真事の怪談 ~辻斬り 四十九連斬~

月も隠れし夜闇の底で。あなたは怪異に斬り苛まれる――
松岡真事
松岡真事

第二十八斬 『ミミグスイ』

公開日時: 2021年6月23日(水) 16:00
文字数:297

「ミミグスイ、いらんかね。

 ウッヒヒヒヒヒ・・・」



 ねっとりいやらしい、油ギッシュな中年ハゲ親父を想像させるトーンだった。



 中学の頃、下校途中の河川敷かせんじき近くで

 いきなりそんな声から耳元みみもとささやかれたことがある。


 ビックリして周囲を見回してみたが、誰もいなかった。

 一緒に帰っていた友達から、怪訝けげんな視線を向けられた。


 家に帰って、物識ものしりのお祖父じいちゃんに尋ねてみると、


「よくそんな古い言葉を知ってるな」と感心され、


「ミミグスイとは耳薬みみぐすりの意味。

〝ミミグスイいらんか〟は、

〝いい事を聞かせてやろうか〟

 という古い言い回しだよ」


 と教えてもらえた。



 あんな声から〝ミミグスイ〟は欲しくないな、と

 せつに感じた、少女時代の思い出なわけで。


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