旅をしながら、アルウィンはふと思った。
ケンリスは魔導剣士と名乗っていた。
「お前、魔法は使えないのか?」
「使えるぜ」
「何が使えるんだ?」
「それは…これさ!」
そう言うと、ケンリスは深く集中した。
かなり時間がかかっている。
というか、それ以前に
呪文の詠唱をしていない。
これは異常なことである。
魔法を行使する方法はいくつかある。
最も簡単な方法が、魔方陣を使う方法だ。
その魔法についてのある程度の理解と
充分な魔力があれば、
特に技術のいらない方法である。
次に簡単な方法が、
呪文の詠唱。
慣れれば、全文を詠唱せずとも『フェリア』などの
主文のみの詠唱で行使できるようになる。
そして最も難しいとされているのが、
今ケンリスがやっている何もなしでの方法だ。
その魔法の魔力構造を完全に理解し、
頭の中だけでそれを構築する。
並の人に出来る事ではない。
アルウィンが不審に思っていると…
「それ!」
ケンリスの手のひらから魔力がアルウィンに放たれた。
「なんだこれは?急に力が…」
「体を強化したのさ。」
「そんな魔法聞いたこともないぞ?それに、無詠唱で?」
コイツにそんな頭があるのか。
アルウィンはにわかには信じられない。
「呪文にするのは、まだ無理なんだ。」
「悪い。何を言っているのかさっぱり分からない」
「この魔法は、俺が作ったんだよ。」
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話によると、ケンリスはなんども
魔力構造のイメージをし、
この魔法を作り上げたのだという。
「まだ、その魔力構造を言霊にすることは出来ないんだ。つまり呪文は無い。だから、いちいち考えなくちゃならない。」
確かに、自分で考えたなら、理解はしているだろう。
だが、魔法を1から作るのには膨大な魔力が必要だ。
「いくつの時に作ったんだ?」
「14。魔法を勉強してたけど、全然出来なかったんだ。魔力構造が理解出来なかったんだよ。だから、自分で考えた。」
「今はいくつなんだ?」
「17だ。」
「背が低いんだな。」
「うるせえよ!」
アルウィンはますます訳が分からない。
14のガキが魔法を作り出しただと?
そんな訳がない。
あるはずがない。
「もう一度、さっきのをやってみてくれ。」
「あいよ」
やはり、時間はかかるようである。
呪文がないから、仕方ないのだろう。
少しして、体に力が湧いてきた。
「ふん!」
アルウィンが地面を殴ると、
彼の歩幅ほどのクレーターが出来た。
それに、俺の拳には細かい傷が出来ただけだ。
「すげえだろ?」
「ああ。」
どうやら、
アルウィンはこの現実を
受け入れなければならないようである。
「とても便利な魔法だが…もう少し速く出来ないのか?」
「何か物に魔力と一緒に込めれば出来ないことも無いけど、使えるのは一回が限界だろうな。」
使い勝手は悪いようだ。
何か方法は無いのだろうか。
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随分と食いついて来たな。
勇者がめっちゃ迷ってる。
だけど、確かにもうちょっと使いやすかったらな。
「何かないのか? ……例えば、身につけてる物に込めて、定期的に魔力を供給するとか。」
と、アルウィンが聞いてきた。
「いや、ペンダントでやったことあるけど、魔力に耐えられなかったのか、壊れたよ。」
勇者がまた困った顔をしている。
しばしの沈黙。
「よし。プロストウェインへ急ごう。」
アルウィンが言った。
「どうしたんだ? 急に。」
「賢者ネオラストなら、何か分かるかもしれない。」
「その手があったか! よし、行こうぜ!」
その時 —
ボム!ボム!ボム!
3つの巨大な火球が2人のいた場所に放たれた。
2人は咄嗟に飛び退く。
「無事か!?」
アルウィンが聞く。
「大丈夫だ!」
「ガーゴイルか。」
アルウィンが見上げると、
空には巨大なガーゴイルが3匹舞っていた。
「勇者よ、滅びるが良い!」
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ケンリスもアルウィンも剣を抜いた。
火球がいくつも降り注ぐ。
「ケンリス、一匹も逃すなよ!魔王のもとに帰られると面倒だ!」
「了解!」
「愚か者め、まるで我らが逃げ出すような口ぶりだな」
リーダーとおぼしきガーゴイルが憤慨した。
そして、ひらりひらりと身をかわす2人に
痺れを切らしたのか、
3匹のガーゴイルが地に降り立った。
「おのれ人間めが……。ちょこまかと逃げおって。そんなことで我らから ぐはぁ!」
そのガーゴイルの喉に、突如として
ケンリスの剣が突き刺さる。
「ベラベラとうっせーんだよ!」
血を垂れ流すそいつの喉からケンリスは剣を抜いた。
「やりやがったな。もう容赦は無しだ!」
2匹のガーゴイルは一斉に襲いかかってきた。
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怒り狂った2匹のガーゴイルと身体強化された2人。
その闘気は凄まじく、
近くの動物や虫、魔物までもが逃げ出していた。
「セニテム!」
乱闘が続く中、時折アルウィンの治癒魔法が飛ぶ。
そしてアルウィンが上手く一匹のガーゴイルを切り捨てた。
すぐにケンリスの方へ行く。
「そっちに行くぞ!」
残るはリーダーのガーゴイル。
「私の部下を2人も破るとは。」
間髪入れずにケンリスが攻撃を叩き込むが、
あっさりと躱されてしまう。
「地獄で後悔するが良い!」
そう言うと、ガーゴイルの中で何が蠢いた。
すると、ガーゴイルのそれぞれの脇から
もう一本ずつ鋭い爪をはやした手が生え、
またガーゴイル自身も先ほどの2倍に膨れ上がった。
「なんてバケモンだ……」
ケンリスが怯むが、
「いくぞ!」
アルウィンの掛け声により立ち直る。
2人で向かうが、その斬撃のほとんどを躱される。
それどころか、
2人は少しずつダメージを蓄積し、
……アルウィンの魔力も尽きかけていた。
「ケンリス!これを奴に叩き込め!」
アルウィンの手に、白い魔力が収束されている。
「お、おう!」
ケンリスは剣を構えた。
「サントゥス!」
ケンリスの剣が、聖なる光に包まれる。
「いっけぇ!!!!」
剣を模した聖なる光がガーゴイルを襲い…
「なに!?体が…」
ガーゴイルを麻痺させる。
そこで、アルウィンが合図した。
「いくぞ!」
「うおおおおお!」
2本の剣が、両脇からガーゴイルの心臓を貫く。
「ぐぉおおおおおおおおおおお!!!!!」
ガーゴイルが…ばたりと倒れた。
2人はぜいぜいと息をつく。
「やったな…」
ケンリスが言った。
「ああ…!」
しかし次の瞬間…
ケンリスの剣の刃が、
音もなく崩れ、消えた。
「あちゃーー……」
「魔力に耐えられなかったのか。」
「そうみたいだな。 ……ありがとな。」
ケンリスは柄だけになった剣に感謝の言葉を呟いた。
「プロストウェインに武器屋はあるかな?」
ケンリスが聞く。
「魔法の街といっても、それくらいはあると思う。種類は少ないだろうが。」
「なら良かった。んじゃあ、さっさとプロストウェインに向かおうぜ。 ヘトヘトだ。」
「そうだな。」
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