真事の怪談 ~辻斬り 四十九連斬~

月も隠れし夜闇の底で。あなたは怪異に斬り苛まれる――
松岡真事
松岡真事

第四十七斬 『かんごふさん』

公開日時: 2021年7月12日(月) 14:00
文字数:395

 つとめはじめの頃はね。


 「看護婦かんごふさん」とか呼ばれると

 「看護師かんごしって言えよ」って


 心の中でぼやいたものですよ、実際。


 でもね

 本当に苦しいときに、高齢の患者さんから


 「かんごふさん、かんごふさぁん!」


 って呼ばれると、

 「看護師さん」って呼ばれる時より

 気が引き締まったです。


 自分の親か、それより年上の方が

 本気で自分を頼ってるんですから。

 当たり前ですよね。


 でもね。一度だけ 複雑な時がありましたね。


 虫垂炎ちゅうすいえんで入院した中学生の男の子だったんですけど。


 その子が、深夜になるとナースコールを連打して、

 狂ったように繰り返すんですよ。


「かんごふさん、かんごふさん、はよぅ助けれ、かんごふさぁん――」


 御家族によれば

 彼には一昨年おととし亡くなったお祖父様じいさまが居たそうで


 同じような言葉を 亡くなる前に繰り返しておられたようで・・・


 あ、その子は無事に手術も成功して、

 先月退院して行かれましたよ。



 〝看護師さん、ありがとう〟

 最後には 笑顔で言われました。

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