父親の兄に当たる人―― 叔父のことが、昔ッから大嫌いでしてね。
学歴があるのか何か知らないが。親戚が集まる席になると、大声でうちの父についてダメ出しをするんですよ。
仕事のコトとか、昔の失敗のコトとか。私や母の居る前で、です。
父は根っからのお人好しでしたから。苦笑いを浮かべながら、無体な説教を甘んじて受け入れてましたっけ。
ある日、亡くなった祖父の法要の席で再び叔父と出会ったんですがね。
何故か彼は父と目が合うなり、
「今まで俺が悪かった!」って
しおらしく謝ったんですよ。
何でも、昨晩見た夢の中に顔面を紅潮させた激怒の形相の祖父が現れたそうで。
「お前の育て方を間違えた」
「人様に対する心構えが曲がっておる」
「あまつさえ、可愛がる筈の弟に対して度重なるあの仕打ち、何事だ!」
と叱責されたというんですね。
更に。
厭な寝汗びっしょりで起床すると、
何故か叔父の自室の時計とテレビの画面には夥しいほどのヒビが走っていたらしく。
「死んだ親父が本気で怒っている」と本気で戦慄したそうなのです。
「そうだったのか・・・
でも、いいんだよ 兄貴。
ぜんぶ水に流そうや。
たった二人の兄弟じゃないか」
「あ、ああ―― すまんかったな、本当に・・・」
そんなことがあった、数ヶ月後。
叔父は、落ちてきた植木鉢が脳天に直撃、という漫画のような事故が元で亡くなりました。
基本、日頃から誰に対しても尊大で薄情で。父に謝罪した後も他人に対する姿勢だけは改まらなかったような人でしたからね。葬儀に集まった親類達にも、どこか冷めた空気が漂ってましたよ。
――父だけが、ずっと号泣していました。
これは取材時からとても気に入っていた話で、もっとシェイプして四百字以内に出来たら絶対発表したかったのですが、実力が追い付かず、これ以上文字数を絞り切れませんでした。
それでいて一人称にしたい、これ以上言葉を足したくない、誰かに読んでほしい―― という我儘な思いもあって、その結果『返す刀』として収録させて頂きました。
叔父さんを嫌っていた息子さんの視点に固定することで、三人称にした時よりも お父さんの人情がドライな視線で見つめられ そしてそれゆえに読者へ訴え掛け、お父さんの優しさが心に染みる仕上がりになったと思います。
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