「私の名前はネオラスト•リーガンです。どうぞお見知り置きを。勇者様の事については、既に存じ上げていました。共に旅が出来ることを光栄に思います。力を合わせ、魔王を討ち果たしましょう!」
「ああ。よろしくな。」
「よ、よろしく頼むぜ!」
長の仲立ちにより、2人は賢者と対面していた。
そして、
ネオラストの静かなる迫力にケンリスは押されていた。
だが、同時に安堵の表情も確認できた。
この人なら、俺の魔法を素早く使う方法が分かるかも知れない。
「そちらの少年は?」
「彼の名はケンリス。 自称魔道剣士だそうだ。」
「じ、自称……」
「なるほど。なぜ、そのように?」
「こいつは魔力を剣に纏わせることが出来るんだ。それに、新たな魔法も作り出している。」
「でも、呪文にできねぇから、いちいち時間がかかるんだよ。なんとかならねえか?」
ネオラストは考え込んだ。
魔力を剣に纏わせるなんてことが、出来るのだろうか?
「驚きましたね。まさかそのような者がこの世に存在するとは。その技を見せてくれませんか?」
「そうじゃな。わしも気になる。」
長もついてくることに。
「おう!」
4人は、街の外に出た。
「では、行きますよ。…風の精霊よ、刃となりて我に力を!ゲイル!」
透明の刃が光の歪みにより確認出来る。
そしてその刃がケンリスの剣に纏わり…
「いくぜ!」
剣を大きく振ると、
その刃が地面に大きな裂け目を入れた。
それから、ケンリスは深く集中して、
ゴガァン!
裂け目に拳を打ち込み、大きなクレーターを作った。
「どうだ!」
賢者ネオラストは、ぱちぱちと拍手した。
「いやはや、この様な剣技は見たことも聞いたこともありませんね。魔道剣士の名にふさわしいといれるでしょう。」
ケンリスは子供っぽく照れる。
「そこでなんだが、見ての通りケンリスは呪文の言霊にに魔力構造を組み込むことが出来ないんだ。何か方法はないか?」
アルウィンが聞いた。
ネオラストは考え込む。
「そうですね…魔法陣に魔力を込めるというのはどうでしょうか?魔法陣なら、魔力構造をある程度表すことが出来ますし、やりやすいのでは?」
「魔法陣か!!その手があったのかぁ!」
「はい。しかし、1つ欠点が…」
「なんだ?」
「魔法陣は、どうしても複雑になります。魔法陣で魔法を使うには、それを正確に描かなくてはならないので、それに時間がかかるのです。」
また、皆悩んだ。
ふと、ネオラストが言う。
「ケンリスさん、あなたの不思議な能力で絵を描く事はできないのですか?」
「絵?あ、そうか、一発で魔法陣が描ければ…」
「はい。そういう事です。円を描いてみてください。」
「分かった。………ふん!」
ケンリスの手の先に輝く円が現れた。
「おお!これなら、大幅に時間を短縮出来るぞ!」
ケンリスが言う。
「良かったです。これから、貴方の身体強化の魔法陣を作りましょう」
「そ、それはそれで大変そうだな。」
アルウィンが言った。
「徹夜になるかも知れませんね。」
「よし、やるぞ!」
ケンリスはやる気マンマンだった。
なにせ、賢者に自分の能力を認められ、
それを進化させようと言っているのだ。
アルウィンもその事は分かっていた。
「では、わしはテントを手配させよう。街の中でそんな危険な事はさせられんからな。」
「ありがとうございます。魔導書と大量の紙とペンもお願いします」
「承知した」
「しかし、本当にすごい能力ですね。まさか自分で魔法を作り出してしまうとは。」
「学校で習うやつが全然できなかったんだよ。 それで、自分で作ったやつなら出来るかなと思ってさ。 成績には、全く繋がらなかったけどな!ははは」
「それだけではありません。 剣に魔法を纏わせるのはどうやるのですか?」
「魔力に念じるんだよ。ここで止まれーって」
「全く分かりませんね。」
「同感だ。」
「でも、どうやって魔法陣を作るんだ?」
ケンリスが聞いた。
「魔法陣には、千を超える型があるんですよ。それを色々試し、組み合わせて作り、魔力構造を込めるんです。ただし、簡単なことではありませんよ。その魔力構造ににぴったり合うようにしなければならないのですから。」
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「やってみて下さい」
「おう。……ふん!」
紙に描かれた魔法陣に、ケンリスが魔力を放つ。
しかし、もう少しで魔法陣に入り込もうとしたとき、
魔力がはじかれてしまった。
「次は、786番のの型をここに組み込んでみましょう」
ネオラストが滑らかに羽ペンを滑らせる。
魔力を節約したいので、ケンリスの力は使わなかった。
「やってみて下さい」
「ふん!」
また失敗。失敗、失敗、失敗…
「魔力を供給しましょう。」
「ありがとう」
ネオラストはケンリスの背に手を当て、
魔力をケンリスに送り込んだ。
「さすが賢者だ。魔力には底がないのか?」
アルウィンが聞く。
「そんな事はありませんよ。」
失敗、失敗、失敗…
魔方陣の失敗作が描かれた紙は、
ケンリスの腰の高さまで積み上げられていた。
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日が高く登った頃 —
「やってみて下さい」
「おう」
ケンリスの手から魔力が放たれる。
それが、異様な速さで魔法陣に吸い込まれた!
「やりました!」
「おお!」
「いけた…のか?」
「魔法陣を使ってみて下さい」
ケンリスが少し念じると、
複雑な魔法陣が足元に展開され、
魔力がケンリスを包み込んだ。
歓声が上がる。
「やっ、た…」
倒れそうになるケンリスを、アルウィンが支える。
「よく頑張ったな…」
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目が覚めると、俺はベッドの上だった。
頭がズキズキと痛む。
「まだ動いてはいけませんよ。旅は明日からです」
「俺、どのくらい寝てたんだ?」
「丸一日といった所でしょうか」
「そうか」
「今日は大人しくしていて下さい。」
「ああ。その、なんていうか、ありがとな。」
「いえいえ、ケンリスさんの魔法は間違いなく役に立ちます。魔王討伐に必須でしょう。」
「ケンリス、目が覚めたのか」
「ああ。」
アルウィンも部屋に入ってきた。
「っていうか、ネオラストは大丈夫なのか?かなりの魔力を消費したんじゃねえか?」
「あのくらい平気ですよ。」
「さ、さすがだな…」
成績には1%も役に立たなかった魔法を、
勇者に、賢者に認められる。
よりいっそう、旅を頑張れるような気がした。
そして、何よりも、
ー俺は嬉しかった。ー
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