「――フィーちゃんがまた倒れたって本当ですか? あれからまだ半日も経っていないはずなのですが」
「マルペル様、お待ちしておりました。申し訳ありません。ワタクシめがついておきながらこのようなことになってしまい、不甲斐ないばかりです」
「ああ、オキザリスちゃん。そんなにしょんぼりした顔をしないでください。あまり詳しいことを聞いていないのですが、一体何があったのですか? フィーちゃんの容態を見せていただけますか?」
「はい、お嬢様は……ご覧の通りの有様です。何があったかを口頭で申し上げることは難しいのですが、まずはお嬢様を診ていただければ……」
「こ、これはどういうことですか? 何か悪いものでも……幻覚系の毒物にでもあたったのでしょうか。完全に白目を剥いちゃって、ええと何て呟いてるのかしら。こんなにまで正気を失っちゃって……本当にフィーちゃんに何があったの?」
「お嬢様は毒を盛られたわけではございません。それはワタクシめが保証いたします。単刀直入に申し上げますと先ほどミモザ様の――」
「あ、フィーちゃん、突然どうしたの!? はしたないからそんな格好で踊っちゃダメですよ。タンスの上から降りてきてください! どうしちゃったのフィーちゃん! フィーちゃん! そんなことしたら汚いですよ! そこはそういうことをするためのものじゃありません! やめなさい! フィーちゃん、めっ! めっ! ですよ」
「――失礼致しました。今のはワタクシめの失言で御座いました」
「いつもはあんなに大人しい子なのに……これではまるでお猿さんみたいじゃないですか。悪い魔法使いさんに呪いを掛けられてしまったのでは――――痛いっ、痛いっ、フィーちゃん、か、髪の毛を引っ張らないでください! ダメ、ダメですって! 私、そろそろ怒っちゃいますよ!」
「マルペル様、どうか今だけはご容赦下さい。今のお嬢様はミ――ご親友に拒絶され、心神喪失状態なのです。名前を耳にするだけでこのような有様でして……少しは落ち着いていたとは思っていたのですが……」
「親友ってミモ――あの子のことですか? いつも微笑ましいくらいに仲睦まじいお二人に何があったんですか。ああ、フィーちゃん、下着は食べ物じゃないですよ。いいからタンスから離れなさい」
「ワタクシめも突然のことで少々驚きましたが、先ほどご親友のお店に立ち寄った際、一言二言を交わした後、その場で門前払いを――お嬢様、お嬢様、花瓶は飲み物ではありませんよ。お水なら後で差し上げますからベッドにお戻りください」
「「「お嬢様、お嬢様、ベッドへ、ベッドへ。どうぞ、お休みくださいませ」」」
「ふぅ……こんなになってしまうなんて、お二人はケンカをしてしまったのですか? 私にはとてもとてもそうは思えないのですが。変なことを言ってしまったとか、つい何気ない言葉で傷ついてしまったとか、心当たりはありますか?」
「ワタクシめには分かりかねます。お嬢様もミ――ご親友様もいつもと変わりない言葉を交わしていたはずですが、そもそも玄関口でも既にご親友様の様子はおかしかったように思いました。マルペル様は先にご親友様のお店に立ち寄られたのですよね。その際に何かお気付きのことはございませんか」
「ええと、私がミモ――あの子の店に行ったときは、実はあの子には会えてなくて、玄関越しにフィーちゃんのお見舞いに行ってあげてくださいねーって、だけ。だから変わった様子とかは、正直分からなくて……」
「そうですか……」
「お~い、フィーが大変だって聞いたけどどうしたの~?」
「ダリアさん? どうしてここに? 今日も巡回だったのでは?」
「あ~、いや、近くをちょっと通りかかったらここの屋敷の使用人たちが不穏な顔でコソコソ話してたから訊ねてみただけ。そしたらマルペルもいるっていうから顔を見せにね」
「ダリア様、わざわざ様子を見に来ていただいてありがとうございます。お嬢様は今、そちらのベッドで安静にしていただいております。今しがた落ち着いたばかりですので、どうかお静かに」
「あー、オキちゃん久しぶり。レッドアイズからこっちに来たんだってね。アンタも大変よね、色々と。さて――――何これ、悪質な幽霊にでも取り憑かれたの? 服も乱れてるし、髪もボサボサだし、これじゃあまるでミモ――むぐぅ!?」
「申し訳ございません、ダリア様。今はその名前だけは口に出さないでいただけますでしょうか」
「ごめんなさい、ダリアさん。ちょっと今、フィーちゃん、あの子の名前に敏感になっちゃってるみたいで」
「――ぷはっ! なになになによ、急に二人して。フィーの奴、何かしでかしちゃったわけ?」
「それは分からないのですが、オキザリスちゃんたちの話を聞く限りではケンカをしているみたいなのですよ」
「喧嘩かどうかはワタクシめには分かりかねます。ですが、お二人の間に何か軋轢のようなものが生じていることには違いないでしょう」
「ケンカぁ? ってか、どう考えてもフィーの方からって感じじゃないでしょ。この子、一言でもあの子に暴言なんて吐きそうにもないし」
「何かボタンの掛け間違いがあったんじゃないでしょうか。フィーちゃんの何気ない言葉が刺さったのかも……」
「ワタクシめもそのように思います。お嬢様は普段通りの態度でしたし、特別に何か暴言と言えるようなことを発したとは記憶しておりません」
「あ、あのぅ……よろしいでしょうか?」
「ん? キミは? キミもここの屋敷のメイドちゃん?」
「はい、チコリーと申します」
「チコリーちゃんね。そんで、どうしたの?」
「はい、先日のことですが、実はフィーお嬢様が倒れる直前に、その、ご親友の方と偶然ですが私もご一緒させていただいておりまして」
「一緒にいたの!? じゃあさ、そのとき二人はどんな様子だったの? というかそのときの話をもうちょっと詳しく!」
「ええと、どういった経緯があったのかは知りませんが、フィーお嬢様はオークション会場におられまして、そのときにミモ――ご親友の方はたまたま私と一緒に途中から通りがかっただけなのですが、その様子を見ておりました。しばらく見ていましたら、フィーお嬢様も疲れてしまっていたのか、よろけてしまい……」
「なるほど。フィーちゃんから聞いた話と一緒ですね。それで、チコリーちゃん。それからどうしたのですか?」
「そこでご親友の方が飛び出して、お二人は久しぶりの再会を果たしました。一言、二言ですが、簡単な会話をしました。すると、フィーお嬢様が気を失ってしまいまして、私もミ――親友の方も慌てまして……二人でお屋敷までフィーお嬢様を運んだのです」
「お嬢様を運んできたのはチコリー先輩と親友様だったのですか」
「私と同行していた時からだったのですが、ご親友の方はとても暗い顔をしておりました。フィーお嬢様と再会して元の明るい顔に戻ると思いましたが、フィーお嬢様が気を失ってからはまた何かを思い詰めるように、終始酷く酷く暗い顔で……」
「うぅむ、なんか聞いた感じだとフィーのせいだけってわけでもなさそうね。こうなったら私らが直接聞きに行くしかないんじゃない? 寝込んだままのフィーを放っておけないしさ、ミモザちゃんのとこに行きましょ」
「あ、ダリアさん」
「ダリア様、それは」
「ああ……っ」
「え? え? 何? ――うひゃあっ! フィー、あんた、なんで急に私のおっぱいを――ふぎゃぅ! ちょ、乳首に噛みつくなっ!」
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