レッドアイズ国の第一王子に求婚されてしまったのだが、これは一体どういうことなのだ? 我はどうしたらいいのだ? こんな時どんな顔をすればいいのだ?
大体だな、今の我は人間どもにとっては少女の姿なのだろう?
これまで散々見向きもされなかったし、街の荒くれ者ですらスルーしたのだぞ。
ますますどういうことだ。少女にプロポーズするなんて。何なの? そういう趣味なの? これって、もしかしなくてもアレなのか?
へ、へ、へ、変態だーー!!!!
変態ロリコン王子だーーーーっっ!!!!!!
「兄上、フィーさんが顔真っ赤にして固まってますよ。ちゃんと説明をしないと」
「ああ、すまない。少し途中を端折りすぎたみたいだな」
「はぅぁぅぁ~……フィーしゃんが結婚……王子しゃまと……」
「オホン。これは政略的結婚だ。レッドアイズ国の王子であるオレが、亜人と結婚することによって、人種の垣根を越えた平等のシンボルとなる。それがオレの父上の考え方だ」
「あ、え、あ、う? いや、そんなこといきなり言われてもだな」
「ああ、唐突なのは分かっている。しかし、このパエデロスにはミモザちゃんやキミの他にも人間とは呼ばれない種族が息を潜めるように住んでいる。迫害され、追いやられた者もいると聞く。そんな彼らを追い出すなんてできるわけがない」
パエデロスは何者も拒まない街だった。それは今でも変わらない。
それによって街の治安は悪い方へと転んでいったことも我は知っている。
だが、勇者ロータスの粉骨砕身によって改善されているのが現状だ。
発展途上と呼ばれた街が一つの国家となる。おそらくそれはロータスにとっても、この街の多くの住民にとっても悲願だったに違いない。
それを支援している国、つまりはレッドアイズ側のお国の事情によって種族差別に晒されるとは皮肉にもほどがあるのでは?
その問題はそっちで解決しておいてほしいのだが。
そこで王子が異種族との婚姻することによって国民にもアピールがするわけか。
この国はあらゆる人種も受け入れる平和な国家だと。
そこまでは、一先ず百歩譲って、そこまでは理解しよう。
「いやいやいや……だからといって、何故我なのだ? 他にもおるであろう?」
「言っただろう? キミの噂は我が国にまで届いているというこの事実を重く受け止めるべきだと」
我ってば、そこまで目立つことをしてたのかなぁ。
そりゃあパエデロスでは結構なこと散財はしてたのは事実だが。
「キミは自覚していないのかもしれないが、キミには財力も名声もある。パエデロスで最も大きな屋敷を構えているのは誰だ? キミだ。パエデロスで最も名のある令嬢とは誰だ? そう、キミだ」
「そ、そんなことは……ないと思う……のだが」
心当たりがないと言ってしまえば、白々しい。
調子に乗ってデッカい屋敷を建ててしまったのも事実だし、不本意ながらミモザの店でも看板娘として顔を売ってしまっているところもある。
冒険者の集う街において、魔具店のような場所こそ一番名も顔も売れる場所といえるのかもしれない。
そうでなくとも、ミモザの店のバックアップも結構してきていたしな。
好奇心、興味本位で移民してくる貴族どもと比べられてしまえば、パエデロスに出資しまくっている我は遠くの国にも名前が届いて当然だったか。
「フィー。ああ、分かっている。これがあまりに一方的すぎるということは。だから今すぐ返事をくれとは言わない。フェアじゃないしな」
そら、買い物ついでのプロポーズとか聞いたこともないわ。
「それに、結婚と言っても直ちにオレの国の妃となるわけでもない。あくまで形式上なんだ。異種族差別をなくすシンボルとしてのな」
「だからここで、はいと頷いてもフィーさんの生活が変わることはないんですよ」
キラキラとしたお目々でコリウスが続けてくる。
それはそれでまた複雑なんだが。キミたち乙女心って知ってる?
なるほど、まさに政略的結婚だな。
そもそも、パエデロスを国家にしようという取り組みと、レッドアイズ国の支援の話も何処か作為的な香りがする。慈善事業じゃあるまい。
レッドアイズは軍事国家で、兵力に国家予算の大部分を割いている。その一方で高度成長しつつあるパエデロスは今まさに金の巡る土地。
今のうちに支援しておけば、レッドアイズとは同盟国となるだろう。
我、知ってるからな。
魔王軍に進撃してきて、どれだけの犠牲を払ったか、我、知ってるからな。
だって、我の命令でレッドアイズの軍を蹴散らしまくったんだから。
おそらくはレッドアイズも財政面では困窮している。
だからこそ、この計画を打ち立てて、政略的結婚までこぎ着け、パエデロスと同盟を結ぶことによって財政難を解消しようと企んでいるわけだ。
この王子二人が何処までを理解し、把握しているのかは分からないが、この政略的結婚には我がキーパーソンであることは揺るがないのだろう。
あっれ~? 我、令嬢として忍び込んでる身じゃなかったっけ~?
住民にも知れ渡り、勇者にも正体がバレ、遠方の王子には求婚され……何一つ忍んでいないではないな。むしろ国を動かす重要人物じゃないか。
自業自得なのは分かっているが、悲しくなってくる。
この結婚、イエスかノーかで言ったらノーに決まっている。
なんだって我の城に攻め込んできた国の王子と結婚せねばならんのか。
あまつさえ、平和の象徴になれとか言われてるのだぞ。
ノーだ、ノー。絶対的にノー。
「今日は急な話をして申し訳なかった。オレも少し急いていたのだ。日を改めて、今度はもう少しロマンティックにプロポーズさせてもらうよ」
「ふ、ふんっ! 我目当てではなくお国の意向の結婚などなびかぬがな」
おとといきやがれってんだ、残念イケメン王子ブラザーズめ。
「いや、オレはフィー、キミのことを魅力的な女性だと思っているよ。今日会って、それを確認することができた。嘘偽りない愛を育みたい……そう思うくらいにね」
やっぱり変態だーー!!!!
変態ロリコン王子だーーーーっっ!!!!!!
「それじゃあ今日のところはこれで失礼する。ミモザちゃん、悪かったね。キミの魔具はオレの軍でも大切に有効活用させてもらうよ」
「ミモザさん、それとフィーさん、また会いましょう。結婚のことはなしにしても、ボクとお友達でいてくれたら嬉しいな、なんて……あはは。じゃあね」
そういって王子二人と、付き人はミモザの店から去っていき、颯爽と馬車へと乗り込んでいく。パエデロスの連中など、ポカーンとしてしまっているぞ。
最も、今一番ぽかんとしているのは、ミモザなのだが。
「フィーしゃん……結婚……王子しゃまと……愛を……」
おーい、ミモザ、帰ってきてくれー。
「今度はちゃんとしたプレゼントを用意してこよう。サラバだ!」
馬車の窓からウィンクを決めて、馬車が走り出していく。
店の前で注目を浴びる我。店の中で変な世界を見てるミモザ。
使用人どもも硬直しているし、客たちも事情が分からず戸惑っている。
なんで王子が、どうしてお店に、一体何が。そんな言葉が途切れ途切れに雑踏の中から飛び交ってくるのが聞こえてきた。
嵐のように現れて、嵐のように去っていきよって。
こんな空気を残して、我にどうしろというのか。あのはた迷惑兄弟め。
結婚とかいきなり言われてもなぁー。
人間どものいざこざとかはどうでもいいのだが、よりにもよってこの我と人間が婚約を交わそうなどとは片腹痛いぞ。
とんでもないことになってしまったな。
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