勇者パーティーから追放されたオレは、最低パーティーで成り上がる。いまさら戻って来いと言われても、もう遅い……と言いたい。

量産型
量産型

3-3.まだ戻ってこいって言われてないよ?

公開日時: 2021年5月11日(火) 17:56
文字数:2,153

 背中におっぱいが、当たって気持ちいいいなぁ。



 筋肉痛で動けなくなったマグロを背負って、オレはダンジョンを後にすることにした。マグロは疲れたのか、オレの背中で眠りこけているようだ。この様子だとお尻を触ってもバレなさそうだ。



 女の子のカラダっていうのは、マシュマロみたいにやわらかい。



 丘陵のなかに伸びる街道を歩いて、都市ヴァレリカまで戻ることにした。



「マグロを助けてくれて、ありがとう」

 と、ニワトリ男が礼を言ってきた。



 真っ赤なトサカが、夕日を受けてますますトサカに見えた。



「テッキリ仲が悪いのかと思ってたよ」



「いや。オレはただマグロには冒険者になって欲しくなかったから、突き放したんだ。冒険者って死んだりしちゃうだろ」



 ウソではないだろう。

 ニワトリ男は身をていして、マグロのことをスケルトン・デスロードから助けようとしたのだ。



「本人は、置いて行かれたと思ってたみたいだぜ。チャント連れてってやれよ。マグロは良いヤツだ」



「ああ」



 背負っていたマグロを、ニワトリに押し付けた。



 あーあ。



 手駒になってくれそうな人材だったのに、惜しいことをした。マグロは《羽毛より羊毛》パーティに戻るのかもしれない。



 本人も戻りたいと言っていた。

 じゃあ残されたネミとデコポンはどうするのだろうか。まぁ、べつにオレの考えるところではない。どうにかするんだろう。



 都市。ギルドに戻る。



 オレはスケルトン・デスロードの素材を回収できるだけ、回収してきた。そこのところ抜かりはない。

 むろんニワトリ男にもマグロにも譲るつもりはない。



 3000ポロムの魔結晶と交換してもらうことが出来た。コブシ大ほどの魔結晶が、30個ほどである。くわえて、スケルトン・デスロード自身が落とした魔結晶もある。



 しばらくは生活していけそうだ。



 スライムの粘液集めのほうは、ニワトリ男が達成することになったようだ。



 それにしても、そろそろ勇者たちが、「ヤッパリ戻って来てくれ」と言ってくるはずなのだが、いまだにその気配はない。



 オレがいないあのパーティが、上手いことやっていけるはずがない。ならばなぜ、再勧誘の気配がないのか。



 ははん。

 さては今頃、『ナナシに戻って来てもらうか?』『でも、追放したヤツに頭を下げるなんてゴメンだ』と懊悩しているに違いない。



 こんなに優秀なオレを追放するなんて、あの愚か者たちめ。せいぜい悔やむと良いさ。ははは……。はは……。はぁ。



 とりあえず、宿に戻ろう。



 デコポンとネニにも、マグロのことを説明しなくちゃならないし、何よりあの女の子たちを、このまま手放してしまうのも惜しい。



 マグロがいなくても、あの2人をオレの駒にできるかもしれない。



 宿。

「うぉぉぉぉッ」

「バクバクバク、んぐんぐっ」

「むしゃむしゃむしゃ」



 怒濤のような咀嚼音のお出迎え。メッチャ既視感!



 デコポンとネニとマグロの3人組が、木造テーブルを陣取って、肉やら魚を食い散らかしていた。



「お前ら、メッチャ食うな! 特にそこの2人は、今日1日寝てただけだろうが!」



「んぐんぐんぐ」



「幸せそうだな。おい! で、マグロはなんでここにいるんだよ。《羽毛より羊毛》パーティに戻りたいって言ってたじゃないかよ」



「追い出されました」



「なんだ? また追放されたのかよ。あのニワトリ男、ぜんぜん反省してねェな。今度はどんな理由で追放されたんだ? オレが仲介に入ってやるよ」



 デコポンとネニのふたりは木造スツールに腰かけていたが、マグロは長椅子だった。となりが空いていた。そこに腰かけることにした。



「これだけ食うヤツを、まかなう余裕は、《羽毛より羊毛》パーティには、ないということであります。もぐもぐ。酷いのでありますね。んぐんぐ」

 と、マグロはサツマイモのハチミツ煮にかぶりついていた。



「いや、メッチャ正論だなッ」



「そういうわけで、マグロはこの《炊き立て新米》パーティでガンバっていくのでありますよ。マグロの作ったパーティですし、こっちの仲間も放ってはおけないのです」



「それは良い心がけだがな。今日の食費は大丈夫なんだろうな? なんか3人とも昨晩より食ってないか?」



 この皿の山はなんだ? なにを注文しやがった? 20枚ほど重なっている。



「食費の心配はありません」



「払えるだけの魔結晶があるんだろうな?」



「はい。スケルトン・デスロードの素材と、ヤツの落とした魔結晶を、ナナシィが持ち帰ったと聞いておりますので」



「いや、あれは今後の生活のためにだな……」



「強化術のおかげとはいえ、マグロも働いたのです。全身の筋肉痛を治すためにも、イッパイ食べる必要があるのですよ」



 おかわりッ、とさらに注文していた。



 当初の予定では、新米冒険者たちにあがめられて、チヤホヤされてヒモみたいな生活をする予定だった。が、現実は非情である。

 なんだかオレが生活費を稼いでるみたいになってない? まぁ、たしかにマグロの活躍があってこそなんだけどさ……。



「ナナシィ」

 と口の周りに食べかすをイッパイつけたマグロが、オレのほうに向きなおってそう呼んできた。



「なんだ?」



「今日はありがとうございました。これからもよろしくなのですよ」



「お、おう。オレのほうこそな」



 マグロは照れ臭かったのか、あわてたようにまた食事に戻っていた。まぁ、悪くない気分だ。



 こうなりゃヤケだ。

 オレも食事にありつくことにした。

読み終わったら、ポイントを付けましょう!

ツイート