勇者パーティーから追放されたオレは、最低パーティーで成り上がる。いまさら戻って来いと言われても、もう遅い……と言いたい。

量産型
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5-3.1流なのは強化術だけじゃないんだ!

公開日時: 2021年5月11日(火) 18:10
文字数:1,664

 このトラシュの森のダンジョンの上層ともなると、なかなか手ごわいモンスターが出現する。



 ゴブリンやコボルトならまだしも、ウェアウルフやらスプリガンなんかになってくると、新米冒険者はまず相手にできない。



 アルラウネなんかが出てきたら、熟練の冒険者でもそこそこ手こずることになる。



 まぁ、アルラウネは裸の少女の姿で誘惑してくる習性があるため、出て来てくれるだけなら、眼福眼福で済むのだが。



「いた」

 と、オレは前方を指差した。



 広間。



 巨大なカイトシールドをかぶるようにして、丸まっている生命体がいた。ふつうの人間なら、それは新種の亀かと思うことだろう。



 デコポンである。



 周囲には3匹のウェアウルフがいた。盾を小突いたりして不思議そうにしている。幸いにも人間と認識していないようだ。



「あれが、ナナシの仲間なの?」



「《炊き立て新米》パーティの一員だ」



「ずいぶんとフザけたパーティ名ね。すぐに助け出すわ」



 フザけた名前ということは、たしかにオレも、うなずかざるをえない。



「強化術は?」



「必要ないわよ。ウェアウルフ3匹ぐらい、一瞬で片付けてやるわ」



 勇者は通路から駆け抜けた。



 前傾姿勢となり、剣を抜く。払い切り。まずは1匹が上下に切断されていた。



 残り2匹が勇者の存在に気づいて、腕を振り上げた。

 その鋭利な爪がふりおろされる。



 勇者はその場で姿を消した。消えたように見えたというだけだ。

 ウェアウルフの背後に回っている。背中から斬りつけた。



 2匹ほぼ同時に、その場に倒れ伏した。

 ウェアウルフのカラダから血のかわりに、魔結晶がカランコロンと乾いた音をたてて、コボれ出ることになった。



「余裕ね。ドヤっ」

 と、勇者はオレのほうを振り向いてくる。



 まぁ、たしかに見事な手際である。が、素直にホめてやる気にはなれない。ひとたびホめてしまえば、付け上がった態度に出るに違いないのだ。これ以上、勇者を増長させないことこそが、世界のためである。



 瞬間。

 壁面から蔓がムチのようにしなって、勇者にむかって伸びてきた。



「危ねェッ」



 強化術。劫火の纏衣まとい



 勇者のカラダを包むようにして、漆黒の炎が燃え上がった。伸びてきた蔓に燃え移って、その場に焼け落ちていた。



「強化術だけは、相変わらず1流ね」



「オレが1流なのは、強化術だけじゃねェ。顔と性格と人望とカリスマ性と芸術的才能と……」



「来るわよ」

 と、勇者がオレの言葉をさえぎった。



 壁面。少女がひとり出てきた。頭には桜色の花を咲かせて、手足の先端が蔓になっている。そして背中からは大量の木の枝が生えていた。

 アルラウネだ。



「くそぅ。もう誘惑してくれるつもりはなさそうだな。誘惑されたかったのに」



 誘惑してくるさいには、人とソックリの姿をしているのだ。



「なにを言ってンのよ、このヘンタイ。さっさと片付けるわよ」



「了解」



 駿馬の馬蹄。

 業火の刀剣。



 強化術を付与する。



 勇者。刀剣を脇に構えて、踏み込んだ。

 豪快ななぎ払い。

 赤い斬撃が、空間をいろどった。



 アルラウネは大きく後ろに跳びずさって、それをかわした。アルラウネの背中から生えている枝が、勇者に襲いかかる。



 勇者はそれをマッタク意に介することなく、アルラウネに突っ込んだ。



 枝が、勇者を貫いた。が、それは幻影。オレの強化術によって、生み出された幻である。勇者はすでに幻影よりも数歩先にいた。



 アルラウネを上段から斬りつけた。



 一刀両断。

 アルラウネは断末魔とともに大きな火柱をたてていた。



「はい、終わり――っと」

 と、勇者は何事もなかったかのように、剣を鞘におさめていた。



「怖かったのじゃー。助けてくれて、ありがとうなのじゃー」

 と、盾から顔をのぞかせてデコポンは、勇者に跳びついていた。



「よしよし」

 と、勇者は、デコポンをなだめていた。



 オレもチョットは助力したつもりなんだけどなぁ。



 まぁ良いや。そのあいだにオレは、回収できるだけの魔結晶を回収しておくことにした。



 勇者に譲るつもりはない。



 これだけあれば今日は食いつなげるはずだ。



 幸いと言っても良いのか、あの大食いのマグロが腹をくだして寝込んでいる。おかげですこし貯めることが出来そうだ。

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