中学生の頃。
夜中の三時くらいに自宅玄関の呼び出しチャイムが連打されたことがあった。
誰か急な来客か?眠りを妨げられた家族全員が、寝ぼけ眼で玄関に集まる。
母が「どなたです?」と入口の厚いガラス戸の向こうへ誰何の声をかける。
そこで父が「母さん、ちょっと待て」と母を制した。
「ガラスの向こうに影が無い」
全員の眠気がぶっ飛んだ。
チャイムは未だ鳴らされ続けている。
するといきなり、父がお経を唱え始めた。
漫画か何かで知った「ぎゃーてーぎゃーてー」という文句があったので、
おそらく般若心経だ。
連打されていたチャイムが止んだ。
安堵の空気が、家族に流れた。
私は、「お経って本当に効くんだ・・・」とトンチンカンな感動を覚えていた。
あれから、かれこれ四半世紀あまり。
この時の話になるたび、父は言う。
――あの時、俺の口から勝手に出てきた知らない言葉。
あれは何かのお経だったのかなぁ? と。
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