一歳下の弟と一緒に 田舎の祖父の家に遊びに行ったのは十二歳の時。
井戸から水を汲み上げるのがとても面白く
何度も何度も釣瓶を下して叱られた思い出がある。
月日が流れ 俺も弟もいいオジサンになった。
先日、弟が「あの田舎の家を覚えているか」と尋ねてきたので、
ああ 井戸の家なァ—― と即答すると、
あん時、じいちゃんが変な𠮟り方をしたのも覚えているか、と
続けて問うてきた。
「あんまり井戸を使い過ぎると、
釣瓶桶に刀が刺さって上って来るぞな!」
そんなん言われたっけ?俺は完全に失念していた。
弟は「何だろう そんな迷信でもあるのかな」と
頻りに首を捻っている。
「実は うちの水道の水、最近妙に金属っぽい味になってきたんだ。
そのせいか この頃やけに、あの時の言葉を思い出してさ」
そんな水 飲むなよ。私は言った。
うん ミネラルウォーター買うよ。弟は笑った。
四日後 弟は風呂で手首を切って死んだ。
何故か何処にも 凶器となる刃物は見つからなかった。
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