若い人に話すのも恥ずかしいくらい昭和な頃の話であります。
ある日、植木職人だった父が「痛ぇ痛ぇ」と しかめっ面で仕事から帰ってきました。
虫にやられた、ちょっと取ってくれと言いながら地下足袋を脱ぎます。
その脛元の辺りには、
小さな髑髏に針のような無数の脚が生えた虫が、食らいついていて。
「お、お父さん何、コレ、虫?」
「慌てるなィ。塩かけりゃ、ポロンと取れらァ」
言われた通りにすると、本当に離れました。
というか、塩をかけた瞬間スゥッと消えました。
家々の庭には、そこだけに棲んでる虫が居るもんだ、何も不思議なことは無ェ――
父は傷口に赤チンを塗りながら説明します。
「しかし、こんな虫が湧くくらいだ。あすこも、長くは無ェなァ」
その通りでした。
裕福そうに見えたそのお宅、実は家計が火の車で。
半月後に夜逃げをし、居なくなられました。
機転を利かせた父が剪定代を早めに頂いていたので、
ウチは事なきを得たそうです。
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