真事の怪談 ~辻斬り 四十九連斬~

月も隠れし夜闇の底で。あなたは怪異に斬り苛まれる――
松岡真事
松岡真事

第十三斬 『愚痴』

公開日時: 2021年6月8日(火) 16:00
文字数:383

 山ほど愚痴ぐちが溜まってるので、受け皿になって欲しいと頼まれた。


 愚痴の内容は、

 誰でも心当たりのあるような、

 ごくごく普通のものだったと思う。


 ふむふむナルホド。

 自分にもそういう経験ありますよぅ――


 などと相槌あいづち混じりに聞いていると、

 不意に後ろから声をかけられた。



「おい君!正気なのかッ、君!!」



 肩を強く揺すられ、ハッとなる。

 振り返った目の前に、顔面蒼白がんめんそうはくな知らないオジさんが立っている。


 周囲を見回すと、そこは先日痛ましい交通事故があった現場。

 亡くなったのは幼稚園児の女の子で、一帯には献花けんかや人形、ぬいぐるみが並んでいた。


「君は、このぬいぐるみと話をしていたんだぞ?大丈夫か!!」


 ああ、確かにこのクマさんには見覚えがある。

 愚痴を聞いて欲しいって言ってきた人だ。



 「じゃ、私はこれで」



 クマさんにそう言い残し、私はそこを後にした。


 あの時に聞いた愚痴の詳細は、何故か一向に思い出せなかった。


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