アルウィンの向かう先は、
ここから遥か西にあるプロストウェインである。
多くの魔法使いが修行に行くと言う、魔法の街。
そこにいる賢者ネオラストを仲間にするのだ。
途中に出る魔物を切り払いながらも、
彼は歩いていた。
その時 ーー
「そこで止まれ」
「だれだ」
前には、赤革のコートをフードまで深く被った少年。
ベルトには細身の剣を携え、
腰から下はコートが大きく開いていた。
「俺の名前はケンリス。魔道剣士だ。お前が本当に勇者に相応しいのか、確かめてやるぜ!」
その少年は言った。
(何を言っているんだ?このガキは。魔道剣士など聞いたこともない。)
アルウィンは首を傾げる。
そして言った。
「俺はプロストウェインに向かうんだ。お前の様なガキに興味はない。」
「うるせえ!いいから俺と勝負しろ!」
アルウィンは思い出した。
この少年は、勇者選抜の試験にいた。
最後の魔法試験で落ちた奴だ。
魔法が使えなくて試験に落ちたのに、
魔導剣士と名乗るその少年。
(試験に落ちたと言うのに、何をいまさら?)
アルウィンは思い知らせてやらんと、
その決闘に応じる事にした。
「良いだろう。受けてたつ。」
「そう来なくっちゃな。いくぜ!」
少年が駆けてくる。
何度か切り結んだ。
剣術を学んでいるのだろうか。
刃筋がしっかりとしている。
まともに当たれば、分厚い革も切り裂くだろう。
「なんだよ。避けてばっかりなのか!?」
苛立ったようにケンリスが言った。
少し腹が立ったので、
アルウィンはケンリスの剣を振り払い、
隙を見て剣を突き出した。
すると --
あろうことか、
少年は開いている手で俺の剣を横から振り払った。
「チッ」
アルウィンは舌打ちをする。
すると、ケンリスは間髪入れずに
アルウィンの顎に向けて拳を突き出した。
アルウィンはなんとかかわす。
「流石だな。試験であそこまで残っただけの事はある。」
「なめてかかると痛い目みるぜ」
旅の途中で余計な体力を浪費するのは面倒である。
アルウィンはケンリスに得意の火炎魔法を放った。
アルウィンはかなり魔法が得意なので、
杖やタクトも、呪文を全文詠唱する必要もない。
「フェリア!」
手加減をしたつもりだったが、
アルウィンは思いの外強く打ってしまった。
もしかすると殺してしまうかもしれない。
アルウィンは少し焦った。
アルウィンの炎がケンリスを襲う。
その時、炎がケンリスの前で静止した。
そんなことはありえない。
アルウィンは混乱する
「俺は魔道剣士だって言ったろ?」
炎は静止したが、それは縦に長く伸びていた。
そして、アルウィンは驚愕した。
なんと、アルウィンが放った炎は、
ケンリスの剣に纏わりついていたのだ。
ケンリスは炎の剣となった剣で襲いかかってきた。
なんとかかわすものの、
その炎により、アルウィンの前髪が焦げる。
「なるほど。その能力は試験では発揮出来なかったという事か。」
アルウィンはそう言って、
僅かな時間を稼いだ。
それを察知したのか、
それまでヘラヘラしていた
ケンリスの目の色が変わった。
離れた位置から、
剣をアルウィンに向け大きく振った。
するとどうだろう、
剣の炎は実体となり、
刃と化してアルウィンに襲いかかった。
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炎はアルウィンの前で炸裂した。
「っしゃああ!!どうだ!!」
ケンリスは子供っぽくはしゃいだ。
しかし、ケンリスの笑みはすぐに消える。
炎がおさまったあとに、アルウィンはいなかったのだ。
近くまで行っても、誰もいない。
その時—
「残念だったな」
「な!?」
アルウィンの剣が、
後ろからケンリスの首にあてがわれる。
「くっそ……何しやがった!!」
「簡単なことだ。貴様の放った炎に、俺の炎をぶつけ、相殺した」
それで、アルウィンは炎に紛れて逃げたのだ。
ケンリスがナイフを抜くが、
すぐさまアルウィンに手首を蹴られ、
ナイフは弾き飛ばされる。
ケンリスはアルウィンを睨むが…
「分かった。俺の降参だよ。」
ケンリスは手を上げて言った。
「なら、とっとと帰れ。お前はキマイラ戦まで残っただろ。王宮騎士になって、ベルクデンを守れ」
百人近くが臨んだ勇者選抜において、
キマイラ戦まで残ったのは僅か十数人である。
アルウィンが言うと ーー
「断る」
「は?」
アルウィンは少し怒気をはらんでケンリスを睨んだ。
すると、ケンリスはあろうことか、
「俺を連れてけ」
と言った。
「断る」
アルウィンは素っ気なく言う。
すると、急にケンリスが真剣な面持ちになった。
「お願いだ。俺は魔王に家族を殺されたんだ。利害は一致するだろう?それに、戦って分かったと思うが、俺は強いぞ」
検討の余地がある。
アルウィンはそう判断した。
もしかすると、ケンリスのさっきの能力は
この先も役に立つかもしれない。
「その覚悟は本当か?」
「もちろんだ。」
アルウィンは試すようにケンリスの目を見た。
(こいつは…)
絶望と修羅場を知っている目だった。
「……良いだろう。」
「本当か!?ありがとう!一緒に頑張ろうぜ、相棒!」
アルウィンは、それほど悪い気もしなかった。
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