真事の怪談 ~辻斬り 四十九連斬~

月も隠れし夜闇の底で。あなたは怪異に斬り苛まれる――
松岡真事
松岡真事

第二十七斬 『庭虫』

公開日時: 2021年6月22日(火) 16:00
文字数:394

 

 若い人に話すのも恥ずかしいくらい昭和な頃の話であります。

 

 ある日、植木職人だった父が「痛ぇ痛ぇ」と しかめっつらで仕事から帰ってきました。

 虫にやられた、ちょっと取ってくれと言いながら地下足袋じかたびを脱ぎます。

 

 その脛元すねもとの辺りには、

 小さな髑髏どくろに針のような無数のあしが生えた虫が、食らいついていて。

 

「お、お父さん何、コレ、虫?」

「慌てるなィ。塩かけりゃ、ポロンと取れらァ」

 

 言われた通りにすると、本当に離れました。

 というか、塩をかけた瞬間スゥッと消えました。

 

 家々の庭には、そこだけにんでる虫が居るもんだ、何も不思議なことはェ――

 父は傷口に赤チンを塗りながら説明します。

 

「しかし、こんな虫が湧くくらいだ。あすこも、長くは無ェなァ」

 

 

 その通りでした。

 裕福そうに見えたそのお宅、実は家計が火の車で。

 半月後はんつきごに夜逃げをし、居なくなられました。

 

 

 機転をかせた父が剪定代せんていだいを早めに頂いていたので、

 ウチは事なきを得たそうです。

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