真事の怪談 ~辻斬り 四十九連斬~

月も隠れし夜闇の底で。あなたは怪異に斬り苛まれる――
松岡真事
松岡真事

第四十九斬 『刃』

公開日時: 2021年7月14日(水) 14:00
文字数:399

 一歳下いっさいしたの弟と一緒に 田舎いなか祖父そふの家に遊びに行ったのは十二歳の時。


 井戸から水をみ上げるのがとても面白く

 何度も何度も釣瓶つるべおろして叱られた思い出がある。


 月日が流れ 俺も弟もいいオジサンになった。

 先日、弟が「あの田舎の家を覚えているか」と尋ねてきたので、

 ああ 井戸の家なァ—― と即答すると、

 あん時、じいちゃんが変な𠮟り方をしたのも覚えているか、と

 続けて問うてきた。



「あんまり井戸を使い過ぎると、

 釣瓶桶つるべおけに刀が刺さって上って来るぞな!」



 そんなん言われたっけ?俺は完全に失念しつねんしていた。

 弟は「何だろう そんな迷信でもあるのかな」と

 しきりに首をひねっている。



「実は うちの水道の水、最近妙に金属っぽい味になってきたんだ。

 そのせいか この頃やけに、あの時の言葉を思い出してさ」


 そんな水 飲むなよ。私は言った。

 うん ミネラルウォーター買うよ。弟は笑った。




 四日後 弟は風呂で手首を切って死んだ。


 何故なぜ何処どこにも 凶器となる刃物はものは見つからなかった。

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