュアはモコ用に皿に出しておいた干し芋をドカ食いした。

 ヤバい、これじゃあ、また太るな……。


 次の日ギルドへ依頼の完了報告に行くと、俺が海竜を倒したことでちょっとしたパニックが起きることになる。


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