友人宅でトイレを借りたのだが、
ドアを開けた刹那、絶句してしまった。
水タンクの上から窓辺の縁、床の一部、洋式トイレの蓋の上まで、
たくさんのコケシが立ち並んで
こちらに細い視線を投げかけていたのだ。
こんなところで用足しが出来るか!
青くなって友人の部屋まで駆け戻り、「何だ、あの怪奇なトイレは」と文句を垂れると、
「あ、忘れてた。
必ず三回、ノックしてから入ってくれ」
苦笑混じりに言われる。
その通りにして入ってみた。
――先程までこちらを見ていたコケシが、
何故か皆そっぽを向いている。
「さぁ、適当にどかして便器を使っていいぞ」
後ろから友人の声。
「ノックしないで触ると、夢に出るからな、こいつら」
結局 便意そのものが引っ込んだ。
根はすごくいいヤツなので 彼との交友は続けている。
あの時のアレは手の込んだ冗談だと思いたいが、
無数のコケシから凝視された時の奇妙な圧迫感を
もう忘れることが出来ない。
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