真事の怪談 ~辻斬り 四十九連斬~

月も隠れし夜闇の底で。あなたは怪異に斬り苛まれる――
松岡真事
松岡真事

第二十三斬 『日課』

公開日時: 2021年6月18日(金) 16:00
文字数:318

 勤め先のきょくに、いつも同じ時間に来て同じ時間に帰っていく人が居る。


 きっちり五分間。

 何をするでもなくお客様用の椅子いすに座り、

 そしてスッと出て行く。

 日課にっかのように。


 ある日先輩に「あの人いったい何なんですかねぇ」と尋ねたところ、

「お前、あの人の姿とかちゃんと見えてるの?」

 尋ね返された。


「そうか、見えてるのか。

 俺には半透明にしか見えない。向こうの景色がスケスケだ。

 ぶっちゃけ、薄すぎて顔かたちすらよくわからんのだ」


 溜息ためいきをつかれた。


 ああそうか、〝生きてない人〟なんだ。

 納得した。

 そして


 喉仏のどぼとけのあたりにやけに大きな傷があるなァといぶかしく思ってたけど、


 それが死因―― 



 何だか胸のつかえが取れたような気がしてスッキリした。

 ふつう、あれくらいえぐれてたら死ぬもんな。

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